創刊20号を迎えてその2

スギダラはどこに向かうのか?
文 / 南雲勝志
 
 
 

スギダラが誕生した2004年頃、まだ杉をとり囲む状況は厳しいものだった。2000年ころから日向市のまちづくりに関わり、杉のファニチャーに取り組むことになった。不安ながらもその不思議な魅力を感じ始め、家具においても杉の可能性を模索するようになってきた。それが徐々に確信に近いものとなり、日本全国スギダラケ倶楽部が誕生する。この辺りは「月刊杉WEB版第3号のスギスツール100選」に詳しく書いてあるので参照されたい。

そして2005年春、内田みえさんが編修したコンフォルトNo83号の「杉とゆく懐かしい未来」という特集でスギダラの活動を紹介してもらい、大きな勇気を与えられた気がした。今考えると、この頃がひとつのターニングポイントだったような気がする。厄介者と言われてきた杉が意外といけるじゃない、とプラスに転じ始めてきたころだ。最近では 杉の有効利用に関する上質なシンポジュウムやワークショップも増えてきた。つくって売るだけではなく、自分たちでまず使う、といった地産地消といった考え方もずいぶんと浸透してきた。
これにはいくつか理由がある。ひとつは経済的な理由。長年、外材との価格競争にかなわず低迷してきた国産木材が、世界的な木材需要の拡大で徐々に挽回してきた。昨年、飫肥杉が2年ぶりに価格が上がったとニュースでも伝えられた。
ふたつ目は、杉は自分たちの大きな資産であり、杉とともに歩んできた自分たちの歴史をきちんと考え、その先にこれからの未来を見据えよう。といういわば精神的な理由だ。
もう一つは環境問題。温暖化に向かう地球環境から二酸化炭素を削減するために、森林の多くをしめる杉の扱いが見直されていること。自然災害における森林の保全、治山からも森林の効率の良い循環は不可欠であるからだ。
ほかにもあると思うが、大きなところはこの辺りだろうか。どれも重要な問題ではあるが、スギダラの大きな思想は当然のことながら二番目である。
杉をキーワードに市民との関わりを驚異的に増やしていくミヤダラ、杉プロダクトと絡め、その魅力を伝える北部九州、秋田では地域づくりに力を入れ全国コンペも行った。最近勢いづいたスギダラ関西も徐々に文化的な活動を増やしていくことは容易に想像できる。またオビダラ(スギダラ日南支部)では驚くことに日南市役所に通称飫肥杉課が出来てしまった。これは大ニュースだ。北海道や日光支部、そして今回の特集を担当してもらった智頭も含め、独自な活動が行われている。本部はひたすら「杉とデザインの普及に」まっしぐらである。
いつも感心するのだが、杉をテーマに地域活動といったとき、その地域で受け入れられること、そこから生まれるアウトプットにとても差があるのだ。全国一律の価値観が蔓延してきた中で、同じ杉をテーマにしているのにあきらかに違う。当たり前だが、地域によって杉の性質も違うが、人も違う。気候風土といった環境が違うからだ。スギダラのこの地域性は本物だし、見ていてとてもおもしろい。杉を通して自分たちの文化や環境、生活そのものも価値をもう一度見直そうという空気はずいぶん浸透してきたように思える。スギダラ活動も微力ながら一定の効果を上げたところもあるかも知れない。

一方で、スギダラはいつまで経ってもボランティアの域を脱しなくて良いのか? そろそろ次のステージに移るべきではないか? いやいやもうスギダラの役目はすでに終わった、との声も聞く。少しは欲を出して利益を出したらどうか? といった、ありがたいご意見もいただく。
だいたい「とりあえず、もっと楽しくやろうよ!」などという、余計なお節介的部分のウエイトがかなり大きく、その辺りが皆さんに心配をかける理由であろう。
さて、世の中の杉を巡る状況が好転してきたことはスギダラにとって追い風となるだろうか?
大きな意味では今までより理解される下地は広がる可能性は増えてきそうだ。暗い闇から脱し、前向きに明るく考えるムードが起きつつあるからだ。しかし杉の値段が上がることスギダラ活動が関係してくるとは思えないことも確かだ。

スギダラは杉と日本人の良い関係をスギダラなりに解釈し、勝手に突き進み、そのなかから少しずつ何かを感じたり見つけだしたりてきた。これからも無理をせず、出来る範囲でそれぞれが行動していけばいい。そこから他分野との緩やかな関係が新たに始まる。ひょんなことからその緩やかな関係から、また新たな本質をつくりだす可能性生まれてくる。そして実はそこにこれからのデザインにとって、とても大切な部分が含まれている。
スギダラから杉をとったら何が残るか? その問いに対する答えは徐々に芽生え始めている。
スギダラはもはやスギダラではないのだ。

 
   
 

●<なぐも・かつし>デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。 家具や景観プロダクトを中心に活動。 最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。著書に『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』 (ラトルズ)など。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部

 

   
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