特集 秋田杉恋プロジェクト&第二回スギダラ全国大会  
  あきた杉歳時記/第51回
文/ 菅原香織
  すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
 
  秋田杉恋プロジェクト」スタートしました!
   
  去る5月26日、全国の杉に恋する人たちをはじめ、関連団体・企業・行政・大学・市民の参加・協力のもと「秋田杉恋SUGIKOIプロジェクト 秋田杉景観デザインコンペ&景観デザインセミナー」が無事開催されました。
   
 
  秋田市交流プラザALVE一階きらめき広場の会場全景。実物を前に最終プレゼンの真っ最中!
  秋田杉恋プロジェクトとは、杉を使った秋田らしいまちなみ景観の形成を通して杉を使う文化を育て、次世代に引き継ごうというプロジェクトです。日本三大美林の1つに数えられ、戦後の県民あげての植林事業によって全国一の蓄積量を誇る秋田県の財産「秋田杉」。しかし外材の輸入解禁、木材価格の低迷などの影響で消費量は減少の一途をたどり、手入れされない放置林が増え山は荒廃していく一方です。「秋田杉」を次世代に財産として引き継ぐためには、杉のモノづくりだけでなく、杉を活かしたまちづくり、杉を活かせる人と杉を使う人とのつながりを創ることが大切だと考え、「秋田杉恋プロジェクト」をスタートしました。
   
  キックオフは1月18日。JR九州の津高さんをお迎えした研修会の際に、「秋田杉恋」の企画を発表しました。(それまでの経緯は月刊杉76号参照)年度をまたいで残すところ本番まで4ヶ月!杉恋の作品募集の告知、後援依頼、協賛金のお願い、助成金の申請、東京での第1次審査会、応募者への連絡、実物大製作先の手配、会場使用申込み、出店者への連絡、ホームページの作成、パンフレットの作成、参加者の受け付け、全国大会の会場手配、実物作品の制作などなど、実行委員会事務局長として文字通り怒濤のような日々を送っていました。
   
  ところが本番まであと2週間、というときにハプニングが!学校で作品の材料搬入に立ち会っていたときになんだか右脇腹が痛いなあ、と思っていたら歩くこともできないほどの激痛に見舞われたのです。ひとまず近所のかかりつけ医に行って見てもらったところ、市立病院の救急外来に行けといわれ検査したところ「大腸憩室炎」という病名で即、入院を言い渡されました。「えっ!入院!?」こんなときに、入院なんて!無理無理、今入院なんて絶対無理!!・・・でも入院治療しなければ治らないと医者に説諭され、しかたなく入院しました。
   
  その晩から絶飲食・24時間点滴治療が始まりました。まずは入院してしまったことを知らせてなんとか杉恋開催に向けてみんなの協力を仰がねば!と、唯一動かせる点滴をしていない方の手で携帯メールやフェイスブックのメッセージでSOSを送りました。みなさん快く引き受けてくれて、なんとか開催中止は免れることができました。おかげさまで私も治療に専念できて、予定よりも早く8日間で退院しました。ただ、ご迷惑をおかけしたり、配慮が行き届かなかったり、協賛金が思うように集められなかったりと、この8日間があれば避けられただろうこともたくさんあり、つくづく自分の至らなさを反省しております。
 

 

  さて、退院後の一週間はあっという間に過ぎ、ついに前日の5月25日。前日に現場組立てを予定していた「カマクラフォリー」の提案者の三好さんと「秋田杉の祭りかざり」の提案者の佐藤さんを連れて、製作担当の武藤さんがお昼過ぎに美短に到着、材料の確認・調整と作品の組立てをお願いしました。18時から21時30分までに作品搬入、会場設営のため、秋田市の道路維持課の2tダンプをお借りして、まちづくり整備室のみなさんにご協力いただき美短から搬出しました。
   
  18時すぎ、会場のALVEには前日入りしていたスギダラメンバーのみなさんが集結!東京から新幹線できたメンバー達はすでに「出来上がっている」状態(笑)。遠路はるばる九州からいらしたメンバーも一緒に会場設営を手伝ってくださったのですが、その手際のよいこと!初めての現場とは思えない動きに、秋田のスタッフ一同「さすが、スギダラメンバー!」と感心しきりでした。
   
 
  前夜の会場全景。椅子や杉屋台、ステージの設営などはおえたものの、まだ作品は組立中・・・
   
  前夜は22時まで会場警備で、その後前日入りしたメンバーによる「前夜祭」会場にチラッと顔を出し、できていなかった会場の看板とバナーを印刷しに美短へ戻りました。卒業生の竹内めいちゃんも手伝ってくれて、完成したころはもう外は明るくなっていました。午前中には秋田杉屋台の飲食屋台や杉モノ屋台、二ツ井の氷菓「じゃっぷぅ」の開店準備のほか、杉ブロックで遊べるコーナーや杉のカヌー、杉のギター、おくりぶね(秋田杉の棺)も展示完了。ギリギリなんとか間に合いました。
   
 
 
めいちゃんが頑張って作ってくれた看板   左から、涼子ちゃん、めいちゃん、あずさちゃん!
   
  12時30分、いよいよ秋田杉恋景観デザインコンペの開始です。最終審査は、実物大に製作された作品の前でプレゼンテーションをするというやり方で行いました。技術的、時間的に提案どおりの仕上げが難しく、あくまで「実物大の試作品」ということで審査をしてもらいました。実は午前中ギリギリまでかかって完成した作品も何点かあり、この日初めて実物大になった作品を目にする応募者の方もいたので、プレゼンテーションをする際に提案通りの仕上がりになっていないことへの戸惑いや不満もあったと思いますが、みなさん1人5分という短い時間でしたがご自分の提案に込めた思いを伝えてくれました。
   
 
 
カマクラフォリーの三好さん   木製点字ブロックの森さん
 
木製点字ブロックの実用化にコメントする加藤さん   秋田杉の祭りかざりの佐藤さん
 
審査員の鎌田副市長   審査員の上森林技監
 
審査員の東北森林管理局長の矢部さん   秋田杉犬の大野さん
 
審査員の篠原先生   審査委員長の川上元美さん
 
美短の学生の大野くん、舘下さん、斉藤さん   審査委員の武田先生
 
審査委員の南雲さん   審査員の小野寺さん
 
スギフネの佐藤さん   wappappaの佐藤さん
   
  合計7作品のプレゼンのあとすぐに別室にて最終審査が行われ、厳正な審査の結果、最優秀賞に浜松市の大野篤子さん提案、石川建設(株)製作の「秋田杉犬」、優秀賞には八王子市にお住まいの佐藤広貴さん提案、(有)中野木工(飾り挽き物加工)+モクネット(柱部分)製作の「秋田杉のまつりかざり」が選ばれました。「秋田杉犬」は会場のみなさんの投票で選ぶ市民賞も受賞。佐藤広貴さんは上小阿仁出身で、以前日向市の杉コレでも最終審査に残った方でした。また、特別賞「よく作ったで賞」には、小さなピースの集成材で曲げわっぱのイメージのスツールを実物大に表現した、札幌市の佐藤利之さん提案、石川建設(株)製作の「wappappa」、特別賞「一緒に入りたいで賞」には庄内鉄工(株)の天杉シートを使って、杉のカマクラを表現した横浜市の三好惠介さん提案の「カマクラフォリー」がそれぞれ受賞されました。
   
 
  ファイナリストのみなさん,司会の若杉さん,千代田さん,審査員のみなさん、スギッチと記念撮影。
   
  休憩をはさんで、後半は「秋田杉景観デザインセミナー」です。今回杉恋プロジェクトでは、単に杉モノづくり提案だけでなく、杉を使う文化を育てていくことも目的としていたので、杉を活かした景観デザインというものについて、企業、市民、行政、専門家らが共通の認識を持つ機会の提供が欠かせないと考え、「コンペ」と「セミナー」と両方開催というプログラムにしました。基調講演は、NPO法人GSデザイン会議代表でエンジニア・アーキテクト協会代表の篠原修先生の「景観デザインとは」と、武田光史先生の「杉と景観デザインー日向市の試みー」の豪華2本立て!秋田県と秋田市の杉活用の取り組み報告のあとは、5つのグループに分かれて「ワールドカフェ」方式の全体ディスカッションを行い、最後にグループごとに話し合われた内容を発表して、午後7時、大盛会のうちに閉会しました。
   
 
 
篠原先生の基調講演   当日参加もありほぼ満席のセミナー会場
 
武田先生の基調講演   ワールドカフェで全体ディスカッション
 
  グループ発表中!
   
  思い返してみると、杉恋プロジェクトは、「身の程知らずの恋」だったのかもしれません。一時は諦めかけた恋でしたが、同じ思いを持つ仲間の応援を得てやっと「告白(スタート)」するとことができました。数々問題を抱えながらも、結果的にはたくさんの人を巻き込み、杉恋と全国大会の同時開催にこぎつけることが出来たのは、杉に恋した仲間の「愛」があったから。杉恋の会場で大きな愛に包まれているのを感じながら、私は「これは夢なんじゃないか?夢ならどうか覚めないで!」と何度思ったことでしょう。
   
  審査員の皆様,スギダラの皆様、参加してくださった皆様、応募してくださった皆様、実物を制作してくださった皆様、協賛してくださった皆様、スタッフの皆様、ご協力いただいたすべての方に深く感謝申し上げます。いつの日か秋田杉の素敵な空間が生まれることを夢見て杉恋活動に勤しみたいと思います。皆さん、どうかこれからも「杉恋」を応援してください。そしてまた、秋田で逢いましょう!
   
  追伸:
  この日の模様はインターネット中継され、一時はUSTREAM-Japanのトップページにも掲載されたためか視聴者数もグングン伸びて、常時100人ほどが閲覧して累計で1300人!もカウントしたそうです。エキイコ!の動画アーカイブにノーカットで掲載されていますので、お時間のあるときに是非ご覧下さい。
   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
『あきた杉歳時記』web単行本 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
   
 
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