連載
  スギダラな一生/第50笑 「ハリーベラフォンテ」
文/ 若杉浩一
 
 
  中学生のときだった、偶然見た、映画「拳銃の報酬」の中で黒人がスゲ〜演技をしていた。 後で歌手だと知った。黒光りした顔に、ギラギラした眼差し。黒豹のようだった。もうそれだけで悩殺されてしまった。何とか、その歌手の歌を聞きたいと思い、調べまくった。その歌手は「ハリーベラフォンテ」あの、バナナボートをヒットさせたビッグスターだった。 僕は、親に小遣いをせびり、2枚組のLPレコードを買った。 「ハリーベラフォンテ GOLD 30」 毎日、毎日、擦り切れるぐらい聞いた。
   
  DAY-O〜〜 DAY-O〜〜である ミセテミセテ ミセテ〜〜ヨである。 何を見せるのか? タアイワンバナナ?なんて思っていた。 強烈な異国のビートとムード、東シナ海の遥か彼方の土の匂いを想像しながら、貪り聞いていた。 当時、皆、山口百恵や御三家アイドルに憧れていた中学生の中で、一人、ひっそりと、心の中で「デ〜オ、デ〜〜〜エエオ!!」と叫んでいた。 今想像しただけでも、とても変な中学生である。付き合いたくない。
   
  強烈なイメージとは裏腹な、歌詞。
   
   
  【Banana Boat Song (day-o)】
   
 

夜が明けたし、俺たち、家に帰ろうぜ
朝日が昇ってくるぞ、
陽が昇ったら、俺たち家に帰りたいぜ。
ほら、朝日だ、
夜が明けたし、家に帰ろうぜ。
ラム酒一杯で、夜通し働いて、
陽が昇ったら、家に帰ろうぜ。
朝が来る前に、バナナを積み込むんだ。
陽が昇ったら、家に帰りたいからな。
おい、荷役係の兄さんよ、俺のバナナをちゃんと数えてくれよ。
陽が昇ったら、家に帰りたいからね。
6つ、7つ、8つの房がついたバナナを運び込むぞ。
陽が昇ったら、家に帰ろうぜ。
朝日が昇ってくるぞ、
陽が昇ったら、俺たち家に帰りたいぜ。
ほら、朝日だ、
夜が明けたし、家に帰ろうぜ。
よく熟れたバナナだぜ、
陽が昇ったら、俺たち家に帰りたいぜ。
黒い毒グモが隠れているかもな。
陽が昇ったら、俺たち家に帰りたいぜ。
6つ、7つ、8つの房がついたバナナを運び込むぞ。
陽が昇ったら、家に帰ろうぜ。
朝日が昇ってくるぞ、
陽が昇ったら、俺たち家に帰りたいぜ。
ほら、朝日だ、

夜が明けたし、家に帰ろうぜ。
   
   
  全く!!帰りたいだけ野郎の歌だ。 そんなに早く帰りたきゃ、歌なんか歌わずとっとと帰れよ!そう思った。 そして極めつけは、これ!! もう聞いたら、脳裏に焼き付いては慣れない曲。 「マチルダ」これは凄い!! リズムも凄いが、歌詞が凄い!!
   
   
  【MATILDA】
   
 

ヘイ!!マチルダ、マチルダ、
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
500ドル、根こそぎ持って行っちまった。
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
皆一緒に!!
マチルダ!! 一緒に歌って!!
マチルダ!! 大きな声で!!
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
さあ、もう一回いくぜ!!
マチルダ!! もう一回!!
マチルダ!! 一緒に歌って!!
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
そう!家を買うつもりの金、えらいことをしちまったもんだ。
あ〜〜
マチルダ!!皆一緒に!!
マチルダ!!マチルダ!!
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
もう一回行くぜ!!
マチルダ!! もう一回!!
マチルダ!!
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
そう!金は、ベッドの枕の下に入れてたんだ。
いいかい、そいつをマチルダは見つけたんだ!
皆一緒に!!
マチルダ!! 
マチルダ!!
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。
もう一回!!
マチルダは俺の金を持って、べネズエラへトンヅラしちまった。

   
  これがずっと続くのである。最後はもう馬鹿騒ぎ、悲しいはずが、大騒ぎのノリノリになるのである。アホである。どうにかしている。 もう悲しいどころか、大興奮状態!! Once again now!  Everybody! である!!
   
  バナナボートは、ワークソング。苦役の果てに、苦役を共にする仲間と仕事の苦労を忘れるために自然に生まれた歌。生きようとする、豊かになろうとする魂の声である。 何と前向き、何たる力、何たる生命力。改めて感動するのである。 悲しいことを、悲しいと言わない力、生きようとする力。 マチルダに至っては、やけくそ!! お笑いだぜ、笑おうぜ!!皆、どうだ!!人生いつも、そんなことあるんだ! 傑作だろう!!一緒に歌おうぜ!!そんなことダ〜!マチルダ〜〜!! てな感じだ。 この天真爛漫さ、僕はこれに惹かれていた。 なあ、色々なことがあっても、大声に出して、歌ってみろ、所詮、大したことじゃない。それより、それが歌になって、語り継がれることが美しい。
   
   
 

人生、どうなろうが、一緒さ。
歌っている方が素晴らしい!!
そうやって、ずっと皆生きてきたのさ!

   
  そんな、メッセージがやってきた。
40年の時間を超えて、突然、ハリーベラフォンテがやってきた。
さあ、歌を歌うか!!
Once again now!  Everybody!
   
   
   
 
 
実家で見つけた中学生の頃に買ったレコード   MATILDAを歌うハリーベラフォンテ
   
   
  【MATILDA】 http://www.youtube.com/watch?v=5C-DShN82mc
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
『スギダラな一生』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
   
 
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