特集 スギダラ大分ツアー
  スギダラな一生/第65笑 「地獄めぐり」
文/ 若杉浩一
     
 
 
  スギコダマをつくる有馬君と出会い、JR九州の津高さんと出会い、JR九州大分支社のデザインをお手伝いすることになり、三宮さんと出会った。そして、今度は何故か、津高さんがJR九州大分支社長として大分へやって来た。
この、タイプが全く異なる、三人が何故か、大分で盛り上がっている。
有馬君から、大分、別府の様々な面白い人々、場所の話しを聞く度に、ここには何かが潜んでいる、そう確信した。
   
   
 
若杉: 「有馬君、スギダラ大分ツアーやろう!!今回、山やスギは見ない!!」
   
有馬: 「三宮さんのところとか、大分の林業とかは?どうするんすか?」
   
若杉: 「いや、僕らは元々杉好きではない。杉という代物に潜んでいる、何かを追い求めている。そう、杉というソウルだ!!
そんな感じで行かねえ?」
   
有馬: 「マジっすか?」
   
若杉: 「マジです。題して、『スギ地獄めぐり!!』」
   
有馬: 「マジっすか?」
   
若杉: 「マジです。でさ〜、何かない?」
   
有馬: 「えっ?何かないのって?」
   
若杉: 「う〜〜ん、とんでもない感じ?」
   
有馬: 「えっ?え〜〜、う〜〜ん、あっ、こう言うのはどうですか?
僕らがよく集まる居酒屋で、この道を通ると、必ず寄ってしまう、はまってしまう店があるんですよね〜。
   
若杉: 「うん、それで?」
   
有馬: 「名付けて、『寄り道地獄!!』どうっすか?」
   
若杉: 「それで?」
   
有馬: 「そこね、僕たち仲間が集まるんです、別府のモノづくりの仲間や、別府の変わり者がね。皆、変態です。」
   
若杉: 「いいね〜〜〜、寄り道地獄に変態。いいぞ、いいぞ、いい感じ。」
   
有馬: 「別府はですね、裏通りが面白い。昭和が沢山残ってるんですね。遊郭の跡、エロ、温泉、客引き、昔ならではの映画館、渋い居酒屋。なんか、人間の欲望があるって感じで。」
   
若杉: 「うん、それで?」
   
有馬: 「名付けて、『裏道地獄!!』」
   
若杉: 「いいぞ、いいぞ〜良くなってきたぞ〜〜。それで?」
   
有馬: 「いや、それでって。若杉さん〜これ、地獄はありますが、スギが〜」
   
若杉: 「だからさあ〜。スギっていうソウルだよ。」
   
有馬: 「だけど、皆は、いいんすかね?」
   
若杉: 「大丈夫!!津高さんのオフィスも皆見たいし、あれは正統派。基本見る。
『大分スギ支社地獄!!』」
   
有馬: 「三宮さんは、大丈夫すか?」
   
若杉: 「三ちゃん自身がもはや、スギ地獄。
まあ、重ねるとすれば、宿は、別府杉の井ホテルで。」
   
有馬: 「マジっすか?」
   
若杉: 「マジです。」
   
   
  スギダラ大分ツアーは、そんな話から始まった。
スギダラの特徴、それは、冗談が真実へと変わることだ。
そんなはじまりを、津高さん、三ちゃん、有馬君が現実へ仕組んでくれた。
全国から、30人程の仲間が集まった。東京、静岡、福岡、熊本、宮崎などなど。
   
  津高さんの計らいで、初日はJR九州大分支社で「地域密着とデザイン」というお題で、社内勉強会が開かれた。初日組は約半分のメンバーがそこにお招き頂き、津高さんのスタッフのみなさんと一緒にセミナーに参加した。
   
  第一部は、JR九州大分支社の実践「トレインナーレ」について。
津高チームの鉄道、駅そして、アート、地元のクリエーターやアーティストと繋がり一つの活動として広めて行くというもの。正しく、鉄道が軸になり、駅、地元、行政、頑張っている人達を繋ぐという内容だった。
いや〜素晴らしい活動なのだ。なにより、発表している社員の活き活きした姿、そして、コメントする社員の皆さんの、普通の姿が美しい。大手企業にありそうな、型にはまった正しらしさというものではなく、自分事として、自分の言葉が出ている。言霊を感じるのだ。
  「すげ〜〜なんだ、おい、この雰囲気、こりゃ〜ありがちな企業の匂いがせんぞ。何だろうこの感じ?」一人で呟いていた。
「若杉さん、こりゃ、俺たちの出番はないっすね!!」と千代田。
「ないな!!参りました。さっさと、焼酎でも飲むか!」
   
  そして、JR九州のスギダランナー、荒川くんの取り組みの発表。「日南線における活動」。
急遽、活動の担い手の日南市役所の健ちゃん(河野健一さん)が参戦しての発表になった。
いやいや、凄かった。体から迸る純なる力、そして飽くなき運動、そしてそこで起こる様々な美しい代物。沢山の苦労があったに違いない、見えない何かがあったに違いないが、そこにある小さな美しい事象には誰しもが見える、感じる何かがある。この発表が、JR全体で特別な賞を獲得したのがうなづける。企業という、ともすれば、ブラックな部分を容認する組織の中で、かくも真直ぐで当たり前の、小さなことの積み重ねが、大きな何かを動かすという真実に誰もが感動するのだ。
「僕たちの体の中に潜んでいた、確かなものに、語りかけてくる」のだ。
   
  そして、その後の、僕と千代ちゃんのセミナー。
やりにくいったら、ありゃしない。ここは、ご想像にお任せする。
そして、その夜、大分で懇親。相変わらずの無限自己紹介地獄と焼酎地獄。
   
   
   
  そして、翌日、手作り男子の展示会場へ集合、各地のスギダラケな全メンバーが揃った。
それにしても、手作り男子の作品は圧巻だった。こんな所に、こんなにも凄い人達がいるのか、正直びっくりした。インターナショナルな感性とスキルを持っている人達。そして、モノづくりに真摯で、多くを語らず、出しゃばらず、すばらしい人柄、一言で言うとモノづくり変態集団。
「大分のモノづくりはタダモノではない。この人達はもっと、もっと世に、知ってもらうべきだ。」
「いや、そうに、違いない、いや、僕達で、いや俺も応援する!!こりゃ、何かが必ず起こる。」そう確信した。
  有馬君は、この素晴らしい人材の存在を以前から知り、このタイミングで、このメンバーに知ってもらうべくスギというテーマで仕掛けたに違いない。
それにしても、素晴らしい作品群、素晴らしい可能性である。
こんな繋がりを、仕掛けを出来る、この素晴らしい仲間達、場所を問わず、集結するエネルギー、なんだか、また可能性を見せてもらった。本当に感動した。
「スギモノづくり地獄」この地を、変える人達の力!!
状態を変える人達、人呼んで、変態。バンザイである。
   
  そして、興奮覚めやらず、一同、ゾロゾロJR九州大分支社へ移動。
皆で大分の駅弁を食べ、大分支社の見学。見学中にも、大分支社の社員の皆さんの笑顔、挨拶、立ち振る舞いを見て感心するのだ。自分たちの会社が果たしてそうであるか?
こんな、優しい、活き活きとした空気を創っているか?
支社の杉の香りとともに、素敵な雰囲気に皆悦に入っている。
これが、正しく「スギ支社地獄!」人を魅了する地獄の始まり。
   
  そして、一行は津高親分の秘蔵っ子、東本くん、通称「ヒガポン」のナビゲーションのもと、一路、別府へ。
ヒガポンは、スギダラ荒くれ集団が一般市民へ迷惑をかけないかを常に気を配りながら、何も聞こうとしない者達へ、一生懸命説明をしていた。
題して、スギダラ名物「野方図地獄」。
   
  そして、別府へ。僕たちは、駅での歓迎に度肝を抜かされた。
「歓迎、日本全国スギダラケ倶楽部!!」横断幕に、JRのメンバー、そして、暑苦しく、動きがデカイ、大声女子のお迎えだ。
「ななな、なんんだこりゃ!! だだ事ではない。」心に、準備がない僕は、口が開いたままだった。
そして、いきなり、熱風攻撃の連射。
鉄道高架下のドキドキする様な風景にドキドキする様な面白いメンバー、そしてそれを一手に従えていると言っても過言ではない、光景と、まるで演劇を見ている様なオーバーアクションと喋りの連射。
   
  「だだだ、だれだ!! だれだ!!何者なんだ〜〜〜〜!!この、実写版キューティハニーのような、女子は!!」
「あれ?若杉さん知りませんでしたっけ?」千代田。
「あ〜〜〜〜あ、ついに出会ってしまった。」有馬君。
「何、何、何!!何者?」
「アベリアです。」
「何だって?アベリア? 余計解らん!!」
「若杉さん、僕が女若杉だって言ってた、アベリアです。」
「ア、ア、アベリア?」
「別府市役所の職員です。アベリア。」
「よけい、解らなくなってきた。」
市役所の職員での変態ボーダーは、健ちゃんまでしかの許容を持ち合わせてない僕にとって、ラインを超えられた恐怖に脳内の整理がつかなかった。
   
  老舗「山田別荘」に着いた僕らは、荷物を置き(本当は山田別荘の解説もしたいのだが、そんなどころではない、いい旅館なので調べて下さい)まち歩きに出陣した。
  別府の裏道、裏街道ツアー。唯一の映画館、懐かしい、僕らの時代の映画館。細い路地、女子の名前は全網羅出来そうなくらいの怪しげなスナック群、お茶漬け屋さん、小料理屋、銭湯、お面彫りのおっさん、木製アーケード、迷い込んだら抜けられない、ラビリンス。暑苦しく語る、アベリア。そして、別府の偉人、油屋熊八のそっくりさん現わる。
もうなんだか、解らなくなって来た。意識が朦朧として来た。
どれもこれも、気を抜けないものばかり。
なんだこりゃ!! この、エネルギーの塊は!!!
裏街道まっしぐら、ディープな別府、ディープな人、人、人。
スギダラというソウル!!
「別府、裏道、ソウル地獄。」
   
  そして、宴会突入!!いつもの、暑苦しい自己紹介タイムの始まり。
アベリアの自己紹介、なんだか中身は覚えていない。なんせ、強烈なパフォーマンス?手の動き?ゼスチャー?に興味を奪われ、好奇心という感覚が全部開いていた。
本人に聞くと、どうやら、中学校卒業し単身ニューヨークへそれから20代後半までアメリカにいたらしい。大学の先生から「別府は最高だ!!」と言われ「そうだ!!別府へ戻ろう!!」と思ったらしい。そして、別府職員へ。
   
  動機と結末が激しすぎる。おまけにだ。
別府の職員になって、何故か一生懸命にやればやるほど、別の職場へ。また別の職場へ。
「まあ、左遷です。左遷からの、左遷。回り回って、また同じ職場へ戻るんですね。
ワカリヤ!!(僕の事らしい)左遷の遷って、遷宮や遷都と同じ漢字でしょう。つまり、これね雅なことなんです。色々な景色を沢山見られて楽しかったです。」
「すげ〜〜な〜〜!!それ、何処かで聞いた事ある人生だ!!そう言う人生ね、名付けて、地獄巡りという!!巡って、巡って、またもとに戻っちまうんだよ。」
「ワカリヤ、ナイス!!」
   
  凄い、アベリアは、酷いことをちっとも酷いと思っていない。いやむしろ世の中を股の間から逆さに見ている。世の酷い事を、雅と思っているのだ。
僕は少なくとも、自分で言い聞かせて、思い込んで、そうして来たが、彼女からは、そのような小さい事はみじんも感じられない。
   
  「ところでさ〜、アベリアという名はどこからきたと?」
「あ〜〜、私 ABE JUNKOなんですが、いかりや長介が大好きで、いかりやのリヤ頂きました。」
「それ、言うんなら、イカリ、ヤだろう!!」
   
  まったく、ますます解らなくなって来た。こりゃ、常人をこえた、変態を超えた彼女、いわゆる、天才!!生きる天才だ!! アベリア王だ!!
   
  おまけにだ、夢は?何だって聞いたら。
「私は、別府になりたい!!」ときた。
名言!!気絶しそうだ。
   
  沢山の苦労や、理不尽があっただろうし、自分の時間やエネルギーを皆に何とも思わず捧げ、何の疑いもなく、進んで捧げて来たのだろう。そういう気配を感じるのだ。
「何と、美しい生き方だろう。」
あの、まち、人達は、この美しさに惹かれ支えられ集まっているのだろう。そう思ったのだった。しかし、そんな繊細な感じは微塵も感じさせない「ヘンテコリンなパフォーマンス」。カッコいいじゃないか!!
   
  僕らは衝撃を受けた、そして、メンバー全てに、即興でサブネームを付けてもらった。これがまた傑作だった。
「近藤だから〜〜 コンチン!!」(近藤怜)
「そのお嫁さんだから、コンチンチン!!」(近藤茜)
「ゆとり世代に育って、チャラ男だから〜 ユトチャラ!!」(高山康秀)
「アカパン先生!!」(河野健一)
   
  大笑いである。一人一人の話に花が咲き、それぞれの名付けで大笑い。
美味しいお酒と、楽しい仲間。
とても素敵な、暖かい、気持ちのいい風が流れる。
とても心地のいい空気。なんだろう、この感じは?
ああ〜そうだ、昔、子供の頃の感じだ。親戚のあつまりだ。
笑い声、楽しい会話、やさしい空気、賑やかな中で、やがて眠りに落ちる。
この感じだ。そうだ、これは親戚の会だ。

全く、血も繋がっていない、年齢も、仕事も違うメンバーが心から認め合い、ひとつの場を創っているのだ。不思議な繋がりだ。
僕は、大人になって、会社で仕事をして、あきらめていた。
もうあんな感じは、この世に存在しないと。ただの昔の出来事だと思っていた。
しかし、ここにはそれが存在する。なんだか、嬉しくて、込み上げてしまった。
僕達は、これを、心の中に大切にしていたんだ、そういう繋がりを。
  それから、2次会、3次会と、とても楽しい時間だった。
   
   
   
  そして、翌日は皆で別府で「地獄蒸し」で美味しい別府の食材を蒸しまくり。
一路、湯布院へ、なんと津高さんの計らいで、皆で豪華旅客車「ななつ星」を見る事が出来た。
   
   
   
  とにかく、すげ〜〜ツアーだった。未だに脳裏に焼き付いて、悪夢のように再現映像が流れるのだ。杉はまったく見なかったが、スギというソウルをメチャクチャ見てきた。そして、今までのツアーの中でも最も印象的なツアーだった。
僕達の魂の中に、もとからあった、何か。そう、僕達の根源、起源に出会ったような気がしたからだ。
そして、そこには、何とも言えない懐かしさや、豊かさや、喜びがあった。
そして、何もない所から、何かが生まれ、形になろうとしているのだ。
   
  僕は、色々な地域で、会社で、ここには、人がいない、経済がない、行政が、経営が・・・と、羨み、何もせず、起こさず、何にも触れず、変わらず、だけど、一生懸命頑張っていると言う人達に出会う。
しかし、自らは変わらず、誰かのせいにして、今を消費して生きる事ばかり。
確かに経済がないと生きては行けない、しかしそれだけでは未来はもっと無い。
お金がなくったって、人がいなくても、何もしなかったら、未来は無いのだ。
未来を信じ、人を信じ、支え合い、喜び合い、何かを創り続けること。
手間や、時間はかかるが、そこからしか始まらない。
誰かではなく、小さい自分から始めればいいのだ。
失敗してもいい、誰から蔑まれていいではないか。
やり続けていれば、やがて一周し元に戻って来る。
そして、その一周の間に沢山の仲間が集まる。
「地獄巡り」それは、未来への始まり。
「極楽巡り」のことだった。
   
  今回は、沢山の喜びを、沢山教えてもらったツアーだった。
本当に感謝している。
このツアーで、スギダラ北部九州支部 大分分会(津高さんが拘っている)で生まれた、3本締め。
「大分、大分、スギダラケ〜〜〜!!」
「別府のお湯は、いい感ずぃ〜〜!!」
「スギダラ、スギダラ、スギ地獄ぅ〜〜〜〜!!」
凝縮されているな〜〜  
解るかな〜〜 ? 
解んねえだろうな〜〜?
イェー!!
   
  津高親分、三ちゃん、有馬君(まるちゃん)、手作り男子の皆さん、そしてJR九州大分支社のみなさん、別府の重鎮のみなさん、そして天才アベリア!!
ありがとう!!
なんだか、やられちまいました、病気がひどくなりそう。
   
   
 
  最年少のスギダラメンバー
 
  別府でのお迎え
 
  強烈なパフォーマンス?手の動き?ゼスチャー?のアベリア
 
 
  大分、別府、三本締め。暴走のアベリアにみんなやられてました。
 
  別府 裏道地獄
 
  大分スギダラツアー参加者みんなで。
   
   
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 所属。
2012年7月より、内田洋行の関連デザイン会社であるパワープレイス株式会社 シニアデザインマネージャー。
企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
月刊杉web単行本『スギダラ家奮闘記』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生 2』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka3.htm
   
 
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