連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第41回
文/写真 田原 賢
  N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編9(最終回)
 
 
*第33回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編1
 
*第34回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編2
 
*第35回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編3
  *第36回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編4
 
*第37回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編5
 
*第38回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編6
 
*第39回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編7
 
*第40回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編8
   
  3.実験結果
   
  3−3. 柱カウンターウェイトの負担面積算出法 つづき
   
  (2)内部柱(測定番号No.9)の柱カウンターウェイト負担面積の考え方
   
  測定番号No.9については内部柱ということもあり、2F部分の重量や屋根重量、壁の曲げ剛性などの影響を考慮すると、ベランダ下部分の柱のようには柱カウンターウェイト負担面積を求めることは難しいと考えられる。
ここでは上部柱の位置と、No.9(変位計1)を取り付けた柱に取り付いている梁の継手位置などを考慮して、負担面積を算定した。
No.9を取り付けた柱を持ち上げたときに影響する2F床面積は、梁の継手位置までの長さや上部柱の位置から下図の範囲であると想定する。
   
 
  部柱の柱カウンターウェイトの負担面積の考え方
   
   
  ◆床が持ち上がったと考えられる範囲
  ※y方向梁について、変位計2の測定位置で梁の持ち上がりが測定されたので、上部柱が並んでいるラインまでではなく、梁の継手位置までの面積と考えた。
  また屋根重量についても、同様の負担面積分の屋根重量が柱などを介して、柱カウンターウェイトとなると考えた。
   
   
  測定番号No.9の測定値と負担面積から求めた柱カウンターウェイトについての比較
  柱カウンターウェイトの負担面積については後出参照。
下記に算定値と測定値の比較データを示す。
負担面積から求められる柱カウンターウェイトについて、上部柱を介して伝わる荷重が(2F部分の内壁や屋根重量など)負担面積の移り変わりに伴い、どれほど影響がでるのかわからなかったので、柱カウンターウェイトを以下の2通りについて算定している。
1.1F部分の内壁重量と2F床重量 のみとした場合
2.上記の重量に上部重量(屋根重量+2F内壁重量)を加えた場合
 
   
   
  ■下記の表の記号について
  上図の記号に一致する。
 
 
  測定番号No.9の柱カウンターウェイト算定値と測定値の比較
   
   
   
  《測定番号No.9(内部柱の場合)の柱カウンターウェイトの負担面積の移り変わり(1)》
 
  柱の浮き上がり変位に伴って変化する柱カウンターウェイトの負担面積の考え方
   
 
   
  3−4.柱カウンターウェイトの負担面積についての考察
   
  (1)ベランダ下部分の柱に取り付けた隅柱(No.1)について
  No.1においては、柱の持ち上がり変位2.5mm〜5mmのとき直線的に梁が持ち上がったと考えた場合、測定値が直線算定値の1.5倍ほどあり、変位10mmを超えては測定値と直線算定値の差がますます大きくなる。
弾性域を越えてからは直線的な持ち上がり方で負担面積をモデル化してしまうと、柱カウンターウェイトは少なく算定してしまうので、弾性域を超えていると推測される変位10mm以上は曲線的な面積算定をする必要がある。
柱の持ち上がり変位2.5mm〜5mmの場合における1.5倍の誤差については、変位計3の変位=0ということから、柱の持ち上がり長さに比例してX方向梁もY方向梁も持ち上がると仮定して、柱の持ち上がり変位10mmのときの梁の持ち上がり長さからそれぞれ1/4倍、1/2倍して、変位2.5mm〜5mmについても梁の持ち上がり長さを求めていることも影響していると考えられる。
(NO.2の測定地点の測定結果をみると、ここで仮定したように柱の持ち上がり長さと梁の持ち上がり長さは必ずしも比例していないのであるが、この実験結果のみにて推測することは困難であったので、仮定として上記にように算定値を求めた。)
   
  (2)ベランダ下部分の柱に取り付けた側柱(No.2)について
  No.2においても柱の持ち上がり変位2.5mm〜5mmのとき梁が直線的に持ち上がったとして負担面積を算定した場合、直線算定値と測定値がかなり近い値となっている。
10mmを超えた場合も同じく、梁が3次曲線的に持ち上がると考えた算定値と測定値が近くなっている。
No.1,No.2の計測地点では、ベランダのコンクリート版厚が大きくコンクリート床版全体で浮き上がりに対して抵抗しようとするので、柱カウンターウェイトの負担面積はベランダ床面積の範囲内で考えられ、それ以上は広がらないと考えられる。
柱の持ち上がり変位が2.5mm〜5mmでは、柱カウンターウェイトの測定値の変化が大きく、算定した負担面積は浮き上がり変位に比例している。
ただし、X方向梁の持ち上がった長さ・Y方向梁の持ち上がった長さは浮き上がり変位には比例せず、壁の配置などが影響していると考えられる。
   
  (3)直上に柱がない1階内部柱(NO.9)について
  NO.9においては、負担面積における梁の持ち上がりを3次曲線的モデル化にて算出をするとX・Y方向とも梁の持ち上がり起点が継ぎ手位置及び梁の全長を大きく超えてしまい、柱カウンターウエイトの値が大きくなりすぎたので、直線的なモデル化のみにて負担面積を算出した。
NO.9においては、2階床面を持ち上げる形態となった。NO.1, NO.2と違い、2階床面の構成は転ばし根太の上,板張りとなっていたが、NO.1, NO.2と同じく床面全体で浮き上がりに抵抗する挙動となった。
さらに近接する2階管柱・壁等により、その上の屋根荷重が浮き上がり抵抗力となって変位がさほど上がらずとも、荷重が増大する結果となった。
柱の持ち上がり変位が2.5mm〜5mmでは、上部重量(屋根荷重+2F内壁重量)を加えると測定値にくらべて算定値がかなり大きくなっている。
しかし、10mm以上の変位では、上部重量を加えないで求めた算定値は測定値よりもかなり小さく、上部重量を加えた場合では、算定値と測定値が近くなっている。
この現象は、変位が小さい範囲では柱カウンターウエイト自体がさほど大きくないので上部重量まで抵抗力として含まれないが、変位が大きくなっていくにつれ柱カウンターウェイトも大きくなり、徐々に上部重量まで抵抗力として影響すると推測される。
(ただし、上部重量については床均し荷重にて算出しており、上部重量についても同様の負担面積の重量として算出している。
また、NO.9の測定位置の選択において、測定柱直上に2F柱がないことと、周囲に位置する柱も半間以上離れているということを考慮したので、このような結果となったと考えられるが、直上に柱が存在したり、周囲半間以内に柱が存在する場合には、柱の持ち上がり変位が小さい範囲であっても、上部重量も抵抗要素として含まれる可能性がある。)
  今回の実験を結果を見る限りにおいては、梁の方向性や根太の方向性といった床組みの方向性の違いで、モデル化置換面積における差異は生じないものと思われる。
   
   
  4.まとめ
   
  今回の実験では、水平力により耐力壁に取り付いている柱に浮き上がりが生じるときの上からの押さえ込み力は柱長期軸力のような柱一本当たりの負担面積では考えられなく、柱の上部に渡っているX方向・Y方向の梁の持ち上がり長さ分の大きな面積全体で浮き上がりを押さえようとするということが確認でき、柱長期軸力以上の柱カウンターウェイトの効果が期待できることが確認できた。
また、柱の浮き上がり変位が30mm程度までは、その変位が大きくなるほど柱カウンターウエイトも追随して大きな値となる。
このことは柱カウンターウエイトの値の大小によって耐力壁の耐力が左右されるという関係から、より柱カウンターウエイトの値を正しく評価することの重要性が再確認できた。
これまでの柱長期軸力では、隅柱においては負担面積の値が小さくなり柱カウンターウェイトの値がかなり少なく算定されているが、今回の測定結果をみると浮き上がり量が2.5mm程度であっても長期軸力に対し3.5倍程度、NO.2の側柱では2倍程度そしてNO.9の内部柱でも2倍程度であった。
さらに、20mm程度の浮き上がり変位ではNO.1の隅角部柱の長期軸力において11倍程度、NO.2の側柱では7倍程度そしてNO.9の内部柱でも10倍程度であった。
このことは建物全ての柱においてあてはまることと推測され、どの様な柱であっても、4m程度の梁があれば上からの押さえ込み力が期待できると思われる。
また、今回の検証目的ではないが、NO.1, NO.2, NO.9以外の地点については床が下がる(上部柱や壁による抵抗が大きく、柱が持ち上がらないで反作用として床の方が下がっていく)という状況が生じ、上手く測定できない地点もあった。
   
  今回、モルタル壁ありの場合とモルタル壁なしの場合について実験の比較より、浮き上がりに対してモルタルがかなり抵抗していることが確認できた。
この実験は静的加力実験ということから、大きな地震でのモルタルが脆性的な破壊を生じるような場合には適用できないが、モルタルが軸組みと密着している場合には水平力に対する抵抗要素として考慮できるといえる。
   
  この柱カウンターウェイトについては住・木センターにおいて企画されている耐震補強マニュアルで木構造建築研究所 田原が提案した隅角部柱については、負担面積とした1間角(1.82x1.82=3.31u)程度とした柱カウンタ−ウェイトの妥当性が検証されたものと思われる。
なお、内部柱についてはこの実験においても解明されたとは言い難いので、きちんとした計測において検証しければならないものと思われる。
この実験では終局状態である30mm程度(変形角でいうと、1/30rad程度)まで柱を持ち上げて柱カウンターウェイトの影響を調査し、かなり大きな柱カウンターウェイト値を測定できていることは上記でも述べているが、このことは終局状態においても柱の浮き上がりに対して金物のみで抵抗させるのではなく、柱カウンターウェイトの効果も考慮できるということが証明されたのである。
柱カウンターウェイトという抵抗力を考慮することにより、日本古来の伝統構法の建物についても、耐震補強において金物で緊結する抵抗機構としなくても、ある程度は浮き上がろうとする力が発生するが、柱カウンターウェイトにより倒壊は免れるということが考えられるのである。
   
 
   
  □今回の実験結果のまとめ
  ・浮き上がりに対し、柱を押さえ込もうとする力を柱長期軸力で算定すると、実際の柱カウンターウェイトよりもかなり小さい値で算定される。
・梁の持ち上がり方は、まず優先梁が持ち上がり、続いて優先梁に取り付いた梁が持ち上がる。
故に柱カウンターウェイトの負担面積は梁の取り付き方によって大きく左右される。
・浮き上がり量の少ない弾性範囲内の変形では、梁の持ち上がり方が直線的であると考えられる。
・梁の浮き上がりが大きくなり弾性範囲を超えてしまうと、梁の持ち上がり方は3次曲線的になると考えられる。
   
  □今回の実験を次回の実験へ繋げるために
  ・負担面積の影響が広範囲にわたるということが確認できたので、変位計の数を増やすこ とが必要であると考えられる。
特に内部柱については、隅角部柱にかかる変位計の数に対して2〜3倍が必要となる。
・梁の持ち上がり起点をより正しく推測するためにも、梁への変位計は浮き上がる柱からなるべく近距離(半間程度)に設ける。
・梁の持ち上がりによる男木女木等の継ぎ手の影響を検証する必要性がある。
・直交梁と床面がない場合(吹き抜けや階段室等)において柱カウンターウエイトを検証する必要性がある。
・垂木と母屋等で構成された下屋の勾配構面による柱カウンターウエイトの影響を検証する必要性がある。
   
  以上のことが検証できれば、建物全体レベルでより詳細な柱カウンターウエイトを確認することができ、今後の設計法(特に終局強度設計法)には特に有益だと思われる。
   
   
  N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 前編 終
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 HP: http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
大阪工業大学大学院 建築学科 客員教授
   
 
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