連載
 

杉という木材の建築構造への技術利用/第30回

文/写真 田原 賢
 

「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 4

 
*第27回 「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 1はこちら
 
*第28回 「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 2はこちら
 
*第29回 「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 3はこちら
 
  大津波による被害
   
  一方、大津波による被害は甚大なものとなっている。
  大きく分けて2つのパターンの被害状況が同じ場所でも見受けられた。
   
  ・破壊され流された住宅
  ・破壊されず残った木造住宅
   
  外的要因(消波ブロック・防風林の有無等)により、このような差が出たのではないかと考えられる。
   
   
   
  ●多賀城市海側の地域の津波による被害状況
   
 
  道路は瓦礫が撤去され、通行はできる状態であったが、まわりには瓦礫が山積みとなっていた。
   
 
  この新しい木造住宅も1階の軒天まで津波が来た状況ではあるが、おそらく現在の基準で建てられたと思われ、柱脚柱頭の接合金物で建物全体が浮き上がって流されることなく残ったものと思われる。
   
 
  この住宅も、港に近い場所ではあったが、築年数は約18年と古いが、1階内部はほとんど津波で浸水しており、この家の正面向かい側に大きな倉庫等があり、そこに津波があたり、津波の勢い(スピード)が減速され、その倉庫は破壊されていたが、かなりゆるやかな津波が来たため、車や瓦礫は流れてきたが、建物自体には被害が無かった。
   
 
  後片付けをされていた建築主の方に話を聞いたが、比較的平坦地で広いところのため、流速が早くなくゆっくりと浸水したため、石膏ボードも大きな被害を受けていなかった。
   
   
  ●仙台市内で最も津波被害の大きかった、若林区の状況
   
 
  写真の通り、あたり一面がれきであり、残っているのは土台等を残した基礎だけであった。
  写真の奥に見えるのは、海岸の際にある防風林であるが、密植状態の松林が大津波によりほとんどなぎ倒された状況がわかる。
   
 
  非常に大きな津波の被害を受けた地域ではあるが、大破や倒壊をしないで、浸水はあるが見た目は大きな被害のない新しい木造住宅も、非常に少ないが、残っているのもある。
  マスコミ等では木造住宅は全滅といった報道がされているかもしれないが、2000年6月以後の法改正により強化された木造住宅の構造規定によるものは、数は少ないが残っている現実はある。
   
 
  写真の通り、右と左にある建物は倒壊していないが、この間にあった木造住宅は津波に破壊され、瓦礫となって流されている。
  この写真でも分かるように、倒壊した奥の防風林はなぎ倒され、津波の勢いが直接倒壊した建物にぶつかったものと思われる。両サイドの残った木造住宅は、奥の防風林がそれほど倒されていないため、流速が弱まって破壊されずに残ったと推定される。
   
 
  この防風林は、かなりな年数がたっており、倒壊した松の胸高直径を調べたところ約30cm以上ある大きなものは根こそぎ倒され、直径が20cm程度のものは、地面から1mあたりの所で幹が折れていた。
   
 
  若林区の海岸付近にあった、近年になって開発された住宅地の大津波による被害。
  この写真でわかる通り、大津波が堤防を越えてジャンプしてこのあたりに着地したものと思われ、その付近にあった木造住宅は跡形もなく、また、基礎も瓦礫のごとく破壊されていた。
   
 
  このあたりの場所では、ジャンプした大津波が建物を破壊し、建物の地盤も写真の通りえぐりとったと思われ、そのえぐりとられた地盤は3m以上あった。
   
 
  建物と地盤が破壊され、上屋が無くなった基礎だけが残り、写真のように地盤がえぐり取られた部分が他の部分の基礎とつながっているため、空中に浮かんでいるような状態になっている。
   
 
  瓦礫の廃墟となった大津波による被害跡地で調査すると、いろいろと多くの問題点が発見された。
  こういった問題点においては、一般の調査する研究者や実務者では見逃しがちだが、専門家でなければわからない問題点が隠されていた。
  こういった問題点については分かる人は非常に少ないので、今後各方面にて警告を発信するつもりである。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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