連載
  吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第45回
文/写真  石橋 輝一
  鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
吉野で新しいプロジェクトがスタートしています。
   
  吉野林業は元来「樽丸林業」と呼ばれ、桶・樽の材料を生産するのが大きな目的でした。
樽丸とは樽の側板になる材料で、年輪にあわせて削った曲面のついた板材です。(樽・桶のことは、月刊杉22号の長町美和子さんの杉があって桶・樽が生まれ、桶・樽で日本が変わった」に詳しく紹介されています。)
   
  吉野林業方式の特徴である三大要素「密植」(たくさん植えて…)「多間伐」(複数回に渡って、少しずつ間伐して…)「高伐期」(100年、200年という長いスパンで育林を行う)は、桶や樽に適した材料を取る為に、長い時間をかけて経験的に培われた林業方式なのです。
   
  江戸時代に隆盛を迎えた吉野“樽丸”林業は、容器としての代替品の登場によって需要が急速に減退し、吉野林業は岐路に立たされる事になります。しかし、密植・多間伐・高伐期で生み出された木材は、年輪が細かく、目合いが真っ直ぐで、節が少なく、色合いが良かった為、建築材としての価値が認められ、再び隆盛を築く事になりました。そして現代、日本人の生活様式の変化、住環境、建築様式の移り変わりの中で木材需要が低迷し、ふたたび次代への分岐点に立っています。
   
 
  吉野杉の樽。ここに吉野林業の原点があります。
   
  このような中で、私たちは樽・桶という“容器”としての吉野材の可能性を今一度考える事にしました。
   
  桶の側板の事を「クレ材」と呼びますが、目込みで、無節、通直、そして色香に優れる吉野杉は、古くからクレ材に最適の材料とされ、重宝されていました。
   
  もともと日本酒は杉の桶で仕込まれるものでしたが、昭和30年代以降の大量生産大量消費・近代化の流れで、琺瑯(ホーロー)やステンレスの桶が主流となり、杉の桶は酒蔵から姿を消していきました。それと同時に大工さんよりも数が多かったといわれる桶師さんも少なくなり、現在では全国で数軒を残すばかりです。
  木桶の衰退は、吉野林業の低迷と重なって見えます。日本酒の需要減退も、この流れの中にあるように思います。
   
  しかし、今、日本酒の「木桶仕込み」が見直されつつあります。木桶仕込みにチャレンジする日本各地の地酒蔵が少しずつ増えているのです。この動き始めた時代の中で、クレ材としての吉野杉に再び光を当てる事で、吉野杉が活躍できる新たなフィールドを創出できるのではないか、日本人のライフスタイルの中に再び「木」を取り戻す事に繋がるのではないか、そんなふうに考えています。
   
  そこで、私たちは「吉野ウッドプロダクト・木のある暮らしを物語る協議会」を立ち上げました。
吉野木材若手軍団チームカスガイの顧問であり、林業家で吉野町議員でもある中神木材の中井章太さんを中心に、樽丸製造業、製材所、日本酒醸造業と、吉野の木材産業を縦のラインで結ぶようなグループを結成しました。
   
  このグループでは、吉野杉の桶のクレ材の生産方法の検討、性能評価分析、全国への酒蔵への発信を行うと共に、「紺屋の白袴にならない」為にも、吉野で木桶仕込みの日本酒を作る事を大きな目的としています。
吉野で、吉野杉で作った桶で、吉野の杜氏が、吉野の水で仕込む。“吉野流”の日本酒を目指します。
   
  メンバーの美吉野醸造さんの杜氏・橋本晃明君は僕の同級生で、以前から木桶仕込みの復活の模索していました。このプロジェクトの中でなんとしても実現したいと思います!
   
  そこで…
日本中のスギダラの皆さ〜ん!
吉野杉の桶で仕込んだ日本酒を飲みませんか〜!!
応援していただける方、一緒に仕込み体験もしたい!という方、大大大募集中です!
   
  やるんだったら、桶の材料を作るところから!
吉野の山に入って一緒に吉野杉を伐採するのはどうでしょう。
製材所でのクレ材の製材見学、乾燥させる為に一緒に桟積みしませんか。
もちろん酒蔵での仕込みも手伝ってもらって、みんなで杉桶仕込みの日本酒を愉しむ!
妄想が暴走気味ですが、大筋はこんな計画です。
   
  そして、この計画で動いていた所、もうひとつ大きなプロジェクトが始まりました!
   
  地元の吉野製材工業協同組合の「吉野材の新たに規格化する無垢厚板を使用する木製水槽の開発」が、平成22年度国産優良木材新規用途開発事業に採択されました。この事業は全国で4団体が選ばれていて、日南飫肥杉デザイン会さんも採択されています。
   
  吉野杉の桶のクレ材開発、日本酒の木桶仕込み復活のプロジェクト。
そして、吉野杉と吉野桧の木製水槽の開発プロジェクト。この2つを同時進行で進めて行きます。
樽・桶で始まった吉野林業。もう一度、“容器”としての吉野材の可能性を模索します!
月刊杉でも随時ご報告をさせて頂きますね。
   
 
  美吉野醸造さんの蔵の屋根裏。薄暗い中、昔使っていた木桶が眠っています→http://yoshinozai.exblog.jp/9429171/。夜明けは近い!
   
  今回のプロジェクトのそもそもの始まりは、今にして考えると、昨年11月の吉野ツアーだったように思います。
   
  南雲さんの「もう一度、樽から見直してみよう」という発想。“樽タル大作戦”“やっ樽でぇ〜”。
この言葉がずっと頭の中に残っていて、意識し続けてきました。
一年かかりましたが、ようやく動き出しました。がんばってカタチにしていきます!
   
   
  つづく
   
   
   
   
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴5年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ: http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」: http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewoodもよろしく!ほぼ毎日更新中です。

『吉野杉のハラオシをしよう!』web単行本: http://www.m-sugi.com/books/books_ishibashi.htm
   
 
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