特集 天草・高浜フィールドワーク2011開催
  高浜フィールドワークについて
文/写真 高倉貴子
三浦浩子
   
 
  1.高浜フィールドワークの幕開け
   
  2011年7月16日の午後1時、書道家藤原惠洋氏の筆になる参加者名が壁いっぱいに張り巡らされた高浜公民館には、学生12名、様々な職業の社会人25名、そして迎えてくださる高浜の方々が集結し、「これから一体何が始まるんだ?!」という期待と不安で一杯になった。多くの参加者が"フィールドワーク"というものに参加するのが初めてで、とにかく様子が分からないのだ。
   
 
  開会式そして方々から来た参加者の自己紹介をして、少しお近づきになり、まずは高浜のまちを歩こう!という段になって、中原さん(天草市高浜支所)が「外は暑いですから、熱中症にならないようにコレをかぶってください」と、参加者全員分の大きな麦わら帽子をひと抱え持ってきてくれた。その麦わら帽子がこれからはじまるFWのワクワク感を高めてくれた。(実は、スギダラの南雲さん・若杉さんがすでに高浜に来る道中麦わら帽子をゲットしているのを見て、おお!麦わら帽イイネ!と裏方は大いに盛り上がって、中原さんが用意してくれたのです。)

皆でお揃いの麦わら帽子をかぶって歩きだしたら、通りのあちこちに次々と面白いもの、変なものを見つけて、ちっとも先に進まなくなる。
ガイド役の地元の方は、思いもよらないところで参加者が面白がったり、感心したりする姿を不思議そうに眺めておられた。

このよそ者の視点で見つけた高浜の魅力が、次の日のプログラム活動で具体的な提案内容に繋がって行くのだが、猛暑の炎天下を3時間近く歩き続けたため、参加者には翌日のことを考える余裕など無く、風呂だ!ビールだ!と、宴会モードに突入して行った。 飲み会には地元の方も参加され、スギダラ流の延々と続く自己紹介の洗礼を受けながら、楽しく長い長い夜が更けて行った。

ちなみに、学生12名は高浜で初の試みである民泊のモニターとして5軒の家に分かれて、引き取られていった。
老いも若きも、男も女もみんなお揃いの麦わら帽子をかぶってゾロゾロとまち歩き  
 
何でこんなところに大甕が逆さに置いてあるんだろう?  
 
高浜地区の中心的な存在の旧上田家住宅 (国指定登録有形文化財)  
   
   
  2.プログラム活動
   
  フィールドワーク2日目の7月17日は月に一度開催される「持ち寄り朝市」からスタート。
 
     
  文字通り自分で作った野菜や果物、花、漬物、釣ってきた魚や干した海藻が持ち寄られ、販売されたり、作り手同士で物々交換が行われたりする市。 本当は7時30分に開店のはずが、待ちきれない地元のおばあさん達の熱気に押されて、5分前の6時55分にはフライング販売開始。人気商品はあっと言う間に売り切れてしまい、時間通りだと思ってノンビリやってきた参加者は呆気にとられていた。 高浜の朝は早く熱いのである。
持ち寄り朝市の様子    
  フィールドワークの内容は、まず前日に見た高浜のまちのおさらいをして、それからテーマ毎のグループに分かれての活動に移って行った。予め設定されていたテーマは次の5つ。
   
  A: 歴史的建築・文化財まちづくり・・・上田家の再評価と利活用提案
  B: プロダクトデザイン・ものづくり・・・・天草陶石の利活用に関するデザイン提案
  C: 地域社会・まちづくり・・・・・・・・・・・・コミュニティとたたずまいの再評価と利活用提案
  D: 地域の宝探しとソーシャルビジネスプロデュース・・・地域固有資源の再評価と利活用 提案
  E: プロダクトデザイン・公共サイン・・・・地元杉材や天草陶石を生かした公共サイン提案
   
  一方、高浜の方からもテーマに取り上げて欲しい内容の提案があった。 「上田家のことをもっと多くの人に知ってもらいたい」「高浜ぶどうを復活させて、それでワインを作って高浜の特産品にしたい」「高浜観光マップの改定を計画しているので、良いアイデアを提案して欲しい」「高浜には素敵な人々が沢山いる。それらの人々にもっとスポットを当てたい」等々。
   
  各自希望のグループに分かれて、まずは基本の自己紹介から。各グループには地元の方にも参加いただき、色々と教えてもらいながら、実質1日という短い時間で何を提案するか、各グループ頭を悩ませながら戦略を立てる。 コンセプトを固めてから材料集めにまちに飛び出すグループもあれば、とりあえずまちを歩きながら考えようと再びまち歩きに出るグループもあり、グループ活動の進め方も様々。 しかし、次の日の10時からは地元の方々の前で成果発表という条件は皆同じ。 アイデアが固まり、必要な情報を集めて、やっとまとめの作業が始まったところで2日目の作業時間は終了。本当に次の日発表までこぎ着けるのか?不安はよぎるが、高浜漁港からの美しい夕日と地元の方との交流バーベキューが待っている。 こうしてフィールドワーク2日目の夜も地元の方との楽しいお酒で夜が更けて行ったのである。
   
 
 
酒が入れば自然とハイヤ踊りの輪が広がる   火照る身体を海に飛び込んで冷やす面々
   
   
  3.高浜フィールドワークの成果発表
   
  フィールドワーク3日目の朝の高浜公民館は、開始予定時刻より早く集まってグループ活動のまとめ作業を急ぐ参加者で早朝から緊張感に満ちていた。 まとめ作業が終わらないうちから、次々と地元の方が集まって来る。参加者は益々焦る。 そして、とうとう成果発表の時間がやってきた。
   
 
  A: 歴史的建築・文化財まちづくりグループは、何とか上田家をメジャーにしたいとの思いから、歴代上田家当主の中でも功績の大きかった7代目当主「上田宣珍(よしうず)」にスポットを当てて、紙芝居を作成。「よしうず君」という新キャラクターの登場。「さすがデザイナーは違うばい」「頭に渦があるばい、いいね」一同喝采。さらに、地元ボランティアガイド田中さんによる語りの上手さに益々大喝さい。次のグループに相当なプレッシャーがかかった。
   
 
   
 
   
 
  B: プロダクトデザイン・ものづくりグループは、天草陶石から作られる「磁器」に着目し、 "ZIKI"という響きに関連する新商品のアイデアを次々と発表。あり得ない!というものから、本当に商品化できるかも?というものまで多彩な商品提案を展開。 「ZIKIぅ走マラソン」「ZIKIネックレス」「ZIKI漬かる漬物セット」「ZIKIにワインになる磁器ボトルに入った高浜ワイン」等々。若杉リーダーのプレゼンのテンポの良さはさすが! 地元の方が真面目にメモをとる姿は印象的。バカらしいこともとことんやるというスギダラのスタイルが、徐々に高浜に浸透してきます。
   
 
   
 
   
 
  C: 地域社会・まちづくりグループは、高浜の人・コト・音・珍風景に着目したマップを作成。 まちの人に突撃インタビューを行い、何気ない風景の中から珍風景を見つけ出し、それらをマップ上に落とし込む作業を展開。 よそ者・若者の視点で作成されたマップは従来の観光マップとはひと味違うものになった。 特にまちの人への突撃インタビューは、よそ者だからこそできる事。ちらりと見える地元の方の本音も上手に聞き出して、見事なマップができました。
   
 
   
 
   
 
  D: 地域の宝探しとソーシャルビジネスプロデュースグループは、「高浜ぶどう」「椿」「イチヂク」「海」という高浜固有資源に焦点を当て、それらを生かした商品や新たな事業、まちの景観を提案。「僕達はグループ名をつけました。サマータイガーグループです」。すぐに藤原先生に「夏 虎男さんだ!」とばれてしまい、場内大爆笑!まちの人ともぐっと近くなっていく瞬間です。
   
 
   
 
   
 
  E: プロダクトデザイン・公共サイングループは、「白磁のまち高浜」をテーマに、サインを通じてよそ者と地元の人の間でコミュニケーションが生まれるような様々なアイコンサインを提案。かつて天草陶石を搬出していたトロッコ軌道を歴史のサインとして復元することも提案。 「サイン・小サイン・タンジュンダ!」というキャッチフレーズのセンスは秀逸。このフレーズのおかげで、天草支部が誕生したのでは?
   
 
   
 
   
 
   
  4.日本スギダラケ倶楽部の活動紹介、そしてまとめ
   
  5つのテーマに分かれてのグループ活動成果発表が無事終了した後に、日本スギダラケ倶楽部三賢人(南雲さん、若杉さん、千代田さん)によるスギダラケ倶楽部活動報告が行われた。一見洒落っ気たっぷりでノリの良い活動も、その本質は日本の森林環境の保全であったり心の豊かさを考えることであったりと非常に奥深く、それをビジネスとは無縁のところで真剣に取り組んでいるという報告に、会場の人々は静まり返って耳を傾けていた。 このまま真面目に終了するかに見えた高浜フィールドワークだったが、そこはスギダラケ倶楽部の問屋が卸さない。最後は参加者全員で「アヒルのダンス」を踊って大いに笑った。
   
  帰り際、学生と民泊でお世話になった高浜の方々が名残を惜しむ姿があった。 たった2泊3日という短い時間だったが、明らかに学生と民泊先の父母とは新たな家族という強い絆で結ばれていた。このことも今回の大きな成果の一つだった。
   
  高浜での3日間のフィールドワークは、参加者の心に確実に何かを残したと思う。 そして、何よりスギダラケ倶楽部天草支部誕生に繋がった。今回の高浜での出会いが更に大きな活動の輪に繋がって行くことを願って、近い未来へとつ・づ・く。
   
   
   
   
  ●<タカクラ・タカコ> まちそだて交流機構・日田ラボ事務局・日田時報紙器印刷株式会社
  ●<みうら・ひろこ> 九州大学大学院藤原研究室同人 
   
 
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