連載
  スギダラな一生/第36笑 「人が織りなす美しい価値」
文/ 若杉浩一
  杉コレ、日向市駅再開発グランドオープンでの感動  
 
  杉コレ2010イン西都が終了した。今年も実に沢山のイベントがあった。(さらに仕掛けてしまったが)しかし本当に毎年質の高さ、年々高まる会の充実度、そして何より企画運営に携わるメンバーの成長と逞しさに感心させられる。本当に皆川さん、池水さん、そして西都木青会の皆さんご苦労様でした。
   
  しかし今年の杉コレは実にレベルが高かった。これは審査委員の先生方、いや神様も仰っていた。
 
  杉コレに舞い降りた神々
  口蹄疫の関係で開催さえ危ぶまれ応募の心配された危機続きの今年だった。しかしそれを乗り越え最大の応募数と小学生190名の素晴らしい作品が揃った。沢山の人の応援に、やめるわけにはいかないという気持ちに皆が変わった。その気持ちが場面を変えてしまったのだ。
   
  最終選考会に残った作品が、また素晴らしかった。子供達の作品は本当に心から、体から何かが出てくる。これを見ると僕たちは、いつから策や技術でその心をごまかし始めたのだろうと、反省させられる。
   
 

今年の最大の出来事は、グランプリを取った有馬君の作品だ。思えば出会ったときからもはや、その可能性は突出していた。
杉コレそのものは、杉を楽しくデザインし、沢山の人が林業や木を加工する人達と地域と繋がっていく、そして元々杉とともにあった、つながりや可能性を再生させていくという意味を持っている。そういった意味ではデザインする側、創る側、見る側、主催者側とが、一体になった珍しいデザインコンペといえる。従って難しい固い話や専門家だけで行われる代物ではない、楽しく魅力的な運営が旨なのである

   
  毎年、毎年、駄洒落のようなテーマに、度肝を抜くような作品が多数応募される。カッコいいだけのデザインは残念ながらノミネートされない。楽しくて、皆が理解出来て、ドキドキして、笑えてなければ駄目なのだ。 そして、さらにカッコいいデザイン。これは大変だ、そう簡単ではない。我々デザイナーなんて、カッコつけたものばかり作っている、まったく笑えないものばかりだ。プロ同士やメディアが評価してなんぼの小ちゃい世界なのである。笑えるどころか、笑ったら怒られるような、ものばかり、本当に皆が理解する、ハッとするものなんて滅多にお目にかからない。
   
  しかし、今回の有馬君の作品は違う、こんな大きな杉の滑り台まずは見た事がない、しかも何とも、色っぽくて、可愛らしい。そして、スベスベで、柔らかくて愛おしい。そして見事な造形力。大人も子供を触って、滑って眺めて、嬉しそうな顔をしている。
  見事な本物なのだ、媚も諂いもない、凛としている。そして笑顔になるのだ。参ってしまった。
   
  コレは形から来ている代物ではない、杉の力を、有馬君の力で新しい何ものかに生まれ変えている、そして誰しもが愛おしさを感じる力を引き出している。 ついに、杉コレの中から次世代に繋がるような本物が出たという感じだった。 有馬君が杉と出会い、スギダラの仲間に出会い、そして数回の杉コレに参加し西都に出会い生まれたもの、僕は、杉コレからこの新しいデザインの誕生に立ち会えたのがとても嬉しい。いや何か、言葉にならないほど、心が震えるほど嬉しい。
   
  もう一つ感動した事がある。それは日向市駅前グランドオープンイベントのことだ。とにかく日向市は凄い、駅前の再開発に様々な人達のエネルギーと愛が集結している、よくイベントをやる、というか、そうなるように、仕掛けを作り市民が、行政が様々なイベントを繰り広げる、色々な人が集まる、それが相乗効果になりまた人が集まる。昔の寂れた駅前に人が集まり活気を呼び、まちに賑やかさが戻ってきた。そして一旦駅前から去ってしまったスパーが再び街に帰ってきたのだ。皆の力でまちに活気が戻ってきたのだ。最初は一部のメンバーの思いと志から始まったことが、人を呼び、うねりになり、人が集まり、経済を呼び起こそうとしている。人の力や思い連携で街が再生していく姿を見て改めて感動するのだった。しかし今回はこの事ではない。日向市市役所の和田さんの仕掛けた「山田洋次監督と倍賞千恵子さんとの映画上映会」のことである。
   
  和田さんは昔から山田洋次監督とは仲良しで、毎年日向市では山田監督の映画上映会が催され日向市の有志で結成された「山田会」が主催している。 その上映会が日向市駅イベントの一部として組まれていた。上映されるのは「幸福の黄色いハンカチ」と「京都太秦物語」。
   
  既に僕は前作品については数回見ていたので和田さんや、宮崎のお誘いがあった事や、帰りまでに時間を取っていたため、何の考えもなく見る事にしていた。ホールは映画館ではなく、文化交流センター。1500人ぐらい入るのだろうか、今時のシネコンにはないぐらいの人の数そして臨時に創られた会場に、上映施設を持ち込んでの特設上映会である。
   
  会場は満席、黄色いハンカチを渡され、一本目の上映後、監督と倍賞さんが壇上に上がられたらハンカチを振って歓迎コールのルールを皆で習得し、上映会が始まった。
   
  この映画は数回見ていた事もあり、前日からの疲労、寝不足もあり一休みをしようと正直思っていた。しかし一休みどころか、その空間に飲まれ、興奮し感動し、終わったら涙でボロボロ顔になっていた。
   
  映画上映のブザーの音とともに、拍手がわき起こる、そして様々な場面で、笑いの渦、そして悲しい場面では皆のすすり泣きの音が聞こえる、場面、場面でホール全体の気持ちが一体化するのである。まるで僕の小さい頃の映画館と一緒だった。皆がキラキラとした顔で映画に望み、泣き笑いそして空間を造り上げていく、その空間にいる事で同じ感動を味わう。本当はストーリーは把握しているし、何回も見ているはずなのだ、しかし、泣けて泣けて、笑えて笑えて、行く先を心配し、喜び、感動する。僕だけかと思っていたら、僕の会社の仲間 もそうだった。そして倍賞千恵子さんも、山田洋次監督もそうだった。 倍賞さんは舞台挨拶の最初、感動されて涙され言葉が出なかった。
   
  何がそうさせたのか、監督はこう仰った「日向は、観客の皆さんが素晴らしい、本当に映画を作る僕たち、上映会を支える人達、そして見る人が一体になるのです。僕はこれが素晴らしいと思う、吉永小百合さんもそう言っていました。本当に映画を作ってよかったと思える。だからまた来ようと思うんです。」 やっぱりそうだったんだ、そうなんだ、だから僕もまた来てしまって、また関わりたいと思うのだ。
   
  この上映会に存在するもの何回も見た映画そして古い施設座り心地の悪い椅子目を引くもの、凄いもの、新しいものは何もない。しかしその空間を感動的にしているもの、それは観客であり、人の気持ちであった。 映画を愛で感謝し、喜び、それを素直に表現する、まっすぐな人達が織りなす価値なのだった。ここにはきらびやかな建築も、高価な家具も、アートも美味しい料理も何もない、しかしとても感動的で、込み上げてくる何かが存在したのだ。
   
  僕たちは何をしてきたのだろう、何をもってモノを作ってきたのだろう、ただ便利なもの合理的なもの、経済に繋がるだけの、モノにすぎなかったのかもしれない。モノを通じて繋がる気持ちや、感謝、感動、人の笑顔。僕らはどこかに置き忘れてしまった。そんなものより安くて簡単で、便利でカッコいいものばかりを追求してしまった。
   
  デザインがそこに何を出来るか?そしてその追求がデザインと呼べるか?賛否両論あろう、しかし今のデザインが為さなかった領域が明らかに存在する事だけはわかる。そして、これからの社会に必要で新しい価値がそこに存在する事は確信している。今は形を為していないし、果たして形を為すのかどうかもわからない。僕はこの何ものかを追い続け、何者になるかさえ解らないが、ここに集まる素晴らしい人達と何ものかに近づけることをドキドキしながら、そして興奮しながら、エキサイトな気持ちで今年の西都のイベントを終える事が出来た事にとても感謝しているしそして参加してくれた仲間や初参加の柏原社長。宮崎の皆さん本当に、本当にありがとうございました。
   
  エンジニア・アーキテクト協会立ち上げおめでとうございます!!
  (何ものかに挑む集団の設立をお祝いして、そして西都のメンバー、日向の和田さんに感謝して)
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
『スギダラな一生』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved