特集 鹿沼の木工デザイン再構築プロジェクト
  鹿沼の木工所軍団
   
 
 
  大きな可能性
 
文/ 星野昭夫
   
  今回のプロジェクト?のお話を伺った時、個人的にまず初めに感じたことは、鹿沼でマーケティング的なことができるのか?だった。そして、実際に商品が売れるのか?だった。
   
  最初の会議の場にて鹿沼の木工に関する方々、デザイナーの方々、商工会議所の方々が集まり、皆様が熱心に話し合いをし、本気で取り組んでみようとする姿に、具体的なことは決まらなかったが、私はひそかに期待感と高揚感を覚えた。
   
  そして、その期待感と高揚感は、木製品メーカー各社が頂いたデザインで試作をし、紙上のものが具現化され、サンプルとしてあがり、それを持ち寄った会議にてさらに高まることとなる。折しも外は台風で大荒れ・・嵐の予感。なにか新しい事が始まる感覚があった。
   
  秋祭りまで時間はない、細かなことが決まらぬまま、商品の改良を重ね、なんとか売れる体制と整えようと試行錯誤し、なんとか成功させようと突っ走った。
   
  秋祭り前日夕方。屋台屋の屋台が組み上げられ、全体の雰囲気が整いだし、期待感と高揚感、そして少しの不安感のなかで決起集会。やっとここまできた。あとは売れるかどうか・・。皆がそう思っていたに違いない。
   
  そして当日。近年ない好天に恵まれた。各社の商品が運び込まれ、次々に陳列されていく・・。「なんか・・いいかも・・」単純にそう感じた。お揃いのはっぴを着て、準備は整った。太鼓の音が鳴り響き、人が寄ってくる。「これ、いいね」と、お客様が商品を手に取り、笑顔で「これ、ください」・・。そう、この声が聞きたかったのだ。作った商品が売れる。普段から売ってはいるが、それは小売店や代理店にであり、お客様と向き合って直接売ることは少ない。「これ、ください」。いい響きだ。素直に「ありがとうございます。」と声がでる。気づくと屋台屋全体に人だかり。全体として成功と木製品の需要を確信した瞬間だった。二日目には、売り方や見せ方も変わり、皆が進化していた。
   
  デザイナーの方々のデザイン・雰囲気作りに加え、皆が大きな声を出し屋台屋全体を盛り上げ、買っていただいたお客様にお礼の気持ちを直接伝える。
  鹿沼という枠のなかでどこまでできるのかという思いもあったが、木製品も鹿沼も展開の仕方によってはまだまだ可能性があることを感じさせてくれた。
  第1回ということもあり、反省点もあるが、皆が笑顔で終れたことは財産になるだろう。
  そして、各社、今回のプロジェクトを通じて、今後の展開の仕方や販路に、少なからずヒントを得たはずだ。それをいかに生かす事できるのかがこれからの我々になるだろう。
   
  最後に浅野さん、藤森さん、若杉さん、寺田さん、深田さん、杉浦さん、栃木県集成材協業組合の方々、(有)栃木ダボ製作所の方々、(有)前田額縁店の方々、白石物産(株)の方々、(株)サンテックの方々、鹿沼商工会議所の方々、(株)内田洋行の方々、日本全国スギダラケ倶楽部の方々 お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
   
 
  いつもオシャレな星野社長。樽見さんと共に鹿沼木工軍団を取り仕切る親分です。
   
   
  ●<ほしの・あきお> 星野工業株式会社 代表取締役社長
キッチン、バス用品から家具まで幅広い木製品を製作している。
HP http://www.hoshino-kogyo.co.jp/
   
   
 
   
   
  鹿沼「屋台屋」騒動 顛末記
 
文/ 白石修務
   
  木工機械がモーターを唸らせ、ボードを加工する音が響く工場の中、憂鬱な沈黙があたりを支配していた。そう感じたのは、私だけだったのだろうか。 「エッ、これ作るんですか? うちの工場じゃ出来ないでしょ。」 「無理ですね、工場の機械じゃ加工できません。」 「どうやって、誰が作るんですか?」
   
  「これを作ろうと思う」 私の宣言に一様にわが社員ながら工場の面々は否定的な言葉を並べた。面倒なのか、大震災後の停滞からの反動で多忙を極める中、経験値のない無垢材の加工で、しかもRと角度付き。実際に声を掛けられたのが、私であったとしても同じような反応をしたのかもしれない。やっぱりか・
   
  商工会議所の入江君のいつものカル〜イ言い回し「内田洋行さん見に行くんですけど、ごいっしょしませんか。」この一言がすべての始まりだった。上場企業の本社を拝見して、杉材へのこだわりを拝聴し、中小企業のオヤジたる私は恐れ入るばかりで、先の展開などハナから想像もしていなかった。
   
  その後、昨年の鹿沼秋祭りでの企業プレゼン、あの3月11日の工場見学会から、よもや『スギダラケ倶楽部』の皆さんと商品をいっしょに作り上げるなど、しかも本業から少しはなれた"いす"など、想定外の出来事であった。
   
  藤森先生のデザイン【Hang Stool】のモックアップを見たときには、「お〜かっこいいな」と思いつつも、「実際うちで作れるかな〜」「杉だぞ、発泡スチロールじゃないぞ、加工難しいぞ」と、疑問や不安が入り混じった。 的中だ。過日 読み終えた、『下町ロケット』の佃航平社長にでもなった気分であったが あれは小説で、最後はうまくいく。ハッピーエンドだ。
   
  でも、これは現実。どうしたものか、図面は頂いたものの、加工図すらまともに上がってこない、加工用の刃物を用意し、材料を手配したものの、工場にあずけると、木取りが出来ない、NC加工が出来ない、ダボ加工が難しい、組み立てられない、研きは大変だし割れる。壊れる。期限は迫る。
   
  結果は自明の理で、言いだしっぺ、受けた私自身が工場に入り、木取りから自身でやってみる事、各工程に張り付き細かく作業を見る事、標準加工の仕上げをする事などだった。不器用な私が、柄にもなく普段やった事のない工場内作業をするのを、さすがに社員の面々も哀れんだのか見かねてか、徐々に協力体制も整い、作業者の慣れや、加工工程・作業手順の見直しなどを経て、ようやく6度目の試作で何とかお見せできる、まともな製品となった。それは正しく、社員と時を共有し、汗をかき、意識やベクトルを合せる作業、我が工場を一段ステップアップさせる工程に他ならなかった。
   
  祭り当日の二日間は疲れたもののあっという間、望外の結果に驚きつつにんまりし、関わった人々もホッとしたり、少し誇らしげであったり。 最大の心配事であったイスの強度も、栃木県産業技術センターの耐荷重試験で問題なく今後はどうしようかと、あれやこれや夢は膨らむばかり。 鹿沼の木工屋のチャレンジは、続くのであった。
   
  最後となりましたが、藤森先生はじめ藤森事務所スタッフの皆さん、デザイナーの皆さん、内田洋行の皆さん「スギダラ」の皆さん、サンテックさん樽見副会頭はじめ、このプロジェクトに参加した地元企業のみんな、そして製品を作り上げた当社社員に感謝します。また、この挑戦が必ずや我社の血となり肉となることを確信しつつ、プロジェクトがさらに進化することを祈り、報告といたします。
   
 
  次期親分と囁かれる白石社長(右)とその相方藤森さん。藤森さんの素晴らしいデザインを見事、形にしてくれました。この二人、かなりいいコンビです。
   
   
  ●<しらいし・おさむ> 白石物産株式会社 代表取締役
独自のシステム収納家具を製作、販売。販売店舗も多数。
HP http://www.soukuukan.com/
   
   
 
   
   
  タイトル
 
文/ 前田裕之
   
   
  もうしばらくお待ちください。
   
   
 
 

額縁店なのに寺田さんと組んだばっかりに世界で唯一の、「木んぎょ」養殖業の親父と化した前田社長。子供達の笑顔の為に日々「木んぎょ」を育てます。

   
   
  ●<まえだ・ひろゆき> 有限会社前田額縁店 代表取締役
建具や額縁の額装の製作。各種フラッシュドア部材加工も手がける。
   
   
 
   
   
  何年振りかの・・・
 
文/ 田代直也
   
  何年振りかの高揚と達成と虚脱・・・打ち合わせから製作・販売までの怒涛のような期間を終えた素直な感想です。
   
 

企画や商品の打ち合わせ段階では、デザイナーの皆様の笑顔と想いに吸い込まれ、私自身、これから始動する企画に妄想を膨らませ、何年振りかの高揚感に頭のてっぺんまで浸っておりました。

  そして、製作に入り、時間や素材、技術的な壁など、次から次に様々な問題が波のように押し寄せ、それらを多くの方々の助言をいただきながら乗り越え、綱渡りのような日々も何とか完結し、商品群を見下ろした時の達成感もまた何年振りかのものでした。
   
 

天気予報を一週間に何十回とみた執念が実ったせいか、見事なまでの晴天に恵まれた当日、「屋台屋」の存在感は、他を圧倒するだけではなく、十分すぎるほどのメッセージを備えたものでした。 販売の二日間は、雰囲気に酔ってしまい、感慨に耽るばかりで、なにも出来ませんでしたが、スギダラメンバーの皆様のおかげで、上々の売上も残す事が出来ました。

 

あっという間に二日間が過ぎ、その後の一週間は何とも言えない何年振りかの虚脱感を味あわせていただきました・・・

   
 

生産者として、ものづくりの原点を改めて思い起こさせていただいただけでなく、過程での様々な刺激や経験、オープニングからエンディングまでの数多くの御縁や酒宴など、すべてに対し感謝の気持ちでいっぱいです。 多くの皆様のおかげで、「屋台屋」が産声を上げました。これからの成長がとてもとても楽しみですし、私もまだまだ突進していくつもりです。

   
  稚拙で、くどい報告となってしまいましたが、改めて、関係者各位に御礼申し上げます。
  本当にありがとうございました。
 

そして、今後も、どうぞよろしくお願いいたします。

   
 
  TDCのデザイナー下妻と語る田代さん(右)。この巨体に似合わず癒し系のキャラで、青年会の頭を張っており、下妻と共に「縁起物」シリーズを作ってくれました。
   
   
  ●<たしろ・なおや> 有限会社栃木ダボ製作所 常務取締役
住宅部材や造作家具からノベルティグッズ等を幅広く製作。
HP http://www3.ocn.ne.jp/~dabo/
   
   
 
   
   
  木工軍団の中のスチール家具屋は少しくやしい思い
 
文/ 細井康晴
   
  鹿沼木工軍団に今回まぜていただいた、スチール家具工場 (株)サンテックの細井です。弊社は、鹿沼工業団地で40年以上オフィス向けのスチール家具を製造してきた会社です。デザイナーと木工関係企業の共同プロジェクトですが、地元鹿沼の会社として何か協力できないかと思い、そのまま何の考えもなく参加しました。
  工場は古くからあるのですが、私自身は昨年夏に赴任し、やっと二年目ということころです。以前から、スチール家具屋でも国産材との協業が可能なはず、と思ってはいたのですが、なかなか具体的な行動に移せませんでした。
   
  今回は、他のデザイナー&企業軍団「屋台屋」が売ろうという品物をのっける『屋台』の一部を作らせてもらうことで、やっと少しだけこのプロジェクトに参加できました。
   
  実は、鹿沼のぶっつけ祭りの体験はまだ2回目で、しかも昨年は大雨の中を夜見に来ただけという状況でしたので、正直このお祭りに屋台を出して盛り上がるのかな?と要らぬ心配をしたり(失礼!)もしていました。
  ところが、準備のため祭りの朝早く、町に入っていくと、地元の人たちが子供からお年寄りまで祭り装束に身を包み、お囃子の調子が町に流れ、生活の延長でお祭りを楽しんでいる様がとても自然に伝わってきました。変にショウアップされていない、自然体のお祭りというものの心地良さに、改めて気付かされた次第です。
  そして、そんな二日間の祭りを通して、予想以上に地元の人たちが「屋台屋」の商品を買って、喜んでいただく姿を見て、これまたとても素敵な気分になりました。
   
  天気にも恵まれ、東京など各地からの大勢の応援団にも圧倒され、楽しい二日間でした。とはいうものの、さすがに「この屋台一つちょうだい!」という人はいなかったので、それは少しさみしかったわけで、来年はサンテックで作ったもので、なんとかこの祭りで売れるものをつくりたいと思います。来年をご期待下さい!
   
 
  スチール家具屋なのに木工軍団の中に入れられてしまい、くやしい思いの細井社長。もともとTDCのボスでもありました。 来年度から部下の杉浦氏と共にサンテック「EMG(縁起物)事業部」を立ち上げるようです。乞うご期待!
   
   
 

●<ほそい・やすはる> 株式会社サンテック 代表取締役社長
若杉浩一率いる内田洋行テクニカルデザインセンターの元・センター長。サンテックは内田洋行のグループ企業で、スチール家具メーカー。主に折りたたみテーブルやロッカーを製造している。
実家は新潟の旅館「末廣館」。
サンテックHP http://www.suntech-k.com/
末廣館HP http://www.suehirokan.com/


   
 
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