JR九州/大分支社 地場産木造オフィス大作戦
  JR九州大分支社からつづく新しい木造建築
文/図  腰原幹雄
 
 
 
  「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、さまざまな建築物を木造で実現する試みが始まっている。金沢エムビル(2005/石川県:1階RC造、2-5階木造)、丸美産業本社ビル(2008/愛知県)、東部地域振興ふれあい拠点施設(2011/埼玉県:1-4階S造、5-6階木造)、ウッドスクエア(2012/埼玉県:1-4階木造)といったこれまでに存在しなかった大型中層の木造建築が登場している。 一方、この法律は、木造建築をどんどん建てようということだけではなく、「木材の利用」つまり、どんどん建築の中に木を使っていこうということが本当の目的である。 この視点に立つと、JR九州大分支社の存在は大きな意味を持っている。
   
  まずは、最終的に実現された内部空間、高架橋のRC造の柱を覆うために設けられた木造の大きな柱は、1m角以上になるが、将来、高層木造建築が実現するとしたら1階の柱は、これくらいの太さ(もちろん無垢の塊になるはずである)が必要になる。つまり、ここに登場した空間は高層木造建築の内部空間を模したものになるのである。現代の木造住宅といえば3寸5分(105mm)の柱が普通である。しかし、茅葺き屋根の農家型民家の大黒柱では、1尺(300mm)を超えるものもあり、太い柱がシンボルとしてその魅力を持っている。現代の鉄やコンクリートの「薄く・細く」といった価値観とはことなる素材の価値観があるのである。有馬さんのスギコダマもその素材のもつボリュームが人を惹きつけている。大分支社の空間が、今後登場する高層木造の1mを超える太さの柱は実際にはどう見えるのか体験の場としての役割を果たす。
   
  また、この建物の内装システムはそのまま木造建築にも適用可能である。ボックス状の柱とそれを架け渡す梯子状の2列の桁、その桁を直交方向につなぐ照明器具が内蔵された小梁と天井。ここでは、高架橋から天井が吊り下げられているため、部材断面を小さくすることができ、木造住宅用に流通している部材、木造住宅の部材加工システム(プレカット)を利用できているが、スパンに見合った部材の断面を用いれば、2階建の独立した大空間の木造建築でも実現可能である。設計段階で検討されたボックス案も同様に新しい木造建築としての可能性を持っている。
   
  この建物は、建築基準法上は鉄筋コンクリート造として扱われる。高架橋の柱と屋根、鉄骨のカーテンウォールによる壁。こうした外殻に覆われた中に、木造の箱が挿入されているに過ぎない。「なんだ木造じゃないんだ」「張りぼてか」と建築関係者からは言われそうであるが、ここに「木材の利用」の一つの選択がある。鉄筋コンクリート造だろうが鉄骨造であろうが、木材を利用して魅力的な空間をつくることが重要なのである。魅力的な空間をつくるのであれば、木材を利用する条件が緩い時にはその魅力を十分に発揮させればよい、条件が厳しい時にはその中で工夫すればよいのである。
   
  しかし、その中でも新しい提案は必要である。この鉄筋コンクリート造の中に木造の箱を挿入する構造システムは、新しい耐火木造建築の可能性を示唆している。現在開発されている耐火木造建築は、燃えないコンクリートや鉄骨と同じように燃えない木造建築を目指している。このため、木材会館(2009/東京)のように比較的条件のよい建物の最上階のみ木造とすることができた(図)。一方、3階建以下の準耐火木造建築では、燃えても安全な木造建築を目指している。この中間、燃えても安全な木造と燃えない構造体、これを組み合わせることによって新しい大型木造建築の耐火システムもあり得る。3層間隔の鉄筋コンクリート造の大きな架構(棚)の中に、2階建てや3階建ての木造の建物(箱)を挿入したような構造システムである。(図)2階建て、3階建てのある程度の小規模な建物に分割して火災時の延焼を防ぐことができれば、安全性を確保することができる。まだ、現在の法体系の中では認められないが、今後に大きな期待がかかる。
 
木造6階建 RC造+木造 RC造+木造
   
  このように、大分支社は、未来の大型木造建築の空間、技術を体験でき、その可能性が示された建築といえる。
   
   
   
   
  ●<こしはら・みきお> 東京大学 生産技術研究所 人間•社会系部門木質構造学 教授
                腰原研究室HP http://wood.iis.u-tokyo.ac.jp/
 
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