以前、蒸留所の貯水タンクを木製にする提案をしたことがあった。ニューヨークのビルの屋上には無数の木樽の給水塔が乗っている。年間50度以上の気温差のある過酷な都市で、市民の水を支えているのだから、性能が悪いはずが無い。調べて見ると、熱伝導率が低いので結露しないし水温の変化が少ない、錆びない、底が平らで掃除がしやすいなど、利点が多い。焼酎は純度ほぼ100%のアルコールを水で割って、度数を決定してから製品になるので、水の質はとても大切だ。2年前に高鍋の工場は、仕上げの割り水の貯水槽を木に換えた。木槽は一般的には米ヒバで作るが、宮崎には飫肥杉という、うってつけの杉がある。水に強くて耐久性があり、昔は造船にも使った。樽になるために生まれた木と言っても過言ではない、とあまり自信はないけれど思う。小野寺さんだったら、橋になるために生まれた、って断言しそうだ(月刊杉02〜04号/油津木橋記その1・その2・その3・その4参照ください)。厚さ8cmの台形の杉の角材を、柱のように並べてステンレス丸鋼のタガで締め、直径2.8m,高さ3mの円柱の木樽が完成した。西日を受けながら工場の前に堂々と立ち、ピュアウォーターをしっかり守っているその姿は、とても頼もしい。美味い焼酎に成るぞ、とヴィジュアルに実感出来るのも嬉しい。
風景、風土、風味を合せて三風と言う。楽しい場所で、楽しい人達と、美味しいものを食べていると、風土と風味が風景の奥行きを深め、陰影を濃くするんだなー、と宿酔の頭でしみじみ思う。 |