連載
  スギダラな人々探訪/第46回 「岡山・西粟倉支部『スギアワー』 発足!」
文/ 千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
今回は千代田に成り替わりまして、スギダラ倶楽部・岡山西粟倉支部の立ち上げの場に偶然居合わせた内田洋行・倉内が、その経緯をご紹介したいと思います。
   
  思い起こせば忘れもしない2010年7月2日(意外と最近)。西粟倉・森の学校からセミナーの依頼を受けた若杉浩一氏。そのお供で西粟倉村へ出張することとなりました。
   
  まずは、この西粟倉・森の学校のことを少し書かせていただきます。
「西粟倉・森の学校」は、西粟倉の地域生態系から得られる恵みを村民やお客様に知ってもらい、共に分かち合うための繋ぎ役となる地域商社です。拠点は、旧影石小学校。
 
  西粟倉・森の学校の拠点、旧影石小学校
 
  森の学校にて。若杉さん(左)と森の学校の代表・牧さん(右)
   
  森の学校のさまざまな活動の中で、西粟倉の木材をつかって西粟倉の大工さんの力でモデルハウスを建てちゃうというプロジェクトがありました。しかもその家のコンセプトがまた面白い。モデルハウスは2棟あるのですがそのうち一棟は、『老夫婦が定年後働きながら暮らす家』………働きながら??話を聞いてみるとなるほど、その家にはバリアフリーの代わりに薪割り場がありました。庭の代わりに畑がありました。つまり老後をのんびりと過ごす家ではなく、老夫婦が楽しみながら健康的にアクティブに暮らす家というコンセプトのようです。
 
  モデルハウス『老夫婦が定年後働きながら暮らす家』   薪割り場
   
  もう一棟のコンセプトは、都市部に暮らす若いファミリーのための家を想定して建てられています。一度見学させていただいたのですが、なるほどこれは子供心をくすぐる上に、木材の温かみをダイレクトに感じることができます。子供にとっては最高の環境ではないでしょうか。すごく健全です。でも家の中はフシダラ家です。でもこの節がまた家にアクセントを加えて個性ある家へと仕上がっています。10月2日(土)-3日(日)を予定しておりますスギダラツアーin西粟倉村へご参加の際は是非ご見学下さい。
  西粟倉モデルハウス:http://nishihour.jp/ie/index.html
   
  他にも家具職人を村に呼びよせて「DAIKプロジェクト」を立ち上げたり、しまいには木材乾燥機まで購入して、伐採から製材、製造まで村内でできるようにしちゃったりなど、まぁ地域活性化のために色々とやっております。
ご興味のある方は、ぜひWEBサイト「ニシアワー」を覗いてみて下さい!WEBデザインもカッコイイです!!ニシアワー:http://www.nishihour.jp/
なお西粟倉での活動報告はスギダラ家の人々まで。
   
 

さて、話は戻りまして。今回西粟倉支部長に任命された大島さんも、実はそうやって森の学校の代表であられる牧さんに誘われて「DAIKプロジェクト」に参加している木工職人の一人。
お昼に村へ到着し夕方からのセミナーまで時間があったので、村の工場や工房を牧さんにご案内いただいている最中、坂根公舎という場所に彼は居りました。既に昨年スギダラ会員となっていた大島正幸さん。スギダラ倶楽部の話題でワイワイと話が盛り上がっていると、大島さんから一言。「スギダラ倶楽部って中国地方に支部あるんですか??」すると若杉氏「そういやぁ中国地方に支部無くねぇ?よし、西粟倉支部を作ろう!キミ、支部長な!!」、「はっ、はい!!えっ?」とやる気と困惑が入り混じっている大島さんに、すかさず倉内「はい、握手してください。写真撮りますからね。」…パチリ。「これが支部結成の証拠写真になりますから!!もう大島さん逃げられないですよ(笑)」
そうして、めでたく岡山県西粟倉支部が設立したわけでございます。
ホントに一瞬の出来事で、支部ができてしまいました。しかしこの西粟倉の若人たち、皆ヤル気に満ち溢れて、目がキラキラしていました。西粟倉支部、こうご期待です!!

 
  岡山県西粟倉支部設立の証拠写真
   
 

若杉原生林の素晴らしさなど、まだまだ書きたいことはあるのですが、そろそろ大島さんが痺れを切らす頃だと思うので、にバトンタッチしようと思います。それでは岡山西粟倉支部の支部長に就任いたしました大島正幸さん。お願いします。

   
 
   
  はじめまして、岡山県の西粟倉というところで、木工職人をしている大島正幸といいます。会員番号は、ギリギリ3桁の975番です。栃木県出身。田んぼと森ダラケの環境で育ち、大工だった祖父の影響もあってか、木工職人を目指します。大学卒業後、岐阜県の高山市で約7年、木工に従事してきましたが、去年、独立し個人工房を構えました。日頃は広葉樹も使います。
   
  そしてこの度、縁あって、岡山県西粟倉村の支部長をさせて頂く事になりました。
支部名は「スギアワー」に決定!
   
  西粟倉村は、鳥取県と兵庫県の境に隣接する人口約1600人の小さな「村」。平成の大合併の際に、合併せずに「自立」の道を選択した村です。
村の95%が森林で、夜になると人よりも鹿に出会う確率が高い「モリダラケ」の村。若杉原生林という先日コダマが出たらしい天然林も残されていますが、ほとんどはスギ・ヒノキの人工林です。かつては、林業を始め、タタラや紙すきなど森と繋がった暮らしが成り立っていましたが、近年の木材事情の厳しさと共に、村の林業も衰退、荒れた山も見られるようになりました。
   
  このままではいけないと、この村で生まれたのが「100年の森構想」。
村の山は、スギダラケ・ヒノキダラケ…。これは重荷なんかじゃない、財産だ!
お爺さんたちがこれまで50年育ててくれた山を、ここで諦めない。もう50年がんばって、次の世代には豊かな山と、暮らしを残そう。目指すのは限りある自然の恵みを大切な人たちと分かち合う上質な田舎づくり!
具体的には、小口所有化、所有者の高齢化で管理が難しくなっているバラバラの山をまとめて、一括管理・運営をしたり、村内で製品化まで行えるようにするといったプロジェクトが進んでいます。
詳しくはこちら:http://nishiawakura-fan.jp/
   
  あともう50年挑戦を続けると決めた村は、積極的に熱い人間を村に受け入れていきます。集まったIターン、Uターン者は家族も含め約40名。
森林組合・販売・製作…、様々な現場で、この地の木を活かしたいと奮闘し始めています。一緒に飲めば、熱い話ばかり出る飲み会が、よく行われます。
   
  私もその中の一人。これからも、頑張っていきますのでよろしくお願いします!
   
   
  村の95%が森林   西粟倉村の山。美しい。
   
  天然林である若杉原生林   夏には子どもたちが川遊びをする
   
  工房での作業風景   大島さんが製作した家具
   
 
   
  とええカッコで終わりたいところなのですが、若杉さんにいやいや、書かなきゃいけないことがあるでしょう「人質大島くん」と原稿を戻されてしまいました。「人質」なぜこんな呼ばれ方をしているかを説明するには、2人の人物を紹介しなければなりません。
   
  一人目は「株式会社西粟倉 森の学校」の代表の牧大介さん。牧さんは、先日西粟倉で行われた若杉さんの講演の立役者です。(セミナーの詳細はこちら:http://sugidarake.exblog.jp/13556600/
西粟倉・森の学校:http://nishihour.jp/ (森の学校のことは改めて詳しくご紹介します。)
   
  そしてもう一人が、スギダラ西粟倉支部「スギアワー」発足直後に裏番長に就任した、会員番号192番の深井。実は私の彼女で、木造建築の設計を志しています。
先月号で特集のあった木匠塾の卒業生で、杉コレクション2007 in 都城の入賞者である与語一哉さんの同窓生です。
   
  付き合い始めた頃、彼女の車の鍵に付いた、キーホルダーにしては大きな杉の角材(後にこれがスギダラの会員証と知る)を自慢され、「失くしにくそうだね」としか言えなかったら、「スギを馬鹿にするな!」と言われ……、私に気を許したきっかけは、「ナグモノガタリ」が本棚にあったからだと断言する女の子です。
   
  そんな彼女と森の学校の牧さんとは、僕より長い、大学生からの付き合いで、出会いは「林業塾」というセミナーだったというマニアックな関係。実は、私が西粟倉に来ることになったのは、彼女と牧さんの取引のおかげ?なのです。
   
  私がまだ高山に勤めていたころのある日、西粟倉の牧さんから彼女に一本の電話が入ります。「面白いこと始めましたから、一度見に来ませんか。」温泉があるらしいよ、という話にそそのかされ、私は運転手として同行しました。
100年の森構想や村を案内して下さったその晩のこと、
   
 
牧さん: 「……興味有りませんか?」
彼女: 「あります。でも、私にはまだもう少し修業期間が必要です。必ず来ますから、とりあえず隣に座って美味しそうにコーラを飲んでいる男を人質として置いていきます。使ってみてください。必ず、力になりますから」
私: 「えっ、じゃあよろしくお願い致します」
   
  私は、無垢の木で家具や小物をつくる職人として働いていたのですが、お客様と直接話す機会もありました。大事な材料で、手作業で誠実に作ったモノ。私は心から、そういったものが好きなのですが、相手に伝えたいことが、うまく伝えられない。考えた結果、私自身がもっと山に近づいて、生きた木が家具になる事を理解しよう、それから、もっとお客様に近づいて話をしようと思っていたところでした。
   
  それから、とんとん拍子に話が進み、今に至ります。スギやヒノキを使った家具も、幾つか制作しましたが、これはまたの機会にご紹介します。
ゆるりと、でも熱く中国地方を盛り上げていきますので、皆さんどうぞよろしくお願いします!
   
  大島 正幸
木工房ようび http://youbi.me/
   
   
  西粟倉支部発足!ということでスギダラ本部より「杉太」の贈呈。支部長満面の笑み。   森の学校のエントランスにて。左は暮らし創造部 部長の井上さん。
 
  杉太の裏には・・・若杉さん直筆
   
 
   
  大島さん。どうもありがとうございました。
   
  実は西粟倉支部結成が早速、日刊木材新聞様に取り上げられました。使われた写真は、そうあの西粟倉支部結成の証拠写真。「人質大島くん」を支部長へ引きずり込んだあの写真です。
  WEB掲載にあたって、ご協力いただきました、日刊木材新聞社中国支社の名柄康夫様、ありがとうございます。 出典:日刊木材新聞 平成22年7月17日付
 
  日刊木材新聞 平成22年7月17日付
   
  [ お知らせ ]
  先ほども少し書かせていただいたのですが、10月に西粟倉ツアーが開催されます。
80歳のおじいちゃんが一人で手入れしていてとても美しいスギ林。もののけ姫の世界に入り込んだかのような若杉原生林。幻想的な蛍の光 (10月は見られないかもしれませんが)。
村に一軒だけある美味しいお好み焼き屋さん。そして何より活々とした若者たちのエナジー!!元気をもらえること間違いなしです。是非ご参加あれ!!
   
 
スギダラ西粟倉ツアー
日程
2010年10月2日(土)−3日(日) 一泊二日
内容候補
・若杉原生林散策
・百年の森林見学(百年生の杉の森)
・伐採現場見学(大型林業機械による伐採作業)
・製材所見学
・大工の工場の見学
・森の学校木材加工工場の見学
・工房の見学(坂根工舎など)
・森の学校見学(村内作家の作品、木組の家のモデルの展示など)
・モデルハウスの見学
・意見交換会 など
*残念ながら以上のすべての箇所を2日間でまわるのは無理なので、この中から、プログラムを組む予定です。
詳細
追って、ブログ「スギダラ家の人々」等でお知らせします。
   
   
  *西粟倉村のレポートの詳細はブログ「スギダラ家の人々」を参照ください。
  西粟倉物語第一部:杉の伝道師、村に降り立つの巻→http://sugidarake.exblog.jp/13556600/
  西粟倉物語第二部:西粟倉は若杉ワールドの巻→http://sugidarake.exblog.jp/13556310/
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved