連載
  東京の杉を考える/第31話 「旭川と木工とデザイン」 
文/ 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

1月末に北海道の旭川に行ってきた。10年ぶりだ。前回行ったのは、旭川の家具コンペの作品展を東京で開催するための視察だった。あれから10年も経った。今回は、旭川工芸センターの招きで、「商品開発・流通セミナー」の講師と各メーカーの個別指導をおこなうためだった。12社ほどの工場を中心にまわり、夜は懇親会もあり、いい天気が続き、とても充実した3日間を過ごすことができた。もう、このまま旭川に住んでもいいかと思うほどだった。

たぶん、旭川の状況は、10年前とずいぶんかわったことだろう。最近の不況の波は、旭川にも押し寄せてきて、家具が売れない状況が一気に加速しそうだ。そうした中、各社は、生き残りをかけて、動いているようにも感じるし、案外、のんびりと自分たちのつくりたいモノを地に足のついた感じで、つくり続けているようにも見える。30代、40代を中心とする若手と話をしたせいもあり、売れることよりも、まずは、いいモノをつくりたいと思う気持ちがこれほどに強いことに感動さえ覚えた。

旭川は、山に囲まれた地域に35万人程度が住んでいる。最近では、旭山動物園が有名になり、海外からも観光客が訪れるようになっている。木工は、主要な産業のひとつらしいけれど、地元に住んでいる人さえ、その存在をあまり知られていないと言う。ぼくが12社をまわり、話をした印象では、こんなにも木工の産地として、まじめにモノづくりをしているのに、その内容がうまく伝わっていないと強く感じた。

勢いあまって飲み会の席で、「こんなにいい技術がたくさんあり、工場も職人も充実しているのだから、多くの人にそれをそのまま見てもらえばいいよ」と言った。「こんなに自然にかこまれたいいところなんだから、まずは、東京からデザイナーや建築家や流通の人やメディアの人に遊びに来てもらおうよ」と続けた。なんだか、すっかり、旭川の味方の気分になってきていた。

というわけで、飲み会の席で、「旭川木工デザインキャンプ」なるものを、今年の夏7月16日、17日、18日に開催することが決まった。地元のメーカーの若手と、東京のデザイナーなどが、いっしょになって、これからの「木工」と「デザイン」に取り組もうという試みだ。工場見学だけじゃなくて、飲み会やキャンプファイヤーや温泉もありだ。どうせなら、今年だけじゃなくて、10年間は続けようという話になった。こんなことになるなんて、思いもしない展開だ。

できれば、旭川の山にも入ってみたいと考えている。製材所など山の仕事とのつながりも見てみたい。はたして「木工」と「デザイン」は、いい関係を築くことができるのだろうか。「スギダラトーキョー」では、これから10年、旭川に通いながら、「木工」ともっと深く関わりたい。

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て独立。プロダクト、店舗、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
   
 
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