連載

 

スギダラな人々探訪/第19回   建築家 阿部直樹さん(会員No.556)の巻

文/ 千代田健一

杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。

 
 
  ニュー・スギダラスポット登場。仕掛け人は建築家の阿部直樹さん。
 

今回は行きつけのスギダラバー「志村や」で知り合った建築家 阿部直樹さんをご紹介いたします。
最初に志村やでお会いした時に、ご自身で設計されたスギダラなインテリアのショールームのお話を伺いました。
その後、今年の杉コレクションの準備のため、宮崎から上京された海野さん率いる木青会都城軍団が、そのショールームを見学に行くと言うので、ぼくも合流させていただき、その機に乗じて阿部さんに飫肥杉使うことになった経緯を書いてもらうよう無理に頼んでしまいました。実は今月号は別の企画を立てていたのですが、うまく段取りできず、困っていた時にまた阿部さんにお会いできる機会がめぐってきたので、いやー、まさに思う壷でした。
さらに当然の流れですが、会員にもなっていただきました。阿部さん、急なお願いに快く引き受けていただいてありがとうございました。
詳細は阿部さんの記事を読んでいただければわかると思いますが、東京の代表的な?スギダラスポットである「志村や」の杉に魅せられ、通い続け、飲んだくれるだけでなく、即ご自身の仕事の中で使ってみた。というとても暑苦しい?奮闘記です。

これでまた東京に素敵なスギダラスポットが増えました。木造船の材料として名を馳せた飫肥杉の魅力が表現されたとても心地良い空間です。このスギダラなショールーム、販売店向けの商談スペースになっているので、一般の内覧はできないらしいですが、地下鉄茅場町駅4B出口を上がったすぐのところにありますから、お近にお越しの際はちょっと覗いてみてもいいかもしれません。くれぐれも怪しい行動は取らないように! ちゃんと見たい方は月刊杉編集部までご連絡ください。

 
●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
 

「始まりはいつも志村や」 文・写真/阿部直樹

   
 
 

私の自宅近くに「専門誌の表紙を飾っている店があるよ」と知人から去年10月ごろに「志村や(11号参照)」を紹介されたことがすべての始まりです。この界隈に引っ越してきて間がなく、まだ行きつけの店もない酒好きな私にとって「志村や」は、願ったり適ったりのお店で、それからというもの2日と空けず通い続けることになりました。

ちょうどその頃、アパレルメーカー・ショールームの内装設計という依頼があり、来る日も来る日も杉を見つめながらお酒を飲んでいた私は、何の迷いもなく「今回の設計はこの材料で」と実に短絡的というか自然の流れ(?)で杉材を使い設計することにしました。
しかし40坪を超える空間の中で、杉材を如何に仕上材で使うかが問題です。クライアントのアパレルメーカーは、華やかな彩色を施されたニット製品が商品の大半で、内装仕上材には色を持たない材料か、または白ペンキで塗装するということが大前提。
そこで私は杉材を白のオイルステインで染色して軽く拭取り、杉の美しい木目を生かす方法で使おうと考えました。
イメージとしては「杉の木目を漂白して永遠に閉じ込める」そんな感じです。
ここで悩みました。相当悩みました。
杉材を使っている建築・デザインの先達は、無垢材のまま使うことが当前の前提で、色など塗ろうものなら「何のため杉を使うんだ」と怒られそうな勢いです。杉材は無垢で使うことが一番気持ちいいことぐらい「志村や」に通っていなくても分かります。
でも今回はそうもいかない・・・・・そんな私を救ってくれたのは志村さんの一言でした。
「杉を使うといっても無垢材にこだわらなくてもいいんじゃないかな」
そうなんですか?そうですよね!「志村や」と同じじゃなくていいんですよね!!

杉を塗装するという邪道で禁じ手のような仕上方法を認めてもらったおかげで肩の荷が降り、私は一気に杉を使い始めます。
ウナギの寝床のようなこの空間を、木造船船内のように床も壁も連続して木材を貼り上げてしまうデザインを思いつきました。 ハンガーに吊るしたとき洋服の下床部分はホコリ溜りにしかなっておらず、兼ねてよりどうにかならないものかと考えていたのが、これで解決しました。こうして床と壁の合計で約200uもの杉材を使うことになったのです。
あとは杉材の産地と業者さん選びです。月刊「杉」WEB版の編集長、内田みえさんにご相談したところ、たくさんの産地・業者さんをご紹介頂きました。しかし皆さん熱心な業者さんばかりで決定要因がありません。
そこで何気なく「志村やの杉材の産地はどこですか」と尋ねたところ、宮崎の「飫肥杉」という返事が返ってきました。 そこでこちらのバックナンバー(15号参照)で調べたら、飫肥杉は戦前より木造船の材料になっていたことが判明。
飫肥杉?木造船?今回の内装デザインコンセプトは「木造船の中にいる感じ」。だったら杉材は飫肥杉以外ありえないだろ!!
というわけで「志村や」の杉材と同じ川上木材さんにお世話になることになりました。
打合せのためクリスマスの日に宮崎まで出張し、年明けに素晴らしい飫肥杉が搬入され、あっという間に1ヶ月が過ぎ工事完了。
竣工してもやはり杉材の仕上げには自信がなかったのですが、見学に来られた皆さんにいい評価を頂いて少し安心しました。 既にショールームとして運用開始していて商談に来られた方々は、杉の仕上げが心地よいのか皆さん長居をされるそうで、 商機が増えてありがたいとクライアントから報告がありました。

 

   
  杉がおしろいを塗ったようです。  

工事中。杉船はこのようにしてつくられる。

 
  白く塗装した杉空間。
   
  カラフルな洋服が入るとまたイメージが変わる。   洋服の下に埃がたまることもありません。
 
 

このように少し変わった仕上方法の杉材が受け入れられ、「杉材を無垢で使う」という呪縛から解放されたことで、 少しでも杉材の可能性が広がったならば、今回の私の仕事は成功したと言えるかもしれません。 杉の魅力はその素材にあることは当然のことながら、 「日本全国スギダラケ倶楽部」を中心とした強力なネットワークにもその魅力があります。 このネットワークこそが杉の魅力の半分を占めており、杉を杉たらしめている部分に思えてなりません。 私は「志村や」を通じてそのネットワークの恩恵に与り、新しい仕事がまた「志村や」から繋がり始めています。 これからも微力ながら「スギダラ」の広報・拡大に努め、新しい杉材の可能性を探求していこうと思います。

最後にこの場をお借りしてお礼申し上げます。
私に自由な設計の機会を与えて頂いたアパレルメーカーのエサンス様、 悩んでいるときに背中を押してくれた志村さん、貴重な情報やアドバイスを頂いた内田さん、 最高の飫肥杉を用意して頂いた川上木材の川上社長、細かい打合せに付き合ってくれた担当の福原さん、 いつも美味しいお酒を出してくれた渡辺さん、素晴らしい什器類を設計したアシスタントの吉川嬢、 設計発表の場をいち早くご用意して頂いたスギダラの千代田さん、 そして遠方より見学に来て頂いた多くの皆様、本当にありがとうございました。

   
 

エサンス・ショールーム
東京都中央区日本橋茅場町1-13-13
七宝ビルディング1F

日比谷線・東西線/茅場町b3出口徒歩0分
(小売をしないショールームのため内覧は出来ません。内覧をご希望の方は月刊杉WEB版編集部へご連絡下さい)

   
 

<技術的解説>
・杉板寸法:L=4000,W=120,D=24,面取3mm
・杉板枚数は、平場になっている間口W=3720をW=120で割付た31枚、両サイドの円弧壁がそれぞれ10枚
・本実加工は円弧壁の貼上げでメス部分を少し大きく作ることで遊びを作り、オスと干渉しないようにしている
・円弧のジオメトリは擬似楕円の一部で、大円半径1800、小円半径600を組み合わせたもの
  円弧壁高さは約2000で杉板10枚が貼り上がる
・ハンガーパイプは床・壁の特性からすべて上部から吊るす懸垂式とし、
ボディーは円弧壁に土台が設置出来ないため、専用の金具を製作してハンガーパイプに吊るしている
この展示方法はこのショールームでしか実現出来ない方法である
・壁仕上は奥に向かって立った場合、対峙する壁面に鏡を貼り、両側にはステンレスを貼っている
特に柱型の内側は合せ鏡となり、洋服が無限に掛かっているように錯覚させる
・正面の大鏡は可動間仕切壁になっており、バックヤードのボリューム増減を移動により対応する

   
   
   
   
 
 

●<あべ・なおき>スギダラ会員No.556
阿部直樹建築設計事務所主宰

 


 


   

 

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