第二特集 ユイス展 in Akita  
  それぞれのユイス
文/写真 武藤貴臣
 
やっぱりというか、スギダライベントなので、開催にあたり多くの人が関わった訳ですが、本レポートでは単純に武藤の目を通してのあれこれを綴りたいと思います。
   
 
   
  ●コトの発端
   
  昨年、スギダラトーキョーにて開催したユイス展
様々な反響を呼び、新宿・自由が丘・武蔵五日市のヨルイチでの展示・販売、更には温泉施設「瀬音の湯」での展示販売も果たすという躍動ぶり。
その中で「販売はしないのですか?」「値段はいくらぐらいですか?」という声が聞かれ、武藤の「ミチユキユイス」が構造・構成が簡単、で、ちょっと作って試験販売という流れに。「まずは30脚ぐらい作ってみよう」という事で作った30脚。
「30脚ぐらいなら、すぐ出て行くだろうし、話題づくりにもなれば…」などとぼんやり思っていたのですが…。
   
 

これが売れなくて、売れなくて。

まあ、適正価格がどうとかいうよりも「販売する機会」があまりなかったという事なのですが。ヨルイチは一夜限りの4時間程度。瀬音の湯での展示販売は多少の期間はあったものの、説明するような機会も作れず。

そうして、熱狂の夏を抜け、秋が過ぎ、「今年はこのまま在庫達は冬を越すのだろうか…」と思いながらもこれといったアクションは起こせず2009年の末を迎えました。

「あー、ユイスどーしようなー」と思いながら、実家での正月を迎えるべく秋田へ。
そして、帰省した際の年間行事の一環としてすぎっちの元へ。

09.08.23.自宅にて…
   
  「あー、ユイスどーしようなー」と思いながら、実家での正月を迎えるべく秋田へ。
そして、帰省した際の年間行事の一環としてすぎっちの元へ。
   
  北のスギダラの活動や、窓山や、秋田市のまちづくりの話なんかをしながら、
「そーいえばユイスは?」という問いに「ねー?」としか答えられず。
「じゃあ、秋田でやろうよ!萩原さんにも会いたいし!」
という明快なすぎっちからの提案とそれまでの武藤の中のもやもやが結実し、ユイス秋田巡回展計画がスタート!
   
  したものの。実際に会場・期日が(仮)として決まったのが3月後半。
期間中、萩原さんにトークイベントをやってもらい、展示費用を捻出しようという皮算用もここで出来ました。
そこから、萩原さんの日程を確保し、前年のユイス展のDMのデータを貰い、秋田でグラフィックデザインをしている、学校の後輩を巻き込み印刷系も進行。
   
  この間、自分は秋田には行かず、メールや電話で質問に答えたり、DMの内容確認をした程度です。実際はすぎっちが、展示の構成やら展示台やら、杉屋台の手配やらを行い、前述のグラフィックデザイナー、noon design boxの矢吹さんが、印刷物や告知活動、果てはフリートークでの飲食物の手配を行い、会場であるココラボラトリーの笹尾さんが設営の段取りや、やっぱり告知活動を行ってくれました。
   
 
  ユイス展 DM
   
  GW中に、ユイス展一式を保存して頂いてる「フルスイング」さんにお邪魔し、秋田への発送手配。本業の方の展示会を控え、忙しい筈のフルスイングさんも手伝ってくれ、万事手筈は整いました。
さあ、後は「萩原さん」だ!
   
 
   
  ●杞憂の初日
   
  そしてとうとう迎えた5/13(木)。
前日、すぎっちから「秋田、すごい寒いよ。東京の2月ぐらいの格好で来て。」という連絡があり、実家の母にも聞いてみたところ「ストーブ付けたよ」と。5月も半ばに!
がっつり着込んで大きなリュックを背負い、むくむくの状態で朝8時半、東京駅へ。
萩原さんは時間通りに現れたものの軽装。まあ、気温はある程度はこころの持ちようでなんとかなるので良いとして…。
実は武藤が心配していたのは、「秋田までの4時間、間がもつのか!」という事。
萩原さんとはスギダライベントやら準備やらで何度も会ってはいるけれど、4時間も隣の席で二人きりなどは全くの未経験!どうしよう!ユイスの話って言っても4時間は持たないだろうし…。秋田の観光とか?いや?この人日本各地をうろうろしてるし、今更観光情報って事もないだろうし…、などと一抹どころではない不安を抱えて、二人ならんで秋田新幹線「こまち」のシートへ。
   
  結果。全くの杞憂でした。
ユイスの話もそこそこに萩原さんの最近の活動の話へとなりました。
出るわ出るわ、「あー、この人本っ当に色んな事やってんだなー」と感心して話を聞いてる内に仙台・盛岡と順調に過ぎ、残り一時間で終着「秋田」というあたりで、日頃の疲れからか萩原さんは眠りの中へ。
武藤も、眠い頭で「良いこと聞いた」感に包まれていたのですが、その話の合間合間にちらちらと入っていた萩原さんの「今日のフリートーク、どうしよう?」という言葉が引っ掛かります。イベント・展示百戦練磨の萩原さん、まさかノープランてことはあるまいとも思いますが。拭い切れぬ不安…。
そうこうする内に午後1時、ついに秋田へ到着!やっぱり寒い!そして雨!
矢吹さんに迎えに来てもらい、会場までの途中、萩原さんのプロジェクトの内のひとつ「てぬコレ」を扱うお店「mana-hi」さんに挨拶。都内でも中々類を見ない規模の「てぬぐい」の品揃えの多さに驚き。
萩原さんも「なんで秋田でこんなにてぬぐいが…」と不思議なようすでした。
萩原さんと「mana-hi」さんの「いつもお世話になってます」の挨拶もそこそこに、展示の壁面を彩るてぬぐいを数点お借りして、一路、会場のココラボラトリーへ。
   
  そぼ降る雨の中、市街地を抜け、秋田有数の繁華街「川反」へ。
   
  会場は、川沿いの元印刷工場だったビルをまるまる買取り、改装したものです。二階には喫茶店、三階には本屋と服飾工房が入居する、この素敵ビルの一階がギャラリー。
   
 
   
  今回の展示の関係者、ココラボラトリーの皆さんとの挨拶を済ませ、二階の喫茶店で萩原さんと遅めの昼食。チキンカレーを食べながら、萩原さんとトークの内容についての話。
食後のコーヒーを楽しみ、優雅な気持ちで時計に目をやると時刻は午後三時。
前日、すぎっちから「杉屋台、会場に入れる時、男手ないから手伝ってネ」と言われた事を思い出す。確か、3時くらいには会場に着くと…。
萩原さんを促し、一階のギャラリーに向かおうと、喫茶店での清算を済ましていると、一階から「ガタン、ゴトン」という物音が、もしや杉屋台搬入かと、おつりを受取り、階段に向かいます。しかし萩原さん、なんだか3階の本屋が気になる様子。
「ちょっとだけ」という事で三階の本屋「窓わく」さんへ。
決して広くはない店内ですが(というか狭い)、店主自らの目で確かめた良書が新刊・古本問わず多数揃えられています。
その中には、萩原さんのものも…。
ここでも「いつもお世話になっております」からスタートし、近年の出版業界を取り巻く状況の話なんかになり、武藤も「へえー」と思いながら時計に目をやると3時半。
   
  「あ!」と思い、萩原さんと共に一階へ向かいます。すでに大きな物音は止んでます。
会場にたどりつくと、運び込まれた杉屋台を前にすぎっちが一言。
「…あー。いたんだ。」
多分他意はない!他意はないはず!電車が遅れてるとかそういう心配をしてくれたはず!
   
  その後、武藤はいつもより気持ち機敏に動き、ココラボさんは適切な配置を萩原さんと相談し、すぎっち、涼ダラと、「展示、今日からだから」と半ば騙す形で呼び寄せた地元の友人の協力の元、設営を夕方5時には無事終えました。(この友人が秋田での購入第一号。価格もこの時改訂しました。)
   
   
  屋台   会場セッティング
   
  屋台にカタログやらを設置して、ご飯コーナーも出来て、てぬぐいも飾って等、細々とした仕上げを行ってる最中、萩原さんとすぎっちはフリートークについての相談。
新幹線の中で「今日のフリートーク、どうしよう?」などとNGワードを連発されていましたが、実際は事前にすぎっちと連絡を取り合い、大まかな内容は出来ているようす。
PCやプロジェクターも手配済みで「なんだ、流石じゃないですか…」と武藤が思ったその時、ふと聞こえてきたつぶやき!
「あー、USB間違えたかなー」
   
  武藤がひとりどきどきする中、開場となり、続々とお客さんが入ってきます。
有料にも関わらず、この日の参加者は40名!
遠くは盛岡・弘前からも。(泊まりだそうです)
そして、「一人で話すのって馴れてないんだよなー。」とビールに手を出した萩原さんと、
「昨日はー、あの書類やって3時で、でそれから別の書類やってて5時でー(午前の話)」
というすぎっちが黒板を背にし、ココラボさんの挨拶でフリートークスタート!
   
   
  フリートーク会場   黒板を使って話す萩原さん
   
  これも、結果から言うと、全っ然大丈夫でした。
あのつぶやきも気のせいかもしれなかったと思う充実ぶり。
参加者との掛け合いも交えながら、スギダラの話、ユイスの話やデザインについての話。数々のプロジェクトを進行する萩原さんなりのコツなど非常に興味深いものがありました。
   
  途中すぎっちが全く謎のタイミングで笑い始め、理由を聞いてみるもわかるような、わからないような理由で、お客さんおいてきぼりなアクシデントもありましたが、まず前半は上々!各ユイスの話の時には自分も説明をし、前半・後半の間の休憩時間に一脚お買い上げ!
   
  これは順調な滑り出し!と浮かれた状態でフリートーク後半のスタート!
さて、後半はどんな話が聞けるかとカメラ片手に客席後ろをうろうろ。
突然、すぎっちから「武藤くんもこっち来て!」と声をかけられ、なすがまま壇上に。
口火を切ったのは萩原さん。
「えー、スギダライベントでは、いつも参加者が自己紹介をして、それが夜中の二時とかになったりするんですが、今日もやりたいと思います。」
いやいやいや、今日のは参加者じゃなくて、観覧というか聴講というか…。
「あー、いいねー。」すぎっち!?
「じゃあ、名前と何やってる人かと、えーと、好きなユイスとその理由を…。」
おおっとお!? これは、壇上で武藤だけがどきどきするイベント!? そんな主旨でしたっけ?
第一お客さんが、今日は萩原さんの話聞こうって…
「あ、えーとじゃあ私から…」
始まったー!つらっと始まった!良いんだ!? あ、全然OK? じゃあそれ、乗っかります!
   
  で、やりました。自己紹介。
結局全員の自己紹介が終わったのは午後9時半。
武藤は乗っかった挙句、数々の反省点を生みましたが、お客さんはみな楽しそう。
通常の展示会にはない、「参加感」がより強い興味を引き出したようです。
(後日、また来ましたーと訪ねてくれた人も何人かいました。)
帰りがけ、ユイス、手ぬぐいを購入してくれた方も多数。
なんだか、単純に嬉しかったです。
   
  その後、打ち上げへ。この段階で10時。
武藤はもう何だか出し切った感じだったのですが、結局萩原さんが、秋田側スタッフと意気投合し、更に2次会へと。お疲れ様でしたーとホテル前で別れたのが2時半。
ああ、眠い!明日はすぎっちと萩原さんを案内だ!
   
 
   
  ●落ち着きの二日目
   
  前日ほど荒れた感じではないものの、この日も雨。そして寒い。
朝10時に萩原さん、すぎっちと会場へ集合、展示の配置換えを行いました。
前日のフリートーク仕様から一変です。基本的には自由が丘での展示スタイル。
中央の高さ30cm程の台にミラーコートのコンセプト説明パネルを配置。
ユイスに座ると銭湯の鏡にそれぞれのコンセプトが書かれているといったイメージです。
   
 
   
 
  展示会場
   
  開場の11時前には無事完成。すぐに何組かお客さんが来て解説をしてる内に12時に。
「せっかくだから…」という事で、すぎっちの学校の近くを案内。秋田市の新屋というところなのですが、日本海に注ぐ河口に近いところで古くは水運・海運の要所として栄えたところです。その為、作り酒屋や、醤油などの醸造元が多く、歴史ある木造建築が残っています。しかし、運輸が陸運へとシフトし、市場原理による価格競争が激化してくるなか、一つ、また一つとお店は消えて行きます。しかし、最近では、現存するものだけでも例えば文化財として、例えば、地域の交流の場としての動態保存を。という動きも活発化してきました。
そのあたりを萩原さんに解説しながら、すぎっちが案内。萩原さんは面白いと思う一方、何か考えるところがあるようでした。
   
   
  秋田市新屋を案内
   
  その後、温泉にも入りました。とはいえ、秘湯とかではなくこれも新屋。学校から5分のところです。そしてここは製材屋さん。製材屋さんの敷地内に温泉が湧いた為、温泉施設のすぐ脇が製材工場という正にスギダラ・ユイスなナイススポット!
あー、これはちょっとのんびりさせてもらおう…と思っていると、
「じゃあ30分くらいで。」と萩原さん。
帰りの新幹線もあるし急がないと、という事?
「いや、あんま長湯しないんで。」
ああー…。そう、ですか。いらっしゃいますよね。まあ、温泉好きってのと、長湯好きってのは必ずしも一致はしませんが。ええ、しませんが…。
という訳でざぶっと入ってざぶっと上がり、コーヒー牛乳だけは押さえました!
(入浴中、萩原さんとちょっとだけユイスのその他のこれからについて話をしました。このあたりは萩原さんの記事の方で)
その後、北のスギダラ秋田支部を訪れスギダラ活動の話なんかをして、駅に向かう途中、ごく普通のアパート二階のセレクトショップ「ミュゼ築地」さんの品揃えなんかに驚いたりしながら午後5時、秋田駅着。
   
  萩原さんは翌日からまた別の展示会があるとの事で新幹線で東京へ。
   
  ふー、とにかく良かった。
スギダラトーキョーと北のスギダラはつながったし、トークイベントの反応も上々だったし、ユイスも結構売れたし、とにかくほっとしました。
展示は8時までやってるので、一度会場に戻り、この日は秋田市から更に1時間程離れた実家に。達成感と安堵感でゆったりと眠りに落ちていきました。
「ああ、あとはこのまま、何事もなく、無事に終わってくれれば。願わくば、持ってきたユイスは完売で…。いや、無事に終わればいいか…」
秋田の夜は本当に静かで、時折バイパスを過ぎる車の音が遠く「さー」と聞こえる程度です。が、翌日。ついに恐れていた事が!!
   
 
   
  ●波乱の三日目
   
  朝、実家の両親に送ってもらい会場へ。
この日は秋田にしてはめずらしく快晴!11時の開場と共にお客さんが入ってきます。
高校の時の美術の先生と卒業以来に会ってみたり、遊びに来てくれた友人のおみやげがなぜかみんなラスクだったり、やっぱりユイスが売れたりして、ほがらかで穏やかな時間が流れました。それが、まさか、あんな事になるとは…。
事前に、話はあったのです。北のスギダラのメンバーが結婚式を同じ日にやると。で、そこにスギダラでサプライズをすると。
南雲さんも来るっていうし、まあ、出る幕はなかろうと。今日も実家でゆっくり休もう、あ、そういえば、学生の時より電車増えたな…などとぼんやり思っていたのですが…。
「武藤くん、今日さ、二次会でサプライズやるから」「はいはい」
「その準備の間、武藤くんユイスのプレゼンやるんだよ。」「はい!?」
既にサプライズの為に何故か展示会場で真っ白なシーツの縫製をしている涼ダラの目が語りかけます。
「ふっ、あんたもか…。」
ええ、うん、どうだったんでしょう?やったかやらないかで言ったらやりました。
やりましたとも!でもあまり覚えてないです!ユイスの話は流石にしませんでしたが、
「もうだめだ…」と思ったところで漸く南雲さん登場!
もう、このあたりから時間の把握とかを放棄しました。
(サプライズについてはすぎっちの記事を!)
その後、スギダラメンバーで三次会。その後生き残りで四次会。
お好み焼きを食べて店を出ると、「ああ、明るいや…」。朝4時半。いったいどうして…。
始発電車で実家に帰り、気を失うように眠りに落ち、4日目の展示には少し遅刻しました。
   
 
   
  ●放心の最終日
   
  会場に遅刻して到着すると、既にすぎっちが会場に。きりっとした顔でお客さんに対応しています。
「同じプログラムを消化したのになぜ?」そこがすぎっちたる所以かもしれません。
その後もお客さんは続々と訪れ、来場者数を見てみると、185人!そしてユイスは完売!
「えー、もうないの?しまった、買っておけばよかった。」というありがたい言葉も頂きました。
夕方5時半、最後のお客さんを送り出し、展示は無事終了!
その後、杉屋台と展示台として使用した断熱ボードやベンチをすぎっちの学校へ。
再び、すぎっちに会場へ送ってもらい、自分はココラボのみなさんと残りのユイスの梱包を。ここで、すぎっちと涼だらは帰宅。お疲れ様でしたー!
7時をまわった所で、ユイスの梱包や、費用の清算を終え、ごく内輪メンバーで夕食。
酒は頼まず、ひたすら緑茶を飲みました。おしぼりで顔を拭きたくて、メガネを外したら、
「なんか、のびたの目みたいになってる…。おつかれ。」と友人。
お腹も満たされ、時計に目をやると、寝台列車の発車時刻9:06が迫っています。
「そこでタクシーつかまえりゃ大丈夫だよ。」と店を出ますが、タクシーがつかまらない!
一度目が合ったのに、手を上げて素通りされる始末。空車なのに!
「ええー!」
「大丈夫、ちょっと急ぎ足でいけば間に合うよ!」と友人。
「え、走んの!?」
「走れー!」
「わかった!じゃあまたー!」
本当、最後の最後まで…。
   
  寝台列車の狭い個室。夢を見ました。 笑ってる人のいる秋田。あたりまえのように使われてるユイス。いろんな人が来て、いろんな事が起きてものすごく大変だけど、楽しいという気持ちだけが残る。そんな夢でした。
   
  ※関係者の皆様、多大なるご理解・ご協力、本当に本当にありがとうございました!
   
   
   
   
  ●<むとう・たかおみ>プロダクトデザイナー
北のスギダラ特派員・スギダラトーキョー
株式会社賀風デザイン所属
   
 
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