特集 杉と温泉ぐるぐる計画 報告
  杉と杉ぐると私の出発点

文/ 満原早苗

 
 
  私の父は大工です。実家にある作業場には材木が並び、木くずや鋸屑を使って、小さい頃から職人さんの仕事の脇でよく遊んでいました。私の原点は父とそのまわりの職人達と、そしてこの作業場にあると言ってもいいと思っています。 今回の企画の一つであった杉玉温泉の杉玉をはじめ、温泉手形、杉ぐるバス停、看板などはその作業場で制作しました。
   
  8月。真夏の暑い日の作業。合間に顔を上げると、大のオトナ4人が、汗だくになりながら黙々と杉玉を削っている。それを大工の父が眺めている。 普段は職人たちの仕事の場。同じ材料、ほぼ同じ道具を使っているのに、なんだかとてもおかしい。おかしいんです。必死に作っているのがゴロゴロ転がる杉玉なものですから。
   
  作業場を貸して欲しいと伝えた際、父は私たちが何をしようとしているのか、よく分かっていなかったと思います。実は私は最初、杉玉はこぶし大くらいかな〜と思っていました。そのサイズで一足先に試作をしながら、父に「たぶんこれくらいの杉の玉を200個くらい作ることになる。」と言っていたのですが、その時も?マークな顔でした。それが実際に作り始めたら人のアタマより大きなものになっていたのですから、父から見たら全くもって謎としか思えなかったでしょう。自分の仕事場に大工でもない若者がやって来て、娘と一緒によく分からないものを作っている。しかも楽しそう。毎回作業の様子をのぞき込んでは不思議がりながら、笑顔の裏では半分呆れていました。それを私は面白がって観察しながら、しかし、「これでいいのだ」と感じていました。
   
  そして8月末、杉玉温泉をトップにしたリーフレットが刷り上がると、父はそれ以降、知人や訪れる仕事仲間、業者などに率先してPRをしてくれていたのです。
   
  伝わった。
   
  この時、私にとっての成功だな、と思ったんです。 大工や、製材・材木屋さん、山師さんなど、杉に関わって生きている人のほとんどは、建築材料としてしか杉を見ません。 そこに、建築ではない立場から見た杉の使い方をぶつける。 これこそが、大工でも木工作家でもない私が杉ぐるに関わった理由の一つでもあったのです。
   
  同じ素材でもいろんな見方があると言うこと、いろんな関わり方ができるということを、私に一番近い人たちに知って欲しかった。別に建設業界に風穴をあけたい、とかいう大げさなことではなく、型にとらわれがちな建築という枠から、もっと自由にものづくりを楽しめるという感覚を知って欲しいなと。職人でもない私が余計なことかもしれないけど、明るくものづくりをしている若者や、それを応援する人、そしてそれを良いと感じる人がたくさんいるということを、まず伝えたかった。きっといい刺激になる、と思ったのです。 木工だろうと家づくりだろうと、杉に関わる人々が杉を楽しむことができれば、それは絶対に消費者に伝わるし、そうすることで山林を守っていくことができる。時間はかかるかもしれないけど、すごくシンプルな流れだと思うのです。
   
  今回の杉ぐるは、今後一緒に仕事をしていく建築の仲間たちに、「私のすきなコトやモノ」を知ってもらういい機会でした。そしてこれから出会うお客さんにも、「私は建築以外にこういうコトやモノも大好きなんです。」というのを知ってもらう、分かりやすいツールになると思っています。いいモノをつくるために自分自身も楽しく仕事をしていくには、こういう《感覚》を分かってもらうことがきっと大事になってくると思います。30歳になって、独立し、新たなスタートに立った今年の夏。杉ぐるな日々を通して考えたこと、出会った人々。たくさんのことを学び、いろんなことに気付かされました。このタイミングで自分自身の建築の出発地をベースに杉ぐると関わることができたのは、私にとってすごくラッキーだったと思います。
   
  今回声をかけてくださったユキヒラモノデザイン事務所の長尾さん、「杉と温泉ぐるぐる計画」に関わったすべての方、本当にありがとうございました。 そして、ここに私を導いてくれた様々な要因たち、すべてに感謝します。ありがとう。
   
 
 
杉の端材を、帯のこで角をおとし、ざっくりとカタチを整える   電気カンナで、さらに角を削っていき、「杉玉」にしていく
 
 
 
サンダーなどで、逆目やバリをとる   できた杉玉が温泉へ・・・
 
 
   
   
   
   
  ●<みつはら・さなえ> 一級建築士事務所 スムコト設計 主宰
   
 
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