私の自宅近くに「専門誌の表紙を飾っている店があるよ」と知人から去年10月ごろに「志村や(11号参照)」を紹介されたことがすべての始まりです。この界隈に引っ越してきて間がなく、まだ行きつけの店もない酒好きな私にとって「志村や」は、願ったり適ったりのお店で、それからというもの2日と空けず通い続けることになりました。
ちょうどその頃、アパレルメーカー・ショールームの内装設計という依頼があり、来る日も来る日も杉を見つめながらお酒を飲んでいた私は、何の迷いもなく「今回の設計はこの材料で」と実に短絡的というか自然の流れ(?)で杉材を使い設計することにしました。
しかし40坪を超える空間の中で、杉材を如何に仕上材で使うかが問題です。クライアントのアパレルメーカーは、華やかな彩色を施されたニット製品が商品の大半で、内装仕上材には色を持たない材料か、または白ペンキで塗装するということが大前提。
そこで私は杉材を白のオイルステインで染色して軽く拭取り、杉の美しい木目を生かす方法で使おうと考えました。
イメージとしては「杉の木目を漂白して永遠に閉じ込める」そんな感じです。
ここで悩みました。相当悩みました。
杉材を使っている建築・デザインの先達は、無垢材のまま使うことが当前の前提で、色など塗ろうものなら「何のため杉を使うんだ」と怒られそうな勢いです。杉材は無垢で使うことが一番気持ちいいことぐらい「志村や」に通っていなくても分かります。
でも今回はそうもいかない・・・・・そんな私を救ってくれたのは志村さんの一言でした。
「杉を使うといっても無垢材にこだわらなくてもいいんじゃないかな」
そうなんですか?そうですよね!「志村や」と同じじゃなくていいんですよね!!
杉を塗装するという邪道で禁じ手のような仕上方法を認めてもらったおかげで肩の荷が降り、私は一気に杉を使い始めます。
ウナギの寝床のようなこの空間を、木造船船内のように床も壁も連続して木材を貼り上げてしまうデザインを思いつきました。 ハンガーに吊るしたとき洋服の下床部分はホコリ溜りにしかなっておらず、兼ねてよりどうにかならないものかと考えていたのが、これで解決しました。こうして床と壁の合計で約200uもの杉材を使うことになったのです。
あとは杉材の産地と業者さん選びです。月刊「杉」WEB版の編集長、内田みえさんにご相談したところ、たくさんの産地・業者さんをご紹介頂きました。しかし皆さん熱心な業者さんばかりで決定要因がありません。
そこで何気なく「志村やの杉材の産地はどこですか」と尋ねたところ、宮崎の「飫肥杉」という返事が返ってきました。 そこでこちらのバックナンバー(15号参照)で調べたら、飫肥杉は戦前より木造船の材料になっていたことが判明。
飫肥杉?木造船?今回の内装デザインコンセプトは「木造船の中にいる感じ」。だったら杉材は飫肥杉以外ありえないだろ!!
というわけで「志村や」の杉材と同じ川上木材さんにお世話になることになりました。
打合せのためクリスマスの日に宮崎まで出張し、年明けに素晴らしい飫肥杉が搬入され、あっという間に1ヶ月が過ぎ工事完了。
竣工してもやはり杉材の仕上げには自信がなかったのですが、見学に来られた皆さんにいい評価を頂いて少し安心しました。 既にショールームとして運用開始していて商談に来られた方々は、杉の仕上げが心地よいのか皆さん長居をされるそうで、 商機が増えてありがたいとクライアントから報告がありました。
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