特集秋田

秋田二ツ井町との出会いと杉をテーマとした活動紹介

 

 

 

 

今井俊博先生の二ツ井町と杉に関する報告 
 http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/014.html

 

 

 「快適な暮らしという言葉がありますが、私は嘘だと思います。快適とか清潔とかというのは、ここ100年ぐらいの間に間違った衛生観念として、西洋から入ってきたものです。明治のはじめ頃、日本にきた西洋人たちは日本人が非常に清潔であるとびっくりしていました。これは例えばお風呂によく入るということですね。日本は湿度が高くて、発酵しやすい風土なので、よく風呂によく入るということです。逆に、日本人は不潔であリシラミがわいていると言われ始めたのは、第二次大戦後のことです。2つの考え方、栄養はたくさんとった方が良い、清潔にした方がよいというのは間違った考え方だと思います。

 現在の生活では、人間の体温と大気温との差がほとんどありません。いつも一定です。昭和37年頃、高気密・高断熱の空間の中で、空気の湿度・温度を常に一定にしておくエアコンディションの考え方、システムが西洋から入ってきたためです。もともとエアコンはアメリカの工場で温度・湿度を一定に保つために導入されたものです。アメリカやヨーロッパのように乾操した風土、つまリー年中乾操しているような風土においては、エアコンの中で人間が機械と同じように生活をしてもそんなに問題は起きません。

 日本のようなモンスーンアジアでは、特に夏に高温多湿となるところではいろいろと問題となります。昔から頭寒足熱といわれてきたように、頭の方を冷たくして、足の方を暖かくした方が人間の健康には良いとされています。エアコンでは逆になるので、これを解決するためには室内の空気を撹絆しなければなりません。つまり余分なエネルギーをかけなくてはならなくなり、ますます悪循環となってしまいます。

 日本の農村において里山から堆肥の原料となる落ち葉を集めなくなってきたのは昭和40年前後からです。それと柴刈りをしなくなったのも同時期です。時代とともに炭焼きがなくなり、春の山菜もあまり取らなくなりました。昭和40年を境にしてこれらの事は起こり始めました。

 私が最近どんなことをしているかというと、3つの地方自治体とともに里地里山のプロジェクトを構想したり進めたりしています。その中で気がつくのは遊休地が増えていることです。特に茶畑、東北方面ではりんご園、九州方面ではみかん畑などです。桑、りんご、みかん等は、かつては外貨・ドルをかせぐために導入されたものです。農業を工業化して積極的に輸出したのですが、これが全部駄目になってきています。山間地だけではなく、商用地でも同じです。暮らしを支えていく社会が管理社会なんですね。アジア全体にその傾向が広がりつつあります。とにかく現金を握らないと何もできないのです。まず最初にそろえるのが家電製品、次に車。これが、私たちの暮らしを異常なものにしてきました。
 さて、日本の風土というのはモンスーンアジアのエリアに含まれています。5月の下旬あたりにヒマラヤ・チベット周辺の大気循環が変わります。南インドからミャンマー、インドネシア、マレー地域、インドネシア、揚子江から南、台湾、沖縄、日本というようなところから一斉に雨期が始まり、田植えのシーズンとなります。よく地図を広げて見るとユーラシア大陸全体の中でヒマラヤ・チベットの世界の屋根から8本の川が流れているのがわかります。この流域がぜんぶ森林。ユーラシア大陸の中で8本の川の流域以外には森林はないのです。この森を切り開いて生活をしているのがモンスーンアジアの住人です。
5月の下旬に気候が一変します。そして約6ヶ月の間は雨期となり、また日本の梅雨は雨期の一形態でもあります。そして、月の下旬に田植えが始まります。そこでは必ず自然信仰、キリスト教とかイスラムのように一神教ではなく、たくさんの神様がいます。神様だけでなく精霊や鬼、妖怪・おばけ・物の怪や道祖神などがたくさんいるのです。アメリカやヨーロッパには、そのようなものは一つもありません。モンスーンアジアの住民の自然信仰、一番ベーシックな自然と一体になるという対象が、つまり森なんですね。

 建築費全体に占める設備費の割合が、明治の始めぐらいはだいたい5%前後だったのが、これが第2次大戦後の30年代の半ばぐらいから20%を超えました。今はだいたい35%前後になっています。特にハイテクが入ってきてからの事務所建築では50%を超えています。建築費より設備費の方が高くなっているのです。このような設備付帯建築の最大のシンボルが東京都庁です。コンピューターを動かすために一年中冷房しています。人間のためではありません。生物としての人間にとって、都合の悪い環境の中で働いているのです。その最大の問題は外気温との差が大きくなって、いつも同じ気温、かつ乾燥しすぎて体温の調節機能がなくなってきている点です。結果として免疫力が低下しています。

 戦前の在来工法、日本建築は換気と風通しを基本としていました。木とか土とか紙とかの呼吸する建材を基本としていたのです。日照権なんていうのは戦後に言われるようになってきましたけれど、日照権と同様に風通し権も必要なのではないか思います。戦前の場合は、普通に家をつくれば健全な正常な暮らしを送れたはずなのですが、昭和40年前後から違う状況になりつつあります。

 換気と風通しを考えた住宅建築を考えることです。使用される建材が、プラスチック・石油系で充満している、いわゆる石油系のもので塗装されているものはだめで、生成りでないとよくありません。木竹土石という言葉がありますが、塗装や接着剤も自然系のものにしていく必要があります。

 住まい手、そこに住む人ですね、暮らし手といいますが、消費者になっています。生活者ではないのですね、悪い言葉で言うと、無知・無経験となってしまっています。価値観、ライフスタイルが違うのです。生活者は物を生産し消費して土にもどしていく、そういう循環を生活の中で、暮らしの中で持っています。消費者はその一つの側面しか持っていません。工場で人がつくってくれたものをただ消費するだけです。同時に隣近所とのつきあいや家族のなかのつきあいもなくなってきています。

 在来工法の住宅ですと大工さんを中心とする工務店といいますか、大工さんの棟梁が全部しきってきました。住む人が自分はどんな家に、どんな暮らしをしたいのかを大工さんに伝えてきました。現在の社会では、これはなかなか難しい事です。20世紀後半の設計士が工学部出身なのは非常に問題です。エンジニアにすぎないからです。それだから新建材しか使えない、そのため、木を使った設計ができないのです。

 モクネットは、「米代川流域の秋田杉を、それを使って家を建てたい人に直接届ける、産地直結のネットワーク」です。秋田杉の並材を、軸組工法の一定の規格を定めて製材し、自然乾燥をしながらストックしておき、材の安定供給を可能にしています。また、軸組み工法の施工のできる大工や工務店とネットワークを組み、川上から川下まで、木の家づくりをコーディネートすることで、秋田杉の並材による建築物の普及を進めています。モクネットの活動は、都市生活者向けの活動からスタートしましたが、ここ数年、米代川流域で地元の木を使う運動へと拡大してきています。町営住宅「きみまちハウス」もこのようなモクネットの理念と重なっています。モクネットは、自然と共生した資源循環型の地域づくりをめざし、持続的な経営ができる林業、秋田杉並材の案的供給システムづくり、「木が見える」家づくり・まちづくり、木質を中心とした自然エネルギーの町づくり、里山構想などの未来への町作り構想を描いています。

 もう一つの大きな問題が木材の流通です。木材の流通というのは、山の森林組合から町の材木屋さんに入るまでに、いくつもの流通の関門があるというか、旧態依然とした流通システムです。ほかの業界でも、京都の呉服屋さんの問屋の仕組みよりはましかもしれませんが…。オーガニックな食品を販売していこうとしたなら、工場ではなく工房的な仕組みの中でっていく以外にありません。売られる場所は、スーパー・GMSなどではなく市の復活が必要と思います。木材も同じで、工房的な製材と流通、そして市的な売買、消費者とじかに関わってくる流通の仕組みが作られる必要があります。



 
●今井俊博 <いまい としひろ> 
『衣のエコロジー、住のエコロジー、食のエコロジー』(NHK出版)
ギャラリー「ゆうど」http://www.jade.dti.ne.jp/ ̄yu-do/
 
 
   
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