連載
  スギダラな一生/第62笑 「魔の13期 前編」
文/ 若杉浩一
  変態、社会人の夜の土木作業  
 
 
  先日、僕の仕事なのかどうなのか、意味が不明な仕事が増えてきている。
宮崎チームとの関係?いや、スギダラの活動を某大手の企業へ紹介する?
それと僕の会社の副社長 前田さん、村(長年の戦友)を案内する。
それはそれで、いいのだが、ちょっと前までは、馬鹿者扱いをされていた事を考えると、なんだか時代は変わるものだと思う。
   
  変わらないものと言えば、古里と級友だ。
いくつになっても、心を許せる、笑える仲間だ。
そして、さっぱり成長の後を感じないのだ。(技量ではありません)
つい最近大学の同級生数人と一緒に飲んだ。
吉武(元IBM)が大学の先生になったからだ。
人は偉くなっても、本性は変わらない、彼の大学に行ってみると学生の中に随分年を取った同級生がいるという感じで、威厳も何もありはしない。まるで、学生サークルだ。これは学生時代からそうだった。勉強もしないで、面白い事を考えるのが僕の役割で、まじめに実践してくれるのが、吉武だった。お陰で僕はこの笑える同級生のお陰で、大学を無事に?卒業できた。
   
  僕らは、後輩や先生から「魔の13期生」と呼ばれているらしい。
僕らから見ると何が「魔」なのか心外であるが、そう呼ばれているらしい。
先輩や後輩と何が違うのかというと、とにかく良くアホな事や、バカバカしい事を本当にやるのが主義だった。とにかく盛り上がる、しかも実践派なのだ、思いついたら実践、しかも組織ぐるみで一丸となってやるのだ。
だから、学祭やイベントは、作りもの、仕掛けが半端ではなかった。よく集まり、妄想し、笑い転げ、行動していた。大学の課題だってグルだ、工作室の指導員も巻き込み、次第にシステム化されていく。だから、あっという間にプロトタイプや作品をつくってしまう。
先生からボコボコにされても、てんで懲りていない、また、作ってしまう。
試験もグルになって対策会議を開くものだから、誰も落ちこぼれないのだ。
しかし、そのことが、先生は悔しかったらしい。いつも1対20位の戦いだから、先生がうんざりなのだ。
   
  僕の大学のプロダクトデザインの先生は九州芸工大歴史上、実に有名な先生だった。どの世代も異口同音、「世の理不尽」を教える大家だった。
言う事はコロコロ変わるは、八つ当たりはするわ、プレゼン前に工房を封鎖するわ、授業の大半が説教だわ、自分の仕事に学生をこき使うわ、酒癖は悪いわ。
言い出したらきりがない。
だから、助手は精神状態がおかしくなり、長続きしない。
しかし、女子学生がいると、事態が一変する。和やかになるのだ。
残念ながら僕たちは100%男軍団だったので、存分に、余す事なく、その理不尽のフォースを最大限に享受した。
しかし、我が軍は、その力に一致団結し、抗議や反抗するでもなく、いつも真剣に真面目に、面白がって答えていた。攻撃がひどくなればなるほど、こちらも、さらにとんでもない大騒ぎだ。
僕は、このときに、理不尽を笑い飛ばす、エネルギーで返す技を身につけた。
   
  そして、遂に先生が付けた名前が「魔の13期」。懲りない面々だった。
僕らは、殆どのメンバーが卒論の講評も、発表も、受け取りもされず、全員「可」という一律評価と、始末書を強制され、提出し卒業した。
全員が、劣等生のレッテルは貼られた仲間同士なのだ。
そして、全員が同じ理不尽と恐怖体験をした仲間なのだ。
だから、めくるめく笑える共通体験が存在するのが、今の結束に繋がっている。
   
  そして、僕たちは卒業しそれぞれの道を歩んだ。
東京に来た仲間は数名。
しかし、誰かが上京の折に、またよく集まった。
いやそれでも、東京組だけでも、よく集まっていた。
休みという休み、よっぽどの事がない限り、何故か僕のアパートに集まるのだ。土曜日の昼に集まり、酒を飲み、馬鹿な話に花を咲かせ、皆で一夜を過ごし、日曜の宴を過ごして帰る。何の生産性もクリエイティビティーも無い集まりだ。
寂しい訳ではない、波長が合うというか、この懐かしい笑いのツボを共有しようという集まりなのだ。
   
  とにかく、よく集まったのは、当時、富士通のデザイナーだった、岩崎。
ビクターのデザイナー上本だった。
岩崎は、僕達の中では超優等生、全ての学科をきちんとこなし、試験の指南役だった。一方で上本は、面白い事と酒が好きで、貧乏性、デザインのセンスは抜群だった。もう一つ足の臭さも抜群だった。部屋や車すら足の匂いがするのだ。
3人で夏はパンツ一丁、冬はコタツでまるくなり、鍋をつつきながら、くだらない妄想に、大笑いしながら過ごすのだった。
今、あのとき何を話していたのか、何が面白かったのかすら覚えがないぐらいなので、多分くだらない話しかしてなかったのだろう。
   
  そんな中で、社会人2年目で僕は新車を購入する事を決めた時の事だった。
車を買うのはいいのだが、駐車場が必要なのだ、しかも車屋さんが言うには住居から500メートル内に駐車場が必要というのだ。僕の住んでいた所は、一戸建ての多い住宅地でその中にポツンとアパートが存在していた。したがってどう探しても駐車場なんてないのだ。困り果てて、アパートの大家さんに相談した。この大家さんが面白くて、お百姓さんで、ここらあたりの土地持ちなのだ。いつも、家賃を納めに行くと、野菜をたくさん手渡してくれた。人柄が良くて本当に優しい方だった。
   
  「すみません、大家さん。あの〜今度車買うんですが、半径500メートル内で駐車場が必要なんですが、見当たらないのです。何処かご存知ありませんかね。」
「あ〜〜そうね〜無いよね〜あのへんね〜〜」
「お父さん!!駐車場! あったっけ??」
遠くから「ね〜な〜〜あの辺な、ない、ない。」
「ちょっと待てよ、あ〜あ〜〜ほら、売れてないうちの宅地があるじゃん」
「あ〜〜ああ、あるある。ほらここさ!!ここ」
「ここ、若杉さん使っていいよ!!」
「えっ?いんですか?」
「いいよ、どうせ使ってないんだしさ〜 なあ」「ああ〜〜そうね」
「月、おいくらでいいですか?」
「ああ〜いらねえよ」
「ええっいんですか?」
「いいよ、いいよ、どうぞ、どうぞ」
こうして、あっという間に問題が解決した。助かった、聞いて良かった。
   
  翌日僕はその現場に向かった。
そして、気絶しそうになった。
宅地というより、ジャングル、地面が見えない。背丈は人程のブッシュだらけ、おまけに最大の問題は、傾斜地で道路から低い所でも一メートルぐらいの高さの石垣で囲われ、車なんて入れる訳も無いし、もはやこれは土木工事でもしない限り駐車なんて出来る訳が無い。問題は見事、振り出しに戻った。
   
  また、大家さんに相談に行った。
「大家さん、見てきました。広いですね」
「ああそうかい、良かったな〜」
「ええ、そうなんですが、あそこね、石垣が一メートルくらい、低い所でもあるじゃないですか。あれね、石垣崩さないとね、車入れないと思うんですよ。どうしたもんですかね?」
「あああ〜そうだった、そうだった。」
「解った!!ちょっと待っててな。」
「はい、これ。あとこれもいるか、それとこれもね」
僕はびっくりした、手渡されたのは、背丈程のバール、そして小さいタガネ、ハンマー、そしてツルハシ。 気絶しそうになった。
要は、これで、工事をしろということなのだ。
「あの〜〜大家さん、あれ崩していいということですか?」
「ああ〜いいよ、どうよ、これでばっちりだろ!!」嬉しそうだった。
反面、僕は泣きそうだった。これじゃ、断りようがない。
   
  夜の道を僕は、重いバールと、ツルハシ、ハンマーをポッケに押し込み、タガネを手に持ち重さで手がちぎれそうになりながら、とぼとぼ帰った。
何回も休みながら、真っ暗な道を歩いた。
そして、その途中に、悲劇が訪れた。タガネがポロリと手から落ち、コロコロと転げたのだ。そして、なんと、道路の側溝の穴に落ちてしまったのだ。ステンレスのメッシュの側溝の下のドブに落ちてしまった。
ついてない時って、本当についていない。やれやれと、側溝を外そうとした。しかし、このフタがうんともすんとも動かないのだ。何度も試みた。そして、人間の力ではもはや無理だと悟った。
僕は、その場に座り込んでしまった。
「あ〜〜やってしもた!! 俺はなんて馬鹿なんだ!くそ〜〜〜」
しばらく呆然としていた。しかしだ、僕は気付いてしまった。
「なんと、俺の手には、右にツルハシ、左にはバール!!おおお!!!これで側溝外しの工事が出来るではないか!!おれはついてる!!」
夜の道路で僕は、側溝の周りをバールとツルハシを使い、掘削作業。一時間もかかりようやくドロドロのタガネを手に入れた。
泥まみれになりながらも意気揚々と家路についた。
思えば、何で土木工事の前にタガネ探しの土木工事をしなければならないのか。まったく、面白ネタが向こうからやって来る自分の人生を恨んだ。
   
  車屋さんから、一週間後には駐車場の登録をしますと言われていた。僕は次の日から早速工事を開始した。先ずは全貌を知るために、草刈り、ブッシュ刈りを行った。12月の寒い夜、会社が終わって、懐中電灯一丁で黙々と草刈りをした。どう見ても怪しい、草むらの中で一人黙々と夜な夜な仕事をするのだ。
どうにか、草は2日がかりで刈り上げた、結構広い。
寒さで凍えながら、アホな人生を恨んだ。しかしだ、これからが本番なのだ。ため息が出た、こりゃ一人ではどうにもならん。
僕は早速、例の二人に電話した。
「おい、岩崎、頼みがある!!この頼み聞いてくれたら、お前に好きな飯をたらふく奢ってやるぞどうだ!!」
「あした、夕方7時大船駅集合!!どうだ。」これしか言わなかった。
真実を話すと、言い訳して逃げそうだったからだ。
「お〜〜よかばい。それで、上本は?」
「呼んである。どうだ!!」
「お〜楽しみやね。行くバイ!!」
   
  次の日の夜、僕は二人分の道具を揃え、作業服に着替え、大船駅に迎えに行った。
「なな、なんやお前の格好は?」「何処か、作業に行って来たとか?」
「いいや、これから?」「なんや、お前達の格好は?」
「格好て、これが普通やろ、サラリーマンの、なあ上本!」
「馬鹿もんが、そんな格好じゃ、大変やぞ。」
「何がか?何かあっとか?」
「黙って、車に乗れ!!」僕は説明もせず、現場に向かった。
   
  「ここたい。道具はこれたい。」
「なんや?なんばすっと?」
「今日はな、諸君。こん1メートルもある石垣ばぶっ壊す!!」
「ここから、ここまでや!!」
「お前、アホか!!最初に言え!!」
「お前達こそアホか!!そんな事言ったらこんやろ!!」
「確かに」
「よかか、車の駐車場ば、おれは、ここに作らんといかん。一週間でたい。」
「一人じゃでけんやろ!なあ、見てみろ、こん敷地ば。」
「こんなひどい目に遭うのは、お前達しかおらんやろ、なあ、岩崎、上本!!」
「確かに。 解った、よし、やろう!! よこせツルハシ」
   
  みんなアホである、今時どこの世界に、駐車場を自ら作る男がおろうか?
このアホ集団は疑いも、代案も考えずに、極寒の夜にスーツ姿で、ツルハシを持って、働いているのだ。
夜の空き地に「ガチーン、キ〜〜ン」と石にぶつかる音と共に火花が散る。作業服の男と、二人のサラリーマンの汗が湯気となって沸き起こる。
ささやかな、懐中電灯の光に湯気に霧が浮かび上がる。
変態の変態による、編隊行動。
時々近所の住居の窓が開くが、恐れ戦いて、こっちを見るや窓は閉まる。
「若杉!!見てみろ、石垣、全然取れんぞ、全然はかどらんぞ」
「どら?ほんなこつ。よし石垣の裏を掘り起こそう。前は無理だ。」
   
  こうして、「魔の13期生」変態、社会人の夜の土木作業が始まった。
つづきは来月。
   
   
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 所属。
2012年7月より、内田洋行の関連デザイン会社であるパワープレイス株式会社 シニアデザインマネージャー。
企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
月刊杉web単行本『スギダラ家奮闘記』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生 2』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka3.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved