特集 天草・高浜フィールドワーク2011開催
  高浜フィールドワークの感想ぞくぞく!
   
 
九州大学 大学院生
   
  民泊
  文/ 岡田祐佳
   
  天草に行ったのも人生で初めてでしたが、見ず知らずの誰かの家に泊めていただくと言う経験は、高浜フィールドワークが初めてでした。  これまでで、家の親戚付き合いがあまりない家庭に育ったので、誰かの家に泊まる、と言う経験をすることがあまりありませんでした。祖父母とは一緒に住んでいるので、お盆や正月におじいちゃんの家に行く、といったこともありません。家の外で宿泊をした経験は、修学旅行や夏休みのキャンプ、家族旅行等でどこかの施設に泊まったことは多々あります。でも、他人の家に泊まる、という経験は、大学の一人暮らしの友人宅くらいしかなかったように思います。
   
  フィールドワークに高浜に行く当初、旅館と民泊に分かれて宿泊、ということだったので、自分が泊まるのが旅館だったらいいな、とぼんやり思っていました。"初めて会った人とどこかに泊まる"ということはよほど何かない限り苦ではありませんが"初対面の誰かの家に泊めて頂く"ということになったらどうしよう、というのが正直なところでした。
   
  この『どうしよう』は『そうなったら困る』と言う意味よりも、本当に『どうしたら良いかわからない』の『どうしよう』で、民泊だと聞いてから途方にくれてしまいました。  ホテルや旅館、合宿場などの施設に泊まる時、お金を払って場所とサービスを提供してもらいます。テレビなんかで一泊した後、一宿一飯の恩義、と何かお返しするものを見たことがありましたが、今回、二泊。朝晩のご飯もすごく豪華な上に、カラオケまで一緒にしちゃう。これはもはやどうやってお返ししたら良いだろう。でも、私にそれに見合うだけの何かを提供できるのだろうか。
   
  今の私に何か出来た、と自信をもって言えることはほとんどありません。フィールドワークが終わって、高浜での三日間はものすごく楽しかった。宿泊させていただいた清水さんはじめ、御世話になった方々は良い人たちばかりで、居心地良く過ごした。鮮やかな海は見惚れるくらい美しかったし、また来たいと思える所だった。発表で少し関わった高浜の葡萄計画が進んで、葡萄に覆われる高浜の町を見てみたいと思った。すごく良い所だった。直接的なことは何も返せなかったけれど、それだけは、私は自信持って言えます。本当にありがとうございました。
   
  ●<おかだ・ゆか> 九州大学芸術工学府CCDコース芸術表現学
   
   
 
  高浜フィールドワークレポート
  文/川畑泰子
   
  まず初めに、藤原研究室の皆様、高浜の皆様、参加者、関係者の皆様、2泊3日という短いようで長く思えた濃密で未来ある日々を高浜で過ごせた大変貴重な機会をいただけたことを感謝いたします。本当にありがとうございました。私は今までこういったフィールドワークに今まで参加した経験がなかったのですが、今回高浜の山、川、海、豊かな自然に囲まれ、そして心も温かで豊かな高浜の皆様と交流を深めながら、高浜をデザインの力で盛り上げていくという画期的なアイディアを混じり合わせ非常に有意義で学びある3日間でした。
   
  東日本大震災などがあり、人のため、町のため、アートって何ができるんだろう?とずっと3月から悶々していました。しかしその答えが高浜フィールドワークの中で何か見つけ出せたような気がします。やはり人と人とのつながりを大事にし、そこから生まれていく新しいもの、昔のものを大切にしていくことがひとつなのではないかと思いました。たくさんの経験と自然と暖かな人の心のふれあいをどうもありがとうございました。最後に、私は音を勉強させていただいるのですが、高浜のフィールドワークを経てすばらしい発見があったので報告いたします。
   
  高浜と音
   
  フィールドワークの際、私は高浜の音の録音などをさせていただきました。 その中でたくさんの高浜にしかない魅力に気がつくことができました。高浜は自然の風土が豊かな町であり、高浜でしか聞こえないような鳥と海、山川の音の響き合いが、高浜の空気を作り上げているのだと感じました。採集できた音としては、川が住宅街の間を横断しているためずっと「川のせせらぎ」が町中聞こえる環境でした。 そして、「海の波音」、山や町の中に真夏になっても「ホトトギス」や「鳶」、「鷹」の鳴き声が昼夜問わず聞こえておりました。 そして「船が海の上で揺れる音」、そして高浜の町の中心にある神社の「鐘の音」、「船の定期便のサイレン音」そういった音一つ一つが町を構成し、人を構成しているのだなぁと感じました。町の音が住んでいる町の記憶を作ると思います。高浜はそういった意味ですごく印象深い町で、まるで桃源郷のように思えました。いまだにやはり高浜を思い出すとあの町の中で流れる川のせせらぎ、鳥の声、海の波音などを思い出します。
   
  フィールドワークのまとめの作業と、高浜にお住まいの方々へ、改めて高浜の魅力の伝達をさせていただきました。(外部の人間からの再評価) 実際に高浜に住んでいる人としては「当たり前」であった音風景に外部から再評価することで、高浜の方々は「こんな音が高浜の魅力だったのか!」と気がついてくださる方や、「この鳥の鳴き声で毎朝目が覚める」、「船の汽笛」で時間がわかる!といった声があり、その土地に住む独特の音風景が、その土地に住む人にとってサウンドマーク*として機能しているのだとわかりました。
   
  ※サウンドマークとは音の合図という意味です 普段は気がつかない土地独特の「音風景」を外部の人間が再評価することによって、その土地独特のサウンドマークを知るきっかけになり、またその土地にすんでいる方々の土地への愛や高浜にしかない「音」を確認したり、音の力で町の魅力を知っていただく意味でも機能することができるのだなと学びました。
   
  PS. ホームステイをさせていただいた清水様。見ず知らずの外部からきた学生の私たちを本当に本当に暖かな心で接して、わが子のように触れていただけて本当にありがとうございました。おいしいご飯までいただけて、思い出すと心が温かな気持ちになります。 清水さんのような海のように広い心をもった人間になろうと心から思いました。また、天草に遊びにきたときはお会いできればうれしいです。天草は第二の故郷だなと個人的に思えたくらいでした。本当に本当にありがとうございました。
   
  ●<かわばた・やすこ> 九州大学芸術工学府CCDコース芸術表現学
   
   
 
  「じゃっど、じゃっど」僕の好きな言葉
  文/藤原旅人
   
  「じゃっど、じゃっど」。一人だけ遅れた高浜入りを迎えてくれた清水さんの言葉はとても優しかった。その中でも僕の心に残った一言は清水のお父さんの「じゃっどじゃっど…」という言葉。じゃっどというのは「同意」を意味する言葉だそうだ。僕は一晩で清水のお父さんが喋るじゃっどが好きになった。この「じゃっど」も高浜のひとつの文化資源と言って良いのではないかと僕は思った。  僕を迎えた食卓にはたくさんのご馳走が並んでいた。ひとつひとつがお母さんの手作り料理だった。中でもお父さんが釣って来たという初鰹の味は今でも忘れる事がない。食卓を囲みながらたくさんのお話を聞かせてもらった。清水さんの高浜自慢やご自身のライフストーリーや高浜の現実の話、たくさんの話を聞かせてもらった。清水さんのお話にはすごく面白くこの物語もひとつの魅力になるんじゃないかなと感じた。
   
  思い返せば、この清水のお父さんの方言や物語の他にも高浜には沢山の魅力ある資源があったように思える。きれいな色の海、爽やかな空、深緑の山と自然の宝庫でもあったし、天草陶石、窯、葡萄と人の叡智の集まりでもあったように思える。
   
  僕は二日目&三日目のグループワークでソーシャルビジネスグループに参加した。グループの中にはJR九州の津高さんや、デザーナーの千代田さん、また全国スギだらけ倶楽部の辻さんがいて、厳しい意見が繰り出される大人のグループワークとなった。  僕らのグループには現在開発が続けられている葡萄をどのように開発し、ビジネスモデルとしていくかということを話しあい、その後にまたその他の資源を探しながらビジネス化できるものを探していこうという方針に決まった。本多さんをはじめとする葡萄にあくなき執念を燃やす高浜の人々、デザイナーの千代田さんが高浜の景観をデザインして行く過程や、津高さんのびしっとした突っ込みとともに沸き上がる創造的なプラン、また上中さんのしつこいまでの文献からの資料提供など、各人が得意技を生かしたチームプレイが展開されたように感じる。
   
  その中から僕らは成果発表の場所で4つのプランを発表した。「高浜ぶどうの3年計画」、「竹林を椿にしようプラン」、「南蛮柿(イチジク)プラン」「合宿や研修場所としての高浜プラン」だ。  これらのプランは現実的に行うことが出来てビジネスになるのではという思惑のもとにつくられた。今回のグループワークの作業の成果がどのように生かされるかはこれからの課題だと思う。今回は5つのグループは異なるテーマをもとにしながら調査を行った。グループによって様々な提案があり、多様な視点からの展開は参加者の予想を超え、お互いが触媒になり化学反応を行って素晴らしい企画が成果としてあげられたように感じる。
   
  発表の成果を聞きながら、やはり高浜には様々な魅力が隠されているんだなということを感じた。しかしながらその魅力は茫漠としていて、魅力としての力を発生させるためには誰かが磨く必要があるのではないかなと感じた。その磨くという行為は、今回の様なグループワーク作業であったり、本多さんのような地道な作業が必要とされているのだと思う。  また今回の発表で、「物語」がひとつのキーワードになるんじゃないかなということを感じた。高浜にはたくさんの「物語」が存在する。「物語」は人と人の絆を生み出し、また物語を語り合う事でその土地の文脈をお互いに理解する事ができ紐帯を再生産する。今回のフィールドワークの成果は物語をたくさん発見できたことだと思う。
   
  今回のフィールドワークの中では僕ら学生にはたくさんの物語を聞く機会があった。高浜の住民の方々と夜通しお話を聞ける機会なんてそうそうない。  また、グループワークの中では、全国で活躍なさっている大人の方々と作業をともにすることで創造過程や、アイディアの起こし方を学んだように感じる。やはり、みな情熱的でパワフルであった。その中で僕たち学生は少し気後れして若さとエネルギッシュな部分を見せることが出来なかったのではないかと少し反省している。この反省を生かして、来年は社会人に負けないようがんばりたいそして、また来年も僕の好きな「じゃっどじゃっど」という言葉に出会えればいいなと思っている。
   
  終わりに今回のワークショッププログラムを準備してくださったたくさんの方々に感謝しております。今後も微力ながら高浜に関わって行きたいと思っております。これからもどうぞ宜しくお願いします。
   
  ●<ふじわら・たびひと> 九州大学統合新領域学府 ユーザー感性学専攻
   
   
   
   
 
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