特集 鹿沼の木工デザイン再構築プロジェクト
  鹿沼「屋台屋」
文/ 若杉浩一
   
 
 
  鹿沼との出会いは、グルナビさんからの誘いで、鹿沼商工会議所の主要メンバーに講演をしてくれという事から始まっている。相も変わらず、バカバカしいトークショウを繰り広げた。商工会議所のメンバーの期待と裏腹に、全くためにならない話の連続だったと思うが、その中で何か似た匂いがする方が終了後お話しにこられた、びっくりした、駄洒落の速射砲だったからである。
  「なんだこりゃ、今までにない、このノリ、いかん負ける。」この方こそ、樽見副会頭。今回のことの始まりである、そして脇を固めるのが、入江さんと、佐藤さん。この、「鹿沼、年中ぶっつけトリオ」との出会いから、出来事が始まる。
   
  それから、遊びにきたり行ったり。ものすごい勢いと、ノリですっかり仲良くなっていった。そして、もっと知りたいと思い、地元の木材業界の見学を申し出た。なぜなら、一緒に何か出来ないかと思っていたからだ。
  そして、僕はこの見学会に沢山の仲間を誘いたかった。この地のこと、技術、受け継がれたもの、そして人を一緒に知りたかった。その強引な誘いに、ぶっつけトリオは、さらに拡大解釈「一泊二日の大イベント」を申し出てくれた。
  「こりゃいかん、負けとるぞ。人集めるぞ!!」という具合になるのだ。
   
  そんな繋がりが出来、地元のメンバーの情熱を感じ、もっと、確かめ合わねば、何かを起こさねば、という気持ちになっていった。
  そんな事を感じ、入江さんに冗談半分、本気丸出しで「入江さん、今年のぶっつけ祭りで、地元のメーカー、デザイナーと一緒になって屋台を出して売りませんか?」と言った。「すごい、いいすよ。いい!!若杉さんやりましょう!!」
  ここまでは、話は進むのである。しかしだ、これからが違う、ぶっつけトリオ。
  「あの〜〜、あの時の話。具体的にやりたいと思うんですが。打ち合わせしませんか?」「え〜〜、やるか〜〜、マジか!!」そのスピード感。またやり返された。そうなると、こっちだって黙っちゃいられない。
   
  仲間である最強速射砲デザイナーに声をかけた。藤森、寺田、深田、最高の仲間だ。特に、深田さんは、僕にとって特別な人なのだ。かつて、社内で荒くれてデザイナーを首になり、意味不明な毎日を過ごしているとき、日本のインテリアを揺さぶっている会社があった。「IDEE」である。倉俣史郎始め海外の若手デザイナーを起用するだけではなく、社内のデザイナーの作品も今までの、日本の渋い巨匠モドキのデザインではなく新しい世界があった。
  「企業がこんな事ができるんだ、凄い!!凄い!!親分に会ってみたい。」そう思っていたら、本当に会える機会が出来た。そして現れたのが深田さんだった。凄い事やっているのに、全然そんな感じもなく丁寧に、オフィスを案内してくれた。そして企業での、デザインのこと、自分の思いを楽しく語ってくれた。
  「すげ〜〜、すげ〜〜 俺もこうなりたい。カッコイイ〜〜」
  僕の目の前に、行く先が見えたのだった。勇気が出た、そして決心が出来た。
  長い時間が経ち、再び、深田さんと出会った。今度は無印の仲間達、いや良品計画の社長の紹介であった。色々大変な事が有り、翻弄されながらも、デザイナー深田は、逃げも隠れもせず、最先端で佇んでいたのだ。全然変ってなかった。相変わらずカッコ良かった。相変わらず、いっちゃってた。そして出会えた事がとても嬉しかった。(以前出会ってた事は覚えてなかったらしいが)
   
  僕は、今回のプロジェクトの一員に是非深田さんに入って欲しかった、一緒に何かをやりたいと思っていた。深田さんに、大した内容もないのに、電話で一緒にやりませんか?と問いかけた。今思えば、そんな、ぼんやりした内容で、ギャラも出るかどうか?いや、なさそうな話を電話でして、良いですよ、なんてなるわけがない。
  しかし「わ、わ、若杉さん。うん良いですね、やります。声かけてくれてありがとう。」ときた。それどころか「今度、一緒に集まって、飲みながら話をしよう。いつやる?」なのだ。凄い!そして僕らの鹿沼ぶっつけトリオに対するデザインぶっつけ隊は出来上がった。
   
  しかし、何かが足りない気がした、いや充分すぎる仲間なのに、そのとき脳裏をよぎったのが浅野さんだった。浅野さんは随分前からの知り合いで、僕は本当に全身デザインの固まり、純デザイン100%のような人物である。本質的で、媚びない、凛としたものを作れる、天才である。こんな、あやふやなプロジェクトに声をかけてしまって、また迷惑をかけてはと、少しだけ思ったが、もう巻き込んでしまっていた。
  「うふふっ、やります。 あ〜〜すいません。声かけてもらって。」
  完璧、鉄壁、これで鹿沼ぶっつけトリオに敵わない訳がない。そろった。
   
  相変わらず、打ち合わせの度に盛り上がり酒を飲む、いや酒を一緒に飲みたいが為に打ち合わせをやるのか?
  寺ちゃんの名言「若杉さ〜ん、良い仕事って、一緒に飲みたいと思うメンバーじゃないとダメ!! ですよね〜〜。」「そのとおり!!乾〜〜杯!!」
  そんな楽しい場が続いた。とにかく楽しい、鹿沼の皆さんとの打ち合わせも毎回こんな感じなのだ。
   
  斯くして、怒濤のぶっつけ合戦チームは、本当のぶつけに祭りに、屋台を出す事になったのである。本当に、全力チームのぶっつけだった。凄いものになった。何かが動いた感じがした。
   
  栃木ダボの田代さん「仕事って楽しいんですね、毎日が楽しい。」
  「売り上げとか、リスクとか言ってましたけど、お客さんの喜ぶ姿、これが答えだった。」前田額縁、前田さん。
  「僕は、デザイナーの皆さんのアイデアや考えに触れてドキドキするんです。面白い、全部作ってみたい。若杉さんのもパクりました」星野工業、星野親分。
  「やった事がなかったことだけど、凄く面白かった。目の前で売れるのがとても嬉しい。」白石産業、いなせ白石社長。
  「技術もある、いいモノも作れる、だけじゃだめなんだよね〜。ネットワークだ、繋がりだよね、大切なのは。」樽見親分。お酒が飲めないのに、最後までハイテンションで、駄洒落の数は(質ではなく)落ちなかった。
  そして、あの、バカバカしいノリを形にした張本人、入江さん、佐藤さん。
  思えば、随分凄い仲間が揃ったものだ。
   
  ぶっつけとは、戦いではなく、違うリズムのお囃子が対面し、相手のリズムにとられてしまったら負けなのだ。お囃子の競演なのだ。
  そう、これは僕たちの「鹿沼ぶっつけ秋祭り」だったのだ。
  ぼくは、ずっとこのリズムが響き合い、街が、風景が、技術が、人が活き活きとして、沢山の人が集い、豊かな未来につながり、その音が遠くまで響いて欲しい思う。
  きっとそうなる、なぜなら、そんな魂が既に皆に息づいているからだ。
  また、楽しくてドキドキする事が増えた。本当に嬉しい。
   
  そして参加してくれた皆さん、来てくれたスギダラのメンバーへ。
  本当にありがとう。
  寺ちゃん、藤森さん、いつも、いつもありがとう。そして、いつも、いつも凄い! 僕は、二人のデザインの最先端に触れる事が出来て嬉しくてたまらない。
  そして、まとめあげた高山、ご苦労さん、よかった。
   
 
 

若杉さんと、素晴らしいデザイナー仲間達。いつもめちゃくちゃな盛り上がりをみせます。みんなこの瞬間の為に生きているような人達ばかり。そんな素晴らしい人達に若杉さんはいつも囲まれています。

   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
『スギダラな一生』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
   
 
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