連載
  私の原体験/第8回 「納豆づくり 」
文・イラスト/ 南雲勝志
   
 

 冬の間、12月から4月頃まで雪で埋もれる地域なので、田んぼや畑など外の仕事は雪片づけ以外まったく出来ません。父はこの時期は酒蔵で酒造り、母は機織りといった仕事をしていました。その他に農繁期に向けての縄ない(なわづくり)などをやっていました。いずれにしろ家の中の作業が中心となるわけですが、この時期うっすらと記憶に残っているのが納豆づくりです。小学校の低学年の頃なのでだいぶ曖昧なところもありますが、納豆づくりは囲炉裏を囲んで家族みんなでつくる作業でした。

 囲炉裏の火には大きな鍋が掛かっていて中には大豆が入っています。辺りには香ばしい香りを含んだ湯気が立ち上がっています。それ大豆を「つっとこ」という藁の入れ物に入れるのですが、これは大豆を発酵するためのもので、今でも藁に入っている商品を見かけるときがありますが、その中身の納豆はラップで包まれているのでまさに単なるパッケージです。

  そのつっとこに納豆を入れる方法ですが、まず長さ40cm、直径で5cm程度の太さに揃えた藁の両端を縛っておきます。その真ん中を折るようにグッと曲げ、舟形にして納豆を入れるのですが、子供の小さな手では上手く形が出来ません。そこでつっとこを帽子のように頭に被って形を整えるのです。これは子供だけがやったように記憶しています。今であれば実に原始的というか、衛生的でないと思われるでしょうが、その行程が子供心に楽しくて、そのおかげで納豆づくりの記憶が時々蘇るのです。

 さて次に舟形に開いたつっとこに慎重に茹でた大豆を入れていきます。柄杓に2杯程度だったでしょうか。入れ終わると大豆が溢れないように注意しながら藁を戻し、つっとこを閉じます。そして最後に真ん中を藁で縛って下ごしらえの完成です。これを繰り返して行くわけですが、一度に100個くらい作ったような気がします。

 
  【納豆作りの様子】左が横座といい、大黒柱の前。家長の堰。右奥はきじりといい、たき付けを入れる場所。
 
  【つっとこと納豆の下ごしらえ】左から右へ。中央の状態から頭にかぶる。
 

 大豆詰めが終わると発酵させるために場所を移動します。居間から見える二階の作業場がその場所でした。ここは主に藁仕事をする場所で、一握りの藁の束を30束位束ねた大束が天井まで山のように積んでありました。柔らかくて暖かいので冬はここで遊ぶ事もよくありました。 この藁の中が納豆を発酵させる場所なのです。詳しいことはよく覚えていませんが、単に藁の中に先ほどのつっとこを入れ、上からも藁を掛けただけのように思います。これを「納豆を寝かせる」と言ったと思います。 藁の暖かさと潜んでいる納豆菌とで大豆を発酵させるのです。

 その間一週間くらいだったと思います。納豆を寝かせている間は覗いたり、藁遊びをしたりすることは禁止でした。そろそろという時期になると そっとつっとこを開けて具合を確認します。白く発酵し、粘りが付いていれば納豆の完成です。ただし市販の納豆のような強い粘りはありませんでした。そして上手く納豆にならなかった硬くて黒い豆が結構混じっていて、それを除きながら食べた事を思い出します。

 納豆づくりは楽しかったのですが、納豆は美味しいと思わなかったし、どちらかというと好きな食べ物ではありませんでした。生卵と混ぜたり沢庵や野沢菜の刻んだものを混ぜたりもしていましたが、見た目がいかにも田舎っぽさを醸し出していた事がその理由かも知れません。 今はどちらもとても美味しいと思うのですが・・・

 思えば冬は海から遠く魚も入ってこない。ましてや冷蔵庫も無く(雪洞は天然の冷蔵庫でしたが。)肉といえばたまに猟師が持ってきてくれる熊や猪や兎。そんな中で味噌や納豆、そして家畜の牛乳や玉子などは貴重なタンパク源になっていたことは容易に想像出来ます。

 今、中国の食材や国産でも農薬などが大きな問題になるなか、思えば極めてシンプルで健康的な自給自足の時代でした。 もっとも両親の生活は今でも大きくは変わっていませんが。

   
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo
エンジニアアーキテクト協会 会員
月刊杉web単行本『かみざき物語り』(共著):http://m-sugi.com/books/books_kamizaki.htm
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