特集 天草・高浜フィールドワーク2011開催
  祝 スギダラ天草支部設立!〜森支部長 就任記念インタビュー〜
文/千代田健一
    話/森信行
   
 
  去る7月16日〜18日に開催された九州大学大学院藤原研究室主催の「高浜フィールドワーク2011」において、スギダラ倶楽部天草支部の設立が実現。 天草支部を引き受けてくれたのは、地元高浜町で製材・オーダー家具製造、販売を営む(有)森商事の代表取締役 森信行さんだ。 本来であれば、ご本人に記事を書いていただきたかったのであるが、8月5日〜31日まで福岡市西新のショッピングセンター「プラリバ」にて森のキッズ広場の催し物に張り付かれているため、千代田の方で突撃インタビュー、取材をさせていただいた。
   
 
  福岡市内のショッピングセンター「プラリバ」における森商事フォレストマーケットの会場風景。木製の家具や遊具の即売もしながら、子供たちが木に触れて遊べる場を提供。
   
 
  多い時は70人くらいがひしめいて遊んでいるという。大好評のようだ。
   
  会社の社長が丸々ひと月もの間、会社を留守にしてイベントに張り付いているのだから、それだけ聞いても森さんに対する興味がそそられるのではないかと思う。 そう、森さんはスギダラな匂いのぷんぷんする暑苦しい人であった。と言うか、森さんから見たら、スギダラの方が自分と同じ匂いがする、と言ったところだろう。 天草支部の設立を引き受けたのは、森さんにしてみれば、当然の帰結と言えた。何で高浜に?ここにも接点が、そこにも、あそこにも・・・森さんがやって来られたことや人との繋がりが、一気に結びついた。点が線になって、線が面になって見えて来た、という感じか。今年の夏の甲子園も数々の名勝負を生み、打線が面白いように繋がり、一気に大量得点というシーンが数多く見られたのであるが、正にそんな感じだったのだろう。
   
  まずは、森さんの会社、森商事について伺った。今年で67期を迎え、森さんで5代目との事。現在の森商事に入社したのは、平成5年。入社3年時に木材乾燥システムを完成し、その2年後に木製の学童用デスクの製作を手掛けるようになる。 「お客様に喜んでもらえる商品をみんなで楽しく作ろう!」という企業理念を掲げ、10年目にしてその目標に近づいて来たことを実感。子供たちが木の机や椅子を手にした喜びを感じ取れるだけでなく、それ以上に、木にも魂があり、子供たちに使ってもらえることを喜んでいる、子供たちを通じて木が喜んでいると言うことを自分たちに伝えてくれる。そう感じたそうである。もっともっと木の良さを、木の持っている魂を伝えて行くことを自分たちの使命とし、事業を拡張して来たそうである。木を扱う前は、コンクリート事業や福祉事業に携わったりしたそうであるが、ある時、ヒノキの精が下りてきて、「私たちを世の中にもっと認めてもらえるように普及してください。」と言う声を聞いたとか・・・ちょっと神がかった話だが、木に関わるとそうとしか思えないくらいいろんな事や人が繋がってくるのだと言う。同じような考えや意識を持った人たちを木は結びつけてくれる、そう実感したそうである。森さんはそういう赤い絨毯が敷かれたところを肩の力を抜いて歩いて来ただけであると・・・藤原先生との出会いもそうであるし、スギダラとの出会いもそうだ。
   
  昭和40年ごろが製材業としてのピークで、その当時は木造船の材料として長崎や鹿児島に出荷していたそうである。50年代に入ると船の需要は減って行く中で、コンクリートの事業をやったり、時代の流れに合わせ転換を図ってきた。そんな中で学童用の机の製作依頼が熊本県庁よりあったことを契機に木材加工の分野を始める。製材所ではそんな加工ができないので、パートナーを探すも条件がなかなか折り合わない。仕方がないから自分たちで機械を買うことを決意。多くの苦難を乗り越え、NCルーターを使いこなせるようになり、いつの間にか木工所になって行った、と振り返る。 大工さん、機械加工職人、塗装職人等専門スタッフを一気に雇ったそうだが、その出会いも神がかった出会いだったという。そんな信頼できるスタッフたちと「みんなで楽しく仕事をしよう!」という企業理念を共有し、自立心を醸成し、全てを任せられるようになった。故に社長がひと月も会社を留守にしても大丈夫という事らしい。 一方、森さんと小野さんで取り組んでおられる子供向けのイベントや木を使った学習支援の活動は森商事にとって重要な営業活動で、必ず2件、3件と仕事に繋がって行っているそうだ。そういった活動はリピートも呼び、次々にお客さんのニーズを満たし、感謝される。モノを納めて感謝され、お金ももらえる。何ていい仕事なんだ。でも、それが本当の仕事なのではないか、と自信を持って語ってくれた。 顧客は熊本市内であったり、宮崎が多いとの事だが、当然、熊本での仕事では熊本県産材、宮崎では宮崎県産材を使用する。割合的には宮崎が一番多いとの事。杉材に関しては生産量No.1の宮崎において、少なくとも学童用の机や椅子を製造しているプレーヤーが少ない、というか無いと言うことらしい。もったいないとも思えるが、事業として成り立たせるためには需要だけに応えてても継続して行かないので、やりたい人がやるしか無いと言うことだと思う。幸い天草と言えど、熊本県は九州地域の中央にあり、地の利は良い。近県での連携と言うのも九州全体の強みになる。
   
  森商事の家具を熊本の伝統工芸館に出展する機会があったそうであるが、伝統工芸品と比べると自分たちの製品はモノとしては劣っているにも関わらず、ニーズがあると言う。ある意味、伝統工芸品は作り手のわがまま、自分たちのはお客さんのわがままを形にするから求められるようになると自己分析する。そう思った時にもっとお客さんのわがままを聞かねばと思い、そういう家具作りを心がけているとの事だ。 森さんは今回のような展示イベントだけでなく、九州各地で行われている保育園団体の研究会や勉強会にも精力的に参加し、知名度を広げ、確実に森商事のファンを増やしていっている。
   
  お話を伺う中で、スギダラ倶楽部と森さんの間には、ボクも知らなかったところに既に多くの接点があった。最初の接点は都城と日向での杉コレクションだったらしい。森商事さんは杉コレクションを含む宮崎やまんかん祭りに出展者として参加、自社で製作されている杉家具の展示販売をされていた。その時にボクも含め、スギダラメンバーと接点を持っていたらしく、特に天草出身の若杉さんと、同郷同志の話に花が咲いたらしい。千代田もお会いしていたのかも知れないが、覚えていなかった。(失礼)
   
  実は8年前から宮崎県日向市の平岩小学校に学童用机、椅子を納めて来たとの事。その縁と実績もあって、今年の震災の復興支援として宮崎県が被災地に供出している学童用の机椅子のセットの製作を請け負えたとの事。ある時、その平岩小学校に納めた家具が壊れている旨の連絡があり、訪問した時の逸話が素晴らしいのでご紹介したい。学校を訪問すると不具合があったのは単にビスが緩んだだけであったが、その時に学校の先生とお話をし、先生が「私たちは杉の机を使わんといかんとですかね?」と投げかけて来たそうである。森さんは、「宮崎県は杉の全国一の生産地ですよ。そこで杉を使わないなんてことがありますか? 是非使ってください。」と切り返す。一方で、「スチール製には傷が付きにくいとか丈夫であるとかメリットもあるので学校の方針に口出しはしないが、、、」 そんな話をしている中、先生から今回不具合が出た椅子を使っていた女子生徒の話がでた。先生はその生徒に新しいのを買ってあげるからと言うと、その生徒は泣き出したそうである。何年も自分のものとして使って来た机と椅子をとても大切に思っていたのだそうだ。森さんはその話を聞いて、森さんが木育としてやっている「森の宝物づくり」の話をし、先生の共感を得る。
   
  その後平岩小学校の4年生から中学校の1年生までの4学年を対象に1泊2日の「森の宝物づくり」をやることになったそうである。かなりローカルな話で恐縮だが、平岩小学校と言えば、我らがスギダラ仲間で、あの移動式夢空間の仕掛け人である和田さんのお子さんが通っている学校だ。そんな接点と言うか、繋がりが隠れていたことに驚いた。もしかしたら平岩小学校で杉製の机椅子が採用されているという話は和田さんに聞いたことがあったのかも知れないが、まさか、それを作っていた人とここで繋がるとは正にスギダラっぽい話の展開だ。この机と椅子は卒業と同時に生徒が記念として持ち帰るそうだ。さすが日向市、杉の活用において素晴らしい施策を実行しているな、と改めて知らされた。 また、ルートは違えど、同じような匂いのする事をやってる人たちがいるんだ、それがこうやって繋がって行くのも木の力、杉の力なのかも知れない。
   
  今回、森さんが高浜でのフィールドワークに参加されたのも、元々藤原先生とは以前から間接的に接点があって、興味もあったし、スギダラも何をやってるかはわからないまでもその存在自体は知っていたからだそうだが、結果としては、森さんにして「よくぞ高浜に来てくれました!」「オレのために藤原先生はやってくれたんだ。ありがとうございます、私のために・・・」と言えるくらい感動したのだそうだ。前述したように、森さんは肩の力を抜いて歩いてたら赤い糸で繋がっていた。自分がやって来たことと同じ匂いをスギダラに感じた。それに尽きる。 これは天草支部でも何でも自分ができる事をやるしかない!と率先して天草支部の支部長を引き受けてくれた。 森商事としては「森の宝物づくり」が一番PRできることであるし、天草にはたからものがたくさんある。観光局も宝島観光を銘打っているし、天草支部は木でできる「たからものづくり」を売りにして行けたら、と思っているそうだ。フィールドワークのワークショップを通じ、「自分たちにできることはベンチを作ることです。小サインを作ることです。」と語る。高浜在住の企業として、振興会に入っている入っていないを問わず、自分たちにできることを楽しんでやって行くことが高浜を元気にして行くことに必ず繋がって行くと・・・
   
  最後に天草支部長としての呼びかけをそのまま転記する。
   
  「天草支部作ったけど、熊本の方にも無いので、膨らませようと思います。杉を扱ってるから材木屋じゃないといけないよ、という概念は全く無いんで、全く持ってみんな楽しく酒でも飲みましょうよ? 何か、語りましょうよ! それがスギダラですよ。」
   
  また、力強い仲間が誕生した。森さんが同じ匂いがすると言った事が繋がり、同じものになったのである。さらにこの縁と繋がりの連鎖は拡大して、大きな絆を築いて行くことだろう。 森支部長、今後とも末長くヨロスギお願いいたします。(ち)
   
 
  森の宝物づくり体験コーナーで記念撮影。左から毎日のように通う地元の小学生瓦田瑞穂さん、森支部長、九大藤原研究室の平川さんもお手伝いに駆けつける。森商事小野さん、プラリバ内の企画会社「あとりえ木綿子」の斉藤隆志さん
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
 

●<もり・のぶゆき> 有限会社森商事 代表取締役 http://www.forestmarket.jp/company.html

   
 
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