連載
  忘れてならない事ー野田村に行って。
文・写真 / 南雲勝志
 

いま地域が生き残るために・・・

 
 
 
 

 昨年たまたま内藤廣さんに連れられて野田村に行く機会があった。運悪くちょうど台風15号が東北を縦断した9月21日であった。風雨が強く海際は車から外に出られないほどの日であった。基礎から根こそぎひっくり返った防波堤が津波の強さを表していた。今回も同じだった。

 内藤さんと野田村の小田村長は、確かある復興会議で出会ったと記憶している。村長は「参加者の皆さんが積極的に支援の方法や申し出をしてくる中で、内藤先生だけは控えめで、もし私の支援の気持ちが迷惑な時は遠慮無く言って下さい。そう言われていたことを覚えている。」そう語っていた。
 そして山のように積み上げられた復興プランを見せながら「津波がくる前はこんな村に協力要請をする人は誰ひとりいなかった。それが今は多すぎて困っている。一体どうやってそれを判断していったらいいか、はっきり言ってどれが正しいか判断出来ないのですよ・・・」。その言葉に内藤さんが「それはあなたが誰を信頼するか、その判断に架かっている。それだけですよ。」と答えていた。村長はその言葉を遠くを見るような視線でじっくり噛みしめていた。強さの中に優しさがにじみ出ている。そのやりとりに信頼とはこういうものだなと思ったことを覚えている。そんな村長と内藤さんの縁が「だっこのいす」と野田村を結んだ。

 我々は良くも悪くもどうしても考えて行動してしまう。今までの知識と経験いうフィルターが、直感をそのままはき出すことを躊躇してしまうのだ。日向で杉コレの圭沙ちゃんのプレゼンテーションを聞いた後、誰ともなく言っていた。「そうだよな〜、宮崎は東北から遠いから、出来る事も限られるとどうしても思ってしまう。でも彼女のように思ったことそのまま言えば良いのだよな〜。国や行政がまず取りかかる話で我々が余計な事しても申し訳ないから、じゃあないんだよなぁ」と。多くの人がそう感じ、目を覚まさせられた。そしてその潔さに共感した多くの皆さんが支援をして、このプロジェクトがスタートした。

 一人の少女の思いがこんなに広がるものなのだろうか?

 だっこのいすを東北に送るプロジェクトは驚く広がりを見せていった。圭沙ちゃんは確かに頭もいい、文章も上手い、絵も上手い。だけどそれ以上に彼女の魅力は思ったことをそのまま真っ直ぐに表現し、それがまわりの人々に笑顔を振りまく力であると思った。同様に野田小学校の圭沙ちゃんを受け入れる子供達にも通じるものがあった。同じ価値観で子供達は自然に繋がり交流している。そして誰も笑顔だ。送る側、送られる側、僕らは勝手にそう思っていたけど、そんな価値観を遥かに超えているところで、新しい息吹、次世代の担い手達が手を結んでいる。そして笑顔、笑顔、笑顔である。大人が馬鹿な議論をしている場合じゃない。頭をトンカチで打たれた衝撃を今回は何度も感じた。

 そうはいいながらも、このプロジェクトの成功のために一生懸命努力してくれた大人達にも敬意を表したい。プロジェクトの事務局を担当した宮崎県や日向市の皆さん、木材ネットワークで南と北を繋いだ宮崎と久慈の木青会、日向木の芽会の皆さん、村長の指令に答え、昼夜問わず戦っているにも関わらず、気持ち良く接し準備してくれた野田村の明内さん、野田小3年生の子供達を応援指導して下さった担任の先生。しっかりと圭沙ちゃんを見守り続けたお母さん、そして全国から支援して下さったすべてのみなさんに対して。

 共通するのは優しい気持ちと未来への希望ではなかったか・・・。

 この小さな事から広がる感動的な出来事、これからのまちづくりや社会にとって掛け替えのない可能性を見せてもらった。これは日本全国共通する本質でもある。そしてこの本質を永く記憶に残し、伝えて行きたいと思う。

 明内さん、ありがとうございました。


 
次々とだっこのいすに座る友達に話しかける圭沙ちゃん。一番後ろで見守るのは野田村明内さん。
 
  お礼の歌を歌ってくれる野田村小学校3学年一同。あったかだった〜。
 
 

みんなみんな明るかった。すごく気持ち良かった。圭沙ちゃんを笑顔でお送り出す子供達と担任の先生。

 
忙しいなか、だっこいすに座りひとときの気持ちよさを味わう野田村小田村長。本当に嬉しそう。
圭沙ちゃんの手には村長にプレゼントされた大好きな野田村マスコット、ノンちゃんが。

 

 

   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo
   
 
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