連載
  スギダラな人々探訪/第53回 「日田ラボ タカクラタカコさん」
文/ 千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
 
  今回は、5月20日にめでたくオープンした大分県日田市にあるQ大日田ラボ+まちそだて交流機構・日田ラボをご紹介します。
   
  案内を書いていただいたのは、スギダラ北部九州支部のメンバーで日田在住のタカクラタカコさんです。タカクラさんはご自身は印刷業を営まれる経営者でありながら、地域の発展のために地元の商工会を中心にあちこちに顔と手と口を出しまくっている、すご腕の女性です
   
  日田ラボの詳細はご本人より語っていただきますが、今月号の特集記事を書いていただいた九州大学藤原先生の藤原研究室と共同で運営されるとの事です。実はオープン前に地元のケーブルテレビでも紹介されました。千代田はその時にその取材現場に居合わせて、日田ラボを先行見学してまいりましたので、まずはその時の様子をかいつまんででお伝えします。
   
 
  日田ラボ内での取材風景
   
  開設の主旨は・・・
   
  タカクラ:いろんな方たちとまちづくりについて勉強してゆく拠点、活動を継続してゆくための場にしたい。
   
  フジワラ:民芸の故郷小鹿田焼(おんた焼)に興味を持ち始め以来、10年来の日田ファンとして通う。地域貢献が大学にとっても大きな役割であり、日田でその活動拠点を得たい。地域の中でその場にいてこそ認知もされお付き合いも深まる。その街に対する誇り、自尊心、この街のどこが好きかと堂々と言えるものを発掘、再発見し、外から後押しする役割を担いたい。
   
  との事なのですが、要は・・・
   
  まちづくりというキーワードをきっかけに仲間内の寄り合い所にするのではなく、今までに接点の無かった地域の人々との交流の場を設け、交流の幅と深さを広げて行きたいというタカクラさんを始めとする地元有志の想い。 それと日田と日田の人々が大好きで、もっともっとちょっかいを出してさらに仲良くなりたいと願う藤原先生の想い。それらがうまく重なっての共同ラボの開設なのだと思います。 インタビューの中で印象的だったのは、藤原先生の日田に対する興味関心とは裏腹に簡単には入り込めない地域社会のあり様についてでした。
   
  福岡のような都市はそもそも知らない者同士の空間で、紹介し合ったり名乗り合うのが重要。でも日田の人々は親子代々予め知った者同士が多いので、あまり名乗り合わない。そんな中で夏の祇園祭りのように大々的な地域の人々の結束の場もあり、実力を持った人がたくさんいる。一方、そんな人材同士を結び付けるコーディネーターの役割を担う者が少ない(いない)と感じた藤原先生。恐らく、ご自身がその一端を担おうと押しかけ女房のごとく通い続けられ、今回晴れてその活動拠点に相応しい場に巡り会えたのだと思います。
   
  古めかしい家屋を拠点にした理由を聞かれて、藤原先生は「古い建物には何人もの方の人生が宿っている。その空間でどんな営みが?どんな物語があったのか?そんなものに惹かれて築140年のこの場所を決めた。」との事です。 さて、そんな想いの詰まった新拠点「Q大日田ラボ+まちそだて交流機構・日田ラボ」とはどんなものか、まちそだて交流機構・日田ラボの事務局を務めるタカクラさんに語っていただきます。
   
 

   
  文・写真/タカクラタカコ
   
 

まずは自己紹介

タカクラタカコ
大分県日田市うまれ
まちづくりエディター(只今修行中)
まちそだて交流機構・日田ラボ 事務局
大分県技術・市場交流プラザ日田 監事
日田時報紙器印刷株式会社 常務取締役
ようやく日本全国スギダラケ倶楽部の会員に
なりました。


明治期のお屋敷の一角に
Q大日田ラボ+まちそだて交流機構・日田ラボ
が堂々オープンしました。

 
    日田ラボ看板
   
   大分県日田地方は江戸末期からの杉の美林で有名です。鹿児島の屋久杉、宮崎県日南地方の飫肥(おび)杉とならび九州三大美林。文化14年(1817)、日田郡代塩谷大四郎(しおのやだいしろう)が杉の植林を奨励して以来、多くの林業家が育ち日田杉が生まれました。一方、江戸の大名たちを相手に日田金(日田がね)と呼ばれた金貸しで掛屋(かけや)の資本家が成長、そこから咸宜園創設者の儒者広瀬淡窓も生まれています。明治以降も大分県は林産蕃殖奨励をすすめ、杉、松、檜が増えます。その中でも樹種は杉が最多。明治期の林業振興と森林資源の地場産業育成を目的に日田町には県立農林学校と日田郡立工芸学校が創設されますが、これが現在の県立日田林工高校です。日清・日露の戦争は木材の高価をよび植林熱が高まります。第一次世界大戦も造船ブームで木材需要が拡大、戦後も農地解放とは一線を画して山林地主の多くは残ります。日田はそんな杉にまつわる歴史的背景をもって現在を迎えています。
   
   しかし最近の日田のまちは「観光」がメインの産業となり、新しいイベントや観光客の呼び込みに大忙しです。印刷を家業とする私自身も忙しくイベントのスタッフや自分達で始めたイベントのコーディネートで追われています。
   
   そんな折、当地でスギダラを一緒に広めだした九州大学の藤原惠洋先生に、みなさんは「自分達を客観的に見つめ、振り返ること」「日田のまちや人と丁寧に関わっていくこと」「日田のほんとうの魅力や資源を探し出すこと」ができていますか、と問われたことがあります。私達はいつしか、イベントに沢山の方が来たかどうかが評価基準になり、杉をはじめふんだんにある地域の魅力や資源を見つめ直すこと、イベントで出会う人々の物語や地域との関わりをていねいに辿り直すこと、自分達自身の夢や物語を振り返ること、などを忘れていたかのようです。
   
   そんな時に、外部から日田を冷徹かつ愛情をもって見つめてくれる藤原先生と学生・大学院たちのお仲間と私たち地元の後継者たちが一緒になって「日田ラボ」をオープンさせる機会がめぐってきました。福澤諭吉出身地の中津へ続く国道から入った旧街道沿いにある庄屋構えの旧横尾家の離れ「下ん隠居家(シタンキャ)」。旧横尾家は、母屋が江戸後期、離れが明治時代に建てられたもので、数棟の蔵や井戸屋形もあり、貴重な歴史的空間としてどこか落ち着いた懐かしさが漂う場所です。
   
 
  日田ラボの外観風景
 
 
横尾家母屋と井戸   日田ラボの室内風景
   
   日田ラボはここで誕生し、九州大学大学院藤原惠洋研究室のサテライトとして、また日田のまちづくり中間支援を目的に結成された「まちそだて交流機構・日田ラボ」として運営していきます。
   
   月2回程度の「ご隠居カフェまちづくり交流研究会」を開催。ご隠居役の藤原先生はもちろん、若々しい学生・大学院生のみなさん、多士済々に来て頂いて、日田のみなさんと美味しいお茶やおちゃけを一服しながらご交流いただきます。耳寄りなまちづくり話題に耳を傾け、ディスカッションを楽しみ、実際にまちを歩きながら地域の物語や面白い人物を訪ね歩いたりします。参加は無料です。興味を持った方々は、ぜひお立ち寄り下さい。話題彷彿、世間話興味津々、交流多彩でみなさまを虜にすること請け合いです。
   
   
  オープンの様子は以下の九州大学大学院藤原惠洋研究室ブログを参照ください。
  http://keiyo-labo.dreamlog.jp/archives/1640075.html
   
   
  ◆Q大日田ラボ+まちそだて交流機構・日田ラボのスケジュール
   
 

6月18日(土)午前10時〜 第3回ご隠居カフェまちづくり交流研究会 

6月29日(水)午後 7時〜 第4回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
                
「まちづくり資源としての文化財から文化資源へ〜旧横尾家
                        下ん隠居家を事例として」

7月13日(水)午後 7時〜
 第5回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
                        「欧州世界を蘇らせる創造都市の魅力」

8月 3日(水)午後 7時〜
 第6回ご隠居カフェまちづくり交流研究会
                        「市民参加型まちづくりワークショップの原理と手法を学ぶ-1」

 

日程は、都合により変更になる場合がございます。
参加料/無料

 

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◆日田ラボの場所/「旧横尾家 下の隠居家(シタンキャ)」
日田市三和天神町252※旧街道沿いの建物です。(天神郵便局斜め向かい)

◆主催・お問い合せ
Q大日田ラボ/九州大学大学院芸術工学研究院藤原惠洋研究室
電話・FAX 092−553−4529
keiyo@design.kyushu-u.ac.jp
まちそだて交流機構・日田ラボ/タカクラ 090−2395−4593
kako3@lime.ocn.ne.jp

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  ●<ちよだ・けんいち> インハウス・インテリアデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
『スギダラな人々探訪2』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo2.htm
   
 
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