連載
  スギと文学/その33 「風とオルゴール」を読む
文 石田紀佳
   
 
  (64号の「風とオルゴール」をご参照ください。)
   
  1923年5月に花巻から大沢温泉に電車が開通し、同年9月ごろにこの詩は書かれた。 五間森に木を伐りに行った帰りに、電車に乗ろうとする薄明穹のころ(夜明け前か夕暮れ時だが、ここでは夕暮れ時)、前景に電灯が「ダアリア」のように「9月の宝石」のように輝く。空には六日月と木星。
   
  宮澤賢治は電燈をとりつけた人に「青いトマト」を贈りたいという。電燈によって「風景が深く透明にされた」からだ。
   
  彼は電気が好きだった。外来の食べ物のトマトやリンゴ、洋楽器のチェロを愛好した。自然と一体化するような感覚は、新しい技術をうけいれていくことと矛盾せずにあったし、農村で暮らすことと地球規模でものを感じること、過去も未来も、まるで同時にあった。宇宙スケールの人にとっては、あたりまえなのだろうけど、どうしてこんな感覚をもつに至ったのか不思議だ。別に特別な教育をうけたというわけでもない。
   
  空と電燈、その間の松倉山や五間森から
   

放たれた剽悍な刺客に
暗殺されてもいいのです

   
  という。なぜなら
   
 

(たしかにわたくしがその木をきったのだから)。

   
  (杉のいただきはくろくそらの椀を刺し)
   
  この日は風がよほど強かったのだろう か、もっていた洋傘は
   
 

しばらくぱたぱた言ってから
ぬれた橋板に倒れた。

   
  なかなか鎮まらない五間森にむかって彼はとなえる、木をきられてもしづまるのだ、と。
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
ソトコト(エスケープルートという2色刷りページ内)「plants and hands 草木と手仕事」連載中
   
 
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