連載  
  あきた杉歳時記/第45回 「おくりばこ」
文/ 菅原香織
  すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
    

 記録的な大雪も2月中旬を過ぎてやっと一段落…と思ったら、3月に入ってまた真冬に逆戻り。朝ドアを開けて一夜にして一面真っ白に塗り替えられたまちなみを目にした瞬間「どこでもドア」を開けてしまったような不思議な感覚にとらわれました。なにげない日常の一コマですが、これも秋田にいるからこそ体験出来ること。だけど、やっぱり春が待ち遠しいです!

 さて、今回のあきた杉歳時記は、前回の「五城目の朝市」で紹介した秋田杉を活用した杉モノづくりプロジェクトの続きです。プロジェクトの発端は、前回紹介した芳賀さんが五城目を元気にする取組みを考える中で、五城目の森のスギの間伐材を活用して「棺」を作る、というアイデアを思いついたところから始まります。
 いずれは人間誰もが必ず使うものだし、高齢化社会で今後ますます需要は高まる。これはいけるんじゃないか!?と期待しつつ調べたところ、国内外の森林再生活動を行っている「more trees」と、環境にやさしい棺『エコフィン [ノア] 』を発売しているトライウォール社がコラボレーションして高知県四万十川流域のヒノキを使った森を美しくする棺として『エコフィン [ウィル] 』という間伐材のヒノキの集成材を活用した棺が既に商品化されていました。その棺を買うことによってカーボンオフセット証明書がついてと森づくりへの寄付になり、地球温暖化防止にも役立つという仕組みです。もうあるんだ…と、ここでめげることなく、地産地消の具体例として何とか五城目の資源をいかしてできないかと考えました。

 秋田でスギを育てるには80〜100年かかります。植樹してから、成材と成るまでの間、下草刈り、枝打ち、除伐・間伐などの保育・保全が必要です。その費用は、間伐するための補助金はあっても、木材価格の低下と需要のない間伐材を山から運び出すと採算がとれません。そのため山に間伐材を切捨てたり、手入れもされず放置されてしまうという問題があります。
 そこで「森に係り合いをもち、森を守り大切にする想いを、世代を超えて伝え受け継いでいくきっかけを作る」というコンセプトのもと、永久の旅立ちを見送るための棺が次世代への贈りものとなる、その両方の意味を込めてスギの棺を「おくりばこ」と名付けました。
 ふるさとの森のスギを使用して制作・販売することで、ふるさとの森の保全の費用を捻出できるような仕組みを構築するというビジネスプランは、秋田県の間伐材を活用したものづくりの補助金事業に採択され、コンセプトモデルの試作開発費が出ることになりました。

 五城目は秋田杉の産地であると同時に、「五城目家具」や「五城目大工」など,木工に優れた職人がおり、インフラは整っています。おくりばこの製作はそうした職人の保護・育成、担い手の発掘にもつなげられるのではないか、また地場の間伐材を利用することで製造コストを下げ、安価な中国産に対抗出来るのではないだろうかと、かなり楽観的に考えていました。
 ところが、改めて製造を請け負ってもらおうと事業者を訪ねたところ、「棺は作れない」と断られてしまったのです。技術面や材料の調達が出来ないということもあるかもしれませんが、端的にいえば「葬祭に関するものは作らない」というニュアンスが含まれているように感じました。そこで古くから葬祭業を営む方に伺ったところ、昔は棺をはじめ葬儀に関するものを作る木工所が地域に一軒はありそこで作られていたそうです。そういう類いのモノは一般の木工所では作らない、といったことなのかもしれません。映画「おくりびと」のなかにも、納棺夫という仕事に対しての偏見や嫌悪を示すシーンがありましたが、それと似たようなことなのかもしれませんね。

 当てにしていたところから断られ、さてどうしよう・・・暗礁に乗り上げたかにみえたコンセプトモデルの試作でしたが、そこに助っ人登場!スギダラ秋田支部の交渉人、二ツ井支部の加藤さんです。モクネットのネットワークを駆使して、能代で試作を請け負ってくださるところを交渉してくださいました。持つべきものはスギダラ仲間ですね。現在、南雲さんデザインのステキな試作品を製作してもらっているところです。

 ただ仮に製品化出来たとしても、今はまだ「棺」だけを生前に購入するという習慣はあまりありませんから、「おくりばこ」を生前購入していただくには、なによりもまず「人生の最後は、ふるさとの山で育ったスギの棺に入って送られ、そうした棺を選ぶことで、ふるさとの山に感謝と保全費用を贈る」この考え方を地域の方や事業者の方にどう理解していただき、地域に浸透させていくかがカギとなります。
 たとえば、森を訪れ、手入れが行きとどいた健全な森と、手入れが必要な荒れた両方の森の現状を実際に見ていただき、理解を深めていただく。森から得られる山菜やキノコ、森から湧き出る水が育む豊かな土壌で作られた米や野菜の農産物の購入を通じて、日常的に森との繋がりを持っていただく。四季を通じたツアーやイベントを実施し、森を訪れる機会をつくる。などのように、森との係り合いの中から、森を守る必要性を実感していただき、やがてこの森から作り出される「おくりばこ」を選んでいただく流れをつくっていく体験ツアーなどの実施が考えられるのではないかと思います。次号では完成した試作品をお披露目できると思いますので、どうかお楽しみに。

   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
『あきた杉歳時記』web単行本 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
   
 
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