連載

 

杉で仕掛ける/第8回・実践編

文/ 海野洋光

 

 
「杉コレクションの開催前の都城会報紙 幻の原稿」
 

月刊杉が、「杉コレクションの特集」をしている。前号も面白い話でしたが、今月号も面白い裏話が聞けそうですね。実は、杉コレクション2007を取り仕切った都城木青会は、毎月木材の会報紙を発行している全国でも稀な団体なのです。ですから、文章には慣れているはずです。都城木青会のメンバーは、原稿依頼しても書くことには、多分、何の抵抗もなく依頼を引き受けてくれるでしょう。ポテンシャルの高い会団です。

海杉も少しは、都城の杉コレクション2007のことが書きたいと思っていました。でも、肝心の原稿依頼が、誰からもこない。仕方がないので、「杉で仕掛ける」に自分の連載枠内で勝手に書こうと決めました。

しかし、海杉の視線で杉コレクションの感想文を書いたのでは、面白くないだろうし、それでは、「仕掛ける」という連載に則していない。そこで、海杉は、都城の杉コレクションの開催前に書いた文章を「ど〜ん」と載せてみようと考えました。と言うのも、杉コレクションの1次審査が終わってしばらくして、突然、都城の会報紙担当者から「杉コレクションの一時審査のことを書いてください」と依頼を受けていたのです。「いいですよ」といつもの軽い返事でした。

お調子者の海杉は、筆が進むので2本書いたのです。ちゃんと仕掛けを考えてのことです【嘘です】担当の方に「2本書いたのでどちらかは、没にしてください」と頼みました。しかし、それっきり、何の連絡もないのです。会報紙に載せてくれなったのだろうか?森会長や若松専務に聞いても返事が曖昧なのです。「でも、まあいいか」と納得してしまいました。当時、都城木青会は、それどころではなかったのを海杉は良く知っています。「森会長、あの原稿は、会報紙に掲載されたのですかね?」もう、そろそろ、執筆者にも会報を送ってくれるとありがたいのですが・・・。

まあ、改めて読んでみて、予言師 海杉ですね。仕掛けていますね。挑発とも言えるかもしれません。

ですから、載っているのかも、判らない原稿ですので、この「杉で仕掛ける実践編」に2つとも載せることにしました。読者の皆さんは、どちらが掲載されたか判断してください。

   
   
 
● 1本目
   
  杉コレクション1次審査を終えて
日向木の芽会 海野洋光
   
 

杉コレクションは、日本で唯一の杉材のデザインコンテストです。この杉コレの入選作品以外で日本中のデザイナー、建築家などの専門家が注目している点があります。ひとつは、審査委員長に内藤廣東大教授を迎えている点。二つ目は、実物大の作品を主催者が作り上げる点。3つ目は、この杉コレクションを素人集団で運営し、しかも毎年その主力メンバーが完全に入れ替わる点です。この3点は、実は、コンテストを主催する団体(プロの目)では、考えられない非常識なことらしいのです。

日本最大のデザインコンペ、グッドデザイン賞の審査委員長の内藤廣教授が、宮崎県の素人集団のデザインコンテストに審査委員長を引き受けていることにどのデザイン・建築関係者に聞いても「?」なのです。しかし、これには大きな理由があります。内藤教授は、日向で開催されたシンポジュウムで老人の悲痛な叫びにも似た訴えを聞いたのです。「先祖伝来の山を守りたい一心でやってきたが、もう持ちこたえられない」と言う老人の叫びは、日本の林業・木材業の惨状をよく表しています。このままでは、山や木材がだめになるそれには「杉」だと。木材業界の青年団体である木青会の無謀な動きに快く引き受けていただいた理由がここにあるわけです。

実物を主催者が製作するコンテストなんてどこにもありません。しかし、応募者にはこれは魅力的です。世界的な建築家内藤廣氏に選ばれた自分の作品が実物となって登場し、多くの人たちに披露されるこんなデザインコンペは、世界中探しても見つからないでしょう。それは、宮崎が、都城が杉の生産地であると同時に杉を加工し、モノを作る技術を持っているという証なのです。直に、デザイナーや設計者の要求に応えることのできる地域だと言うことを日本中にアピールしているのです。

杉コレのテーマや杉コレの運営母体は毎回、変わります。このような非効率的な運営方法をとっているコンテストはどこにもありません。しかし、木材業界が一番不足している点は、素材である杉をデザインによって付加価値、新しい命に変えてくれるデザイナーや設計者との結びつきだと思っています。●を■にして儲けた時代は終わりました。杉コレのノウハウ・ソフトは、オープンであるべきですし、更に多くの人に関わって欲しいと考えています。開催に当たって要求される技術やテクニックは並大抵のものではありません。しかし、杉コレを終えて得られた団体やメンバーのキャリアは、次に自分たち独自の活動をするという原動力では、最高の品質のソフトになることでしょう。

そして、杉コレの一次審査が終わりました。これは、山登りで例えるならば、頂上がはじめて見えた頃なのです。まだまだ、道のりは遠いですが、山頂でのビールはまた、格別に上手いものです。

   
   
 
●● 2本目
   
  日本を代表するデザイナーと建築家2人の格闘
日向木の芽会 海野洋光
   
 

杉コレクションの本当の魅力は、一次審査なのです。私は、過去3回の一次審査に関わってきました。どの、一次審査も思い出深いものでしたが、今回の都城での一次審査は、さまざまな面で勉強になった審査でした。ここからは、海野独自の視点ですので、誤解のないようにお願いします。

まず、杉コレクションの場合、審査方法、審査の基準がどんなコンテストとも違うのです。杉コレクション流と言っても良いでしょう。作品のデザイン的水準を求めるのは、コンテストとしては当然ですが、さらに、内藤廣氏や南雲勝志氏の視点は、実物を作るという前提に立っていました。これは、構造や加工のテクニック、杉と言う材料のクセなどさまざまな面が、選ぶ側の力量が問われています。作品の大きさ、広がり感、形、杉の使用量などなど、全作品の傾向も重要なポイントとなります。どんなに素晴らしい作品でも、もし、選ばれた作品がベンチばかりだったらどうなるでしょう。そんな細かい配慮が感じさせる一次審査でした。作品の全体の出来やデザインのポイントを即座に判断してその中から最も優れた作品を開催場所である神柱公園をイメージに描きながら選び出す作業は、格闘技のような真剣勝負そのものでした。

私が思う杉コレクションが他のコンテストと一線を画くところに屋外での演出力があります。演出には、2つポイントがあります。実物作品と応募者です。一次審査通過者は、プレゼンテーターとなって木青会の製作した実物でプレゼンテーションを審査員に向けてするのです。しかし、これは、プレゼンテーターにとってはどえらい落とし穴なのです。杉コレクションには、一般の入場者が作品に触れているのです。一般の入場者は、審査には加わることはありませんが、この一般入場者が作品を引き立てるのです。杉コレクションは、木材関係者が出来なかった。いえ、やりたかった一般の人を杉で惹きつけるデザインを求めているわけで木青会のメンバーは此処一点に注目をしなければなりません。そうなんです。出来た実物は、作者の思いやコンセプトを越えて作品自体が説明し始めるのです。実物があれば、力のある、魅力あるデザインは、一般の人には説明は要らないのです。小手先のプレゼンテーションが全く通じないことに応募者は戸惑うでしょう。それが杉コレクションなのです。

私は、一次審査を間近に見て日本のデザイン界で最も注目されている天才2人が選んだ作品のパワーは、杉コレクションIN都城の成功がゆるぎないものになったと確信しました。それどころか、今回の杉コレクションは、デザインコンテストの常識が変わるくらいのインパクトのあるかもしれないと予感しているのです。

   
  杉コレ一次審査
  杉コレ一次審査の様子。100点近い模型が集まりました。
  ここまで絞り込みました   真剣な議論
  応募100点の中から、ここまで絞り込みました   真剣な議論
   
   
   
   
 
●<うみの・ひろみつ>日向木の芽会
HN :日向木の魔界 海杉
   
 


 
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