連載
 

吉野杉をハラオシしよう!/第73回「製材は、引き算の製造業」

文/写真 石橋輝一
"駆け出し"専務の修行日記
 
 

今月は製材の現場をご紹介します。

製材業は、丸い丸太を四角の木材に加工します。分類上は第二次産業の製造業となります。製造というと、いろんな部材を組み合わせて、ひとつの製品を作るイメージがありますが、私達の製材業は、原材料の丸太を分解しているだけです。木材を接着して作る集成材は、製造業という言葉がぴったり当てはまると思いますが、製材業は分解するという行為が、製造しているという事になり、なんとも不思議な製造業です。

原材料となる丸太は、何十年もかけて育っています。人間と一緒でクセが付いています。このクセは、丸太の状態では安定しているので、分かりにくいですが、製材して分解すると、そのクセがパッと現れます。また、丸太の内部がどうなっているか、実際は分解するまで分かりません。丸太の外見だけで、その中身を予想しなければなりません。

製材工場の花形である「ハラオシ」さんは、製材機(台車)を操縦して、原木丸太を製材します。見学された方は分かると思いますが、かなりのスピード感で、製材しているので、なんだか簡単そうに見えますが、その一瞬の中に、丸太のクセや中身を予想して、木取りをしています。

集成材と異なり、無垢材の場合は、一度分解すると、二度とくっつく事はありません。だからこそ、そこに価値が生まれるのだと思います。

   
 
 
丸太の断面、木肌の様子を見るだけで、クセ、節や傷の具合を判断します。   これは、強風などで木が曲がった時に、地平に対して水平方向に断裂してしまった部分です。
   
  私たちは「シナ」と呼んでいます。人間でいうと、骨折したような状況です。このシナは、表皮にも断裂跡が残る場合があるので、外見の状態で分かることもあります。皮をめくって、木肌にも形跡がある場合は、内部で断裂している事が多いです。シナの程度によりますが、写真のような状態の場合、繊維が完全に裂けていて、構造材などの荷重のかかる部材には向いていません。
   
 
  木材の繊維方向に入る細かな割れが集まったものを「カミナリ」と呼んでいます。落雷を受けて発生するものと思います。カミナリを受けた形跡は、丸太の断面にも見ることが出来ます。製材した時点ではくっついていても、乾燥が進むと、割れが広がる場合があります。これがひどくなると、バラバラに分解してしまうので、注意が必要です。カミナリが入っている木は、不思議と軽いです。これは乾燥が進んでいるからですが、もしかすると、落雷を受けて、水分がとんでしまったのかもしれません。
細かな割れが集まったものが「カミナリ」    
   
 
  木は反ります。年輪の外周部に向かって反るが通常で「本反り」と呼びます。アテがひどいと、逆方向に反り、用材としては使いづらくなります。 木が山で立っている時、谷側を「木裏」、山側を「木表」と呼ぶのですが、斜面に対して、姿勢をまっすぐにしようとして、株に近い木裏面には応力がかかります。この部分を「アテ」と呼んで、年輪の晩材(濃い年輪の部分)の木目が通常よりも太くなります。アテが全面に入ると、製材して分離した途端に、逆に(木裏の方向に)反ってしまいます。
これは「アテ」がきつく、逆反りした状態です。    
   
  アテの程度にもよりますが、短く切って、真っ直ぐにして使うこともありますが、あまりにひどい場合は建築材には向かず、パルプなどの材料として使用します。
   
 
  これは、住宅などの鴨居に使われる材料です。乾燥後の修正挽き前の状態です。右に向かって反っているのが分かると思います。「横反り」と呼んでいます。横反りを想定して、幅を広い目に製材していましたので、修正製材をして、真っ直ぐに挽き直します。この写真をよく見てもらうと、右半分の年輪の晩材が通常よりも太くなっているのが分かると思います。「アテ」です。木材は乾燥が進み、内部から水分が抜けると、変形することが多いです。一度変形した材を修正すると、その後の変形が少なくなります。品質の良い木材を作るために、とても大切な工程です。

「横反り」の状態

   
   
  製材は、一本の丸太を分解して、どんどん切り離していきます。いわば、引き算の製造業です。100年も生きていたら、大なり小なりケガはしていますし、クセも持っています。一本ごとの個性、持ち味を見極めて、木材の品質を損なわない事が大切です。ここが、製材所の腕の見せ所。この製材の面白さ、奥深さを体感してもらえるように、吉野中央木材では月1回に「ほまれきっさ」という工場見学イベントを開催しています。来月は10月18日(土)に行います。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。詳しくは、当社ホームページをご覧ください。 ほまれきっさ@吉野貯木
   
   
   
   
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴8年。杉マスターを目指し奮闘中!
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