特集 二周年記念 

 

スギダラとまちづくり

文/ 吉武哲信
 
 
  祝2周年!
   
  2005年3月の吉野杉ツアー中、冗談のような会話から始まった月刊杉がついに2周年を迎えました。(参照 内田みえ編集長の06号「web版発刊半年間を振り返って」) ボランティアベースで、それも月刊で、機関誌(?)を発行し続けることは並大抵のことではないと思いますが、編集に携わられた方々や連載も含め寄稿された方々の熱意と努力・労力によって、またスギダラ会員だけでなく、多くの一般読者の支持があって、今回の2周年を迎えることができたのだと思います。改めて、関係者、支援者の皆さんに敬意を表します。「月刊杉はスゴイ!」「スギダラはスゴイ!」
   
   
  多様なスギダラ活動
   
  スギダラ倶楽部の発足は2004年で、今年で3年目を迎えます。発足以来、実に多くの活動が全国レベル、あるいは地域ベースで行なわれてきました。これらは概ねスギダラケ倶楽部HP、月刊杉、支部のブログで紹介されているので、時間があれば振り返ってみて下さい。あまりの情報量の多さに圧倒されます。(ちなみに、月刊杉を全てA4用紙にプリントアウトすると、厚さ114mmになります。)
   
  さて、過去の活動をざっと見渡して改めて感じるのは、その尋常でない多様性です。内容の多様性、担い手の多様性、地域の多様性・・・。
   
  実は、この多様性ゆえ、「スギダラは一体何がしたいんだろう」と(決して少なくない人たちに?)思われているフシがあります。実際に関わっている我々はあまりそのようなことは気にしていなくて、とにかく何かが共有されて、初対面でも懐かしいと思える人たちとつながっていける・・・。そしてそのネットワークがまた新たな活動を切り開いていく・・。もちろんその活動は地域社会への何らかの貢献となりうる・・・。我々は、このようなことの醍醐味を楽しんでいるというところでしょうか。でも、周りから見ると、「スギにこだわっているようで、こだわってない」スギダラの活動は、やはりわかりにくいかも知れないですね。
   
  「スギにこだわっているようで、こだわってない」スギダラの多様性について少し説明を加えると・・・その源は、我々が出発点とする「スギダラ宣言」と「杉とゆく懐かしい未来」にちゃんと込められていることに気づきます。それは、現代の日本や我々の生活が文明的・文化的に抱える問題・課題に対する本質的かつ普遍的な問いかけです。したがってそれは、実に多様な内容や解釈を生み出します。スギダラは本質的、普遍的で多様に解釈できる問いかけを、「スギ」を「フィルター」として見ることで、具体的なモノやコトに変換して実践していると言えないでしょうか?「スギ」は「目的」でなくフィルターであることが、多面的なアプローチを可能にし、多くの人の共感を得ることを可能にしたのだと思います。
   
  とはいえ、あまり難しく考えなくても、素材としてのみでなく、多様な人による多様なアプローチを可能にし、人と人を繋いでいくことが「スギの魅力」といえる。そのことが、我々が楽しみながら輪を拡げてこられたことにとても重要であったと再確認している今日このごろです。
   
   
  全国都市再生まちづくり会議2007「まちづくり大賞」受賞!?
   
  去る7月15,16日に東京で開催された「全国都市再生まちづくり会議2007(全まち会議)」に、「日本全国スギダラケ倶楽部宮崎支部(通称:ミヤダラ)」と「杉コレクション」が合同で、展示・発表を行ないました。会議のテーマは「連携」。市民、行政、企業、大学、専門家等の連携を発表・議論しようという主旨でした。その準備から発表、撤収に至るプロセスは、まさにスギダラの結束力と機動力が最大限に発揮されたものとなりました。関係者の皆さん、本当にお疲れ様でした。(この間のドラマについてはスギダラ倶楽部HP南のスギダラ北のスギダラのブログに紹介されていますので、そちらを是非チェックしてください!)
   
  そしてなんと・・・「まちづくり大賞」受賞!参加者の相互投票によって全78団体で最多票を獲得したのです。ドヤ街の再生や全国的に注目を浴びている地域再生の事例など、本当に長年、地道な活動されている団体がある中でちょっと申し訳ない気もしますが、それでも多くの人の賛同や共感を得られたことは大変ありがたいことです。
   
  まちづくり大賞受賞
  まちづくり大賞受賞!
   
  さて、「スギダラはまちづくり団体か?」と問われれば、「そうではないけど、そうでもある」という要領を得ない答えにしかならないのですが、では、何が「まちづくり」の文脈で評価されたのでしょうか?今回の会議のテーマである「連携」を手がかりに、それを思いつくままに挙げてみたいと思います。
   
 

・多様なメンバーの連携
全まち会議の時点でスギダラ会員数は630名だそうです。スギダラ会員の中にも個人ベースで活動されている方も多くおられますが、チーム戦を展開している本部活動や支部活動を見ると、実に多様な方々の連携が実現されていることに気づきます。デザイナー、建築家、クラフト作家、ライター、編集者、マスコミ、林業家、木材関連業、行政職員、エンジニア、プランナー、教員、市民活動の担い手・・・。専門知識と経験を持ち、また独自の人的ネットワークを持っているメンバーが多いのがスギダラの特徴ですが、団体戦を展開する場合は、活動テーマに応じて柔軟にチーム編成を行なえているといえます。これが「スギダラ流連携」の第1の特徴です。

   
 

第2の特徴は、この活動のほとんどがボランティアでなされていることです。専門家が専門的知識を総動員してボランティアしている上に、日常業務では縁がないと思われる別の業界・業種の専門家とコラボレートしているわけですから、新しくて面白いものが生まれないはずがない!

   
 

・多様な組織の支援
3つめの特徴は、個人間の連携のように見えながら、行政、企業、各種団体、大学等の組織の支援を要所で得られているということでしょうか。

   
 

「全まち会議」の中では「行政が動かない」等の発言をよく聞きましたが、スギダラ活動では必ずしも当てはまりません(もちろんそういうケースもありますが・・)。行政職員のスギダラ会員も、上で述べたようなボランティア的活動(よく「背広を脱いで」「ネクタイをはずして」といわれる非業務的活動)をされていますが、同時に、それぞれの担当業務に関連したアドバイスや、活動企画(ネタ)の提供も少なからずあります。

   
 

企業の支援もとても重要です。スギダラ(仮)本部が置かれている内田洋行には、スギダラ本部幹部である若杉、千代田両氏の個人的活動だけでなく、会社としてスギダラ活動を支援していただけていることはとてもありがたいことです。日常の情報発信はもとより、今回の「全まち会議」出展も、内田洋行の皆さんの直接的支援があってこそ実現したわけで、これもスギダラの強みとなっています。ここで全てを紹介することはできませんが、スギダラ活動を支援していただいている企業は多くあり、このことが、「全まち会議」出展団体の中で注目を集めた理由の一つだと考えています。スギダラ法人会員、協力法人の皆様、この場をお借りして感謝申し上げます。

   
 

各種団体の支援、あるいは団体との共同戦線もスギダラの特徴ですね。たとえば、今年で3年目になる「杉コレクション」は、宮崎県木材需要拡大推進会議および宮崎県木材青壮年会連合会主催、宮崎県県産材流通促進機構共催という、なにやら大きな大会ですが、ここには第1回目の企画段階から、スギダラ代表である南雲さん、スギダラ宮崎支部長の海野さんがずっと関わっていますし、スギダラ本部も後押しをしています。なんといっても審査委員長は内藤廣先生(やはりスギダラ会員)ですし・・。地域の団体とスギダラが一緒に、しっかりとコト興しやモノづくりができることは大切です。杉コレに関して言えば、スギダラは前面に出ていませんが、地元主催のイベント等を後押しできていることがスギダラの強みと言えないでしょうか。このような、地域の団体とスギダラとの連携・協調は、他の地域でも多く見られることだと思います。

   
 

大学を始めとする各種の学校の存在も大きい。スギダラには教員会員が少なからずおられますが、それぞれの学校の中で独自のスギダラ活動を展開すると共に、その地域でのまちづくりを支援したり、全国レベルのコンテストを開催・サポートするなど、地域内外での「連携」のハブとなっています。このような活動を通して学生会員も増えていっていますね。若い世代の教育も含め、世代間の連携も、このような場で形成されているのでしょう。
また、日向の富高小学校でのまちづくり授業は、小学校の先生を始め、県や市の多くの関係者の理解と協力を得られたからこそ実現したのですが、学校教育を通じて子供達とも協働できることはスゴイことです。この子達が高校生、大学生となったとき、連携できるスギダラ会員が現われれば、それはとても幸せなことだと思います。

   
 

・インターネットを活用した自律分散ネットワーク型地域活動
上に紹介したように、スギダラ倶楽部では実に多様なメンバーや組織が全国至る所で活躍しています。「全まち会議」の目的は、特定の地域を対象として活動している団体が、自らの活動内容を発信すると共に、他の地域の団体との情報交換や交流を図ろうとするものでしたが、スギダラは最初からそのような機能を内包していたわけです(この原稿を書きながら気づきました)。これが第4の特徴といえるでしょう。もとを正せばスギダラは、それぞれの地域やそれぞれのテーマで奮闘していた人たちが、ゆるやかな目標に共感して集まってできた団体です。だから、それぞれの地域が自立的・自発的な活動ができることは当然ですが、それを全国レベルのネットワークで支援し合い、より盛り上げたりブラッシュアップできたりできる。これもスギダラの強みですね。

   
 

そして、このネットワークはインターネット時代の賜でしょう。スギダラ倶楽部HPや月刊杉、各支部のブログは本当に内容濃く、遠く離れていながらも日常的に情報交換や相互支援が行なえ、お互いを刺激し合っています。会員登録もインターネットで簡単です。全まち会議の参加者の方々の会員登録も増えているようですね。

   
   
 

スギダラはどこへ行く?

   
 

さて、以上のように、スギダラの特徴はわかりました。で、もう一度、最初の問いに戻りましょう。「スギダラは何をしたいんだろう?」
日本全国スギダラケ倶楽部発足より3年、月刊杉発刊より2年、そろそろ今までの活動を振り返って今後の方向を見定める・・・という気持ちにかられる(?)時期です。おまけにナグモさんは月刊杉21号で「スギダラから杉をとったら何が残るか?」との問いを発し、「スギダラはもはやスギダラではない」と宣言してしまったし。

   
 

この原稿を書きながら改めて考えてみました。その結果・・・やはりうまい言葉がみつからない。どうもスギダラ倶楽部としては、「この問いを意識しながらもこの問いにしばられないところを歩いていく」ということなんでしょうね。(開き直って)むしろ積極的にこのことを打ち出していくべきかもしれません。

   
 

でも、それは特定の問題・課題に向き合わないということではありません。スギダラのメンバーは、それぞれがその地域や、その分野で問題意識を抱えながら活動してきた人たちです。スギダラがあって元気や知恵をもらえていることは確かですが、スギダラに全面依存しているわけでもありません。それぞれのメンバーがその地域や分野での問題・課題と向き合い、活動目標・内容を設定し、スギダラネットワークがそれを支援する。スギダラは、まさしく「自立した個人の自発的なネットワーク」であって、活動主体はあくまでもそれぞれのメンバーなのだと思います。(この考え方は、スギダラ活動の財源のあり方とも関連しそうですね)

   
   
 

スギダラへの(私の)期待

   
 

宮崎あるいは九州では、過疎問題、少子高齢化が深刻な農山村が数多くあります。台風を始めとする自然災害も多く、農山村の生活基盤は毎年のように脅かされています。「限界集落」と呼ばれる、住民が減って農村コミュニティが危機に瀕している集落も増えています。これはもちろん、全国的な問題でもあります。このような集落は消滅する運命にあるのでしょうか?

   
  私は、多様な日本の文化の下支えをしているのはこのような集落だと勝手に考えています。宮崎県内の山間部では、自然と共存しながら共同体としてつつましく暮らす価値観や技術が生きていて、人々の生活が先祖と共にあるような集落が数多く残っています。夜神楽もその象徴です。これらは日本の文化の遺伝子であって、それを失うことは世界が評価している日本の現代文化さえその基盤を失うことではないか・・・。これが宮崎で暮らしている私の大風呂敷的危機感です。
   
 

それに対し、土木の人間(我々は自分達を土木屋と呼びますが)は何ができるのか?今後の予算制約を考えれば、従来のような施設整備型の支援策も限界に近づいています。施設整備から出発しない(施設整備に頼らない)土木のあり方が問われているのだと考えています。実は、私自身は10年以上も前からこの問いに付き合っていますが、未だ適切な解答を見つけられていません。ただ、より地域やコミュニティに密着したところから発想していくことが、その糸口であるとは考えています。農山村の生活環境と生活の糧をいかに確保・補強していくか?よりコミュニティベースで地域の資源を発見し、磨き、発信して産業化すること、都市から農村へお金が流れる仕組みを作ること・・・これ以降はデスギ(出口)先生の原稿とシンクロしますので、そちらへバトンタッチします。
最後に・・・私にとってのスギダラは、以上の問題を一緒に考え行動する仲間だと思っています。

   
   
 

P.S. 実は、月刊杉22号の若杉さんの記事がとても気になっています。「風の人と土の人」や「よそ者と木―マン」の話題は、しっかりと考えてみたいテーマですね。いずれなにかの機会に・・・

   
   
   
   
   
   
 
 
 

●<よしたけ・てつのぶ> 宮崎大学 工学部土木環境工学科准教授
工学博士。 地域・都市計画が専門。 近年は、交流とコミュニティ活性化の関係に関する研究、市民参加からみた都市計画制度とその運用に関する研究を行なうとともに、それらの実践について模索中
吉武研究室 http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/ ̄ytken/index.html

   
   
   
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