連載
  スギダラな一生/第63笑 「魔の13期 後編」
文/ 若杉浩一
  アホを供にした、魔の13期の仲間に感謝の気持ちを込めて  
 
 
  先月の続き、と言っても続けて書いてあったのだが。
随分長くなりそうなので、一旦切りました。さて、つづき。
   
  *これまでの話は月刊杉94号 スギダラな一生/第62笑 「魔の13期 前編」をご覧下さい。
   
  夜の草むらで石垣の根っこを掘り起こす、男三人。
「カキ〜〜ン!」「ダメだ、ここはまだ、根っこじゃねえぞ。」
「おいおい、いったいどこまであるとや?」
石垣の表からの見かけは大した事はないのだが、後ろはやたら長い。
「おい、若杉見てみろ、ここが後ばい!!」
「うひゃ〜〜!!」
「長えええ!!でけええ!!」
3人で、石垣の全貌を探るべく、手で丁寧に、土を払いながらようやく石垣の姿を確認した。まるで、これは、石垣という歯である、表の見えの数倍は長い。先は細くなり、やたらでかいのだ。
「おい、こりゃ、大変な工事ばい。一体何個あるとや?」
「どげんする??」
「参ったばい!!」「あいた〜〜」
「おい、今日はここまでにせんや?未来が見えん!」
うなだれて、3人の泥まみれ男はトボトボ退散した。
   
  「よし、飯食おう!!」「お〜〜!!」
「焼き肉!!」「お〜〜!!」
全く単純である。あっという間に復活する。石垣にも根っこがあるのに、このメンバーには、へこたれる根っこが無いのだ。
泥まみれ、スーツ野郎と現場監督の3人で意気揚々と焼き肉屋へ直行した。
   
  「かんぱ〜〜い!!」「よし、食え!!」
「よ〜〜し、食うぞ!!」
しかし、このスーツ野郎が、食うは、食うわ。
僕がもう腹一杯なのに、どんどん食い続けるのだ。
「こら!!タダだと思って、一体、お前達どんだけ食うとか!!」
「若杉!!どんだけでも食ってもよかて言ったろが!!」
「言った、言った。ばってん、大人としての程があるやろ!!」
「お前達、何人分食う気か!!食うな!!」
「食う!!」
「食うな!!」
「食う!!」
「お〜食え食え!!そのかわり、明日もな!!」
「お〜〜食う!!明日も来たるわ!!」
全く、アホ集団。いまだに会うと、この話で花が咲く。
   
  そして、いよいよ土木工事も、二日目に突入した。奴らも、ちゃんと装備して現れた。三人で団結しながら、石垣の歯を掘り起こした。先ずは全面のセメントで固まったラインをタガネで割りを入れながら、後ろの土を掘り起こす。結構大変な作業である。次第に全く動きもしなかった石垣が、ガタガタと動き始まる。
「おう〜〜おう〜〜動くばい」
「動く動く!!」
「よ〜し動かすぞ!!」「せ〜の〜〜!!」
「だめだこりゃ!!」「メチャクチャ重かぞ!!」
「わかった!!この穴から石垣ば、出そうとするから難しいったい。」
「こん、土ば掻き出して平らになるまでせんと、いかんやないと?」
「確かに、お前頭いいな!岩崎!」「まかしとけ!」
「よ〜し、岩崎作戦開始!!」「お〜〜!!」
アホである。作戦は石垣周辺の土の一斉排除。
余計に仕事が増えているではないか。そして仕事の後。
「若杉〜〜これ、明日からが大変ばい? どげんすっと?」
「うん、任しとけ、考えがある。もう3人じゃ無理ばい。」
   
  こうして、二日目は、石垣の背後の土をどけ、石垣一段目を露にするだけで終了した。そして終了後また、夜の大騒ぎ、翌日は、僕のアパートから会社へと出かけて行った。
   
  さて、いよいよ、方法も見え、集団戦に突入だ。僕は会社の同期と先輩に応援を頼み込み、しかも大先輩から、ランドルクルーザーを借り、装備も増やし、また、あの二人を大船駅に迎えに行った。
「うわっ!! 若杉なんや、お前!! こりゃ立派な土木作業員じゃね〜や」
「おい、会社の先輩と仲間たい。よろしくな。」
「よし、今日は行くぞ!! 大工事だ!!」
「うほ〜〜 楽しくなって来た!!」
もはや、何が楽しいか解らない。何かに向かっていることそのものが、愉快なのだ。会社の二人はこの盛り上がりの意味も解らず、呆然としていた。
   
  この日は、寒くて、雪がチラホラ降っていた。
工事現場に付き、道具を降ろすと、僕はランクルのヘッドライトを現場に照らした。
「お〜〜〜!! すげーぞ!!」「すげ〜〜!!」
初めて来た会社の二人は、この集団の盛り上がりが解らず、呆気にとられていた。たった、ヘッドライトで明るくなっただけで、こんなにも、何が嬉しいのか?
   
  土を平らにし、そこに露になった石垣をゴロゴロ動かして行く。どんどん作業が進んで行く。今まで、あんなに先が見えなかったことが、5人の力でどんどん動いて行く。やがて積まれていた、石垣は全て撤去され道路から、スロープが出来上がった。
「お〜〜出来たぞ」「出来た〜〜!!」
「よし、車で上ってみろ!!」
「よし、解った!!」「行くぞ!!」
「行け!!」僕はランクルに乗り込み、ゆっくりと、スロープを昇った。
「おい!!これ、傾斜が急すぎるぞ。ランクルでこの傾きは普通車は昇れんぞ!」
「確かに!!」
「よ〜〜し、スロープ、なだらか作戦だ!!」
「お〜〜!!」
この軍団、直ぐに大袈裟な名前をつける。そして、もはや、会社の新規二人組は、なんだか解らないが同調するしか、すべが無い。
一斉に、土を掘り起こし、傾斜をなだらかにして行く。結局、敷地の半分はスロープになってしまった。
「どうだ今度は!」
「よし、行ってみるぞ!!」
「お〜〜〜〜〜お〜〜!!」
「いいぞ!いいぞ」
「よし行った!!」
「お〜〜!!」
   
  しかし、そこで呟く、賢人岩崎。「おい、この道路の段差よ、お前これは壊せんぞ、この段差、乗用車は乗り越えられんぞ!どうする?」
「任しとけ!!これだ!!」僕は事務所から借りて来た鋳物の段差乗り越えスロープを、車から取り出した。
「お〜〜流石、若杉!!段取りがよか〜〜!」
   
  「まだまだ、見てみろ、よかか!!」
まるで、星条旗を敵地に立てる兵士のように。
僕は「若杉専用駐車場」の立て看板を宅地に突き立てた。
「お〜〜!!」「うお〜〜〜〜〜〜!!」
粉雪が舞う静かな夜に、男どもの征服した喜びの雄叫びが、こだました。
「やったばい!!」
「やったな〜〜!!」
「やった〜〜!!」
もはや既に、新規組の二人も共に飲み込まれ、喜んでいる。
その夜、狂った男どもの、暑苦しい宴会が続いたのは言うまでもない。
   
  それから、この三人は、数々の災難をお互いに掛け合う。
その度に、災難を災難とも思わず、笑いのネタ、酒のネタにしてしまうのだ。
そして、終わった後に、その時のひどい状況を思い出しては大笑いするのだ。
いわゆる、馬鹿さ自慢だ。もはや、普通では自分自身が許さない。
だから、普通の自慢話など殆どしない。
   
  どれだけ、酷い目にあったか、どれだけ珍しい体験をしたか、どれだけ、情けなかったか、恥ずかしかったか、寂しかったか、どれだけ泣けたか、笑えたか、そして、どれだけ一生懸命だったか。
それが、友と同じ体験ならば、全てが記憶に残り、楽しい話題になり、豊かな時間が積み重なって行く。だから、学生時代からずっと、皆で大騒ぎばかりしていた。先輩から「お前達は、ガキだ。そんなことで、子供みたいに騒いでいる。」とよく言われていた。騒いでいるのではない、いつも、純粋で真面目で真剣だっただけだ、一生懸命だっただけだ。
今の時間を自分が、そのように生きているか? 出し切っているか?
そして、迷惑をかける相手がいるか?迷惑を受け取る勇気があるか?
   
  人は一人では生きて行けない。
大変な事、窮地、ダメな事、酷い事、辛い事、そして最後は死。
起こらないように生きても、誰にでもやって来ることだ。
起きた事を悔いても、人のせいにしても、逃げても、何も面白くない。
   
  窮地にこそ、喜びがあり、豊かさがあり、人の繋がりが潜んでいる。
人の力量、仲間の喜びがここにあるような気がするのだ。
そして、窮地の数程、喜びが存在する。
   
  昔から、先人達は、どんなに食べられなくても、どんなに厳しくても、祭りや、踊りや、寄り合いがあった。寄り合いは、全員が合意するまで、話し合った。くだらない話も含め、皆の気持ちが一つになるまで何日も話し合った。そして全員で協力し合ったのだ。多数決ではない。そこには、チームが一つになるためのデザインが存在したのだ。
   
  経済の進化は、人の繋がりを希薄にした。経済や合理性に合わないものを切り捨てて来た。そして窮地を負わないように、逃げる手法を確立した。
   
  窮地は、悪しきものとして、誰かのせいにしてしまった。
ダメなもの、合理性の無いものは、悪として葬った。
一生懸命より、楽した方が賢いと思い始めた。
そして、汚いものは見ないようにした。
   
  やがて、仕事をしたフリでお金を貰えるようになった。
そして、楽しく無くなった。
   
  僕達は、いつも、楽しい事を最初に掲げた。そしてどんな事も、楽しみに変えようと、馬鹿騒ぎをした。
そんなことは、一人では出来ないし、一人だと折れそうになる。
しかし、僕らには、一緒に騒ぐアホな仲間、そう「変態」がいた。
   
  変態が起こす災難は、骨が折れる、止めないし、しつこい。
だが、恐ろしいぐらい単純な喜びがそこには備わっている。
やり終えたあとの、何とも言えない豊かな時間が待っている。
そして、涙が止まらない程の、仲間への感謝が存在する。
そして、記憶になる。
   
  何が、本当は、豊かなのかは、解らない。
しかし、僕は思う。
   
  僕達の、既に自分の中に備わっている事に、気づくこと、
そして、懸命にカタチにすること、伝えること。
   
  それが、役目である様な気がする。そうでないと、こんなバカバカしいことが、涙が溢れる程、嬉しくて、大切なはずがない。
そこに、何かが備わっているのだ、そう思ってしまった。
   
  恐れず、恥ずかしがらず、全てを脱ぎ捨て、素直に、見えないものへ、身を捧げよう。どうだろうか? なあ、田中!! 村!!
   
  アホを供にした、魔の13期の仲間に感謝の気持ちを込めて。
そして、窮地を目の前に、迷走しているITチームに向けて。
   
   
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 所属。
2012年7月より、内田洋行の関連デザイン会社であるパワープレイス株式会社 シニアデザインマネージャー。
企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
月刊杉web単行本『スギダラ家奮闘記』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生 2』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka3.htm
   
 
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