連載
  ノリとネーミング
文・写真 / 南雲勝志
  いま地域が生き残るために・・・
 
 
 

デザインの名前やプロジェクトの名前はいつも最大限優先的に考える。単に面白さだけではなく、そこに思想や分かりやすさを一瞬に表現できるからだ。杉ダラ」はその最たるものだろう。一瞬にして覚えて貰えるし、意味が伝わる。たとえば家具であれば杉太 」や杉子」、コロハコ』コロダイ』、アルミムシ』など。屋台だったら、カタリバー』ワタシ松バー」ヒトリじゃヤタイ』。地域系では日南市ならにちなんにちなんだデザイン』、牛久市ではキャッチフレーズを、『牛久をよろうしく』まちづくりはたのうしく』。イベント系では杉がいいや in シーガイア』西都でエキサイト、古墳で興奮』等々、あげるときりがないのでこの辺でにするが、最近のスギ関の、吉野行くぞうツアー』もかなり秀逸だと思う。

さて、先日北海道岩見沢のプロジェクト会議に参加した時のネーミングに関わる話をひとつ。
参加メンバーは、企画言い出しっぺの安江さん率いるドーコン軍団、名畑支社長率いる内田洋行軍団+若杉さん、地元木材関係者、空知振興局、地元から市、商工会、そして僕。簡単にいうと木材の地場への有効利用を考える会だった。会議では真面目に杉ダラ活動報告を終え、(3時間に及びかなり議論が白熱したが省略。)駅前の焼き鳥屋へと向い、懇親会に突入する。立場を超えた様々な面々でこれからの林業とまちづくりの事を語り合う。そこでいかにして地場の素材を使い商品開発が出来るか?という話題になった。その時僕の頭の中には製材工場を見学していた時の光景が記憶に残っていた。廃材、端材あるいは伐採した枝などを一瞬にして粉々に砕く巨大な機械で、確かアメリカ製であった。「北海道らしいなー」と僕はしばらくそれに見とれていた。砕かれたチップは燃料や肥料、そして土の材料になる。

 
  巨大なチッピングマシーン、カッコイイ〜〜。
 

「あれ何か使えないだろうか?」しばし考え沈黙が続く。実は道央のこのあたり一帯を空知地方という。以前参加した「アートフェスタ滝川」も最近は「アートフェスタ空知」と名称を変えた。響きも漢字もとても綺麗な名前だ。そらち、そらち、そらち・・・

 

暫くして「出来ましたー!」と手を上げる。「木のチップを混ぜた空知ならではの腐葉土をつくり販売する提案です。」
「ふーん、それで?」
「空知で出来た土だから、『空知土』

「どう?ソラチド。響きもいいし、漢字も美しいし、スバラチド!」
「空を知る土、いいねぇ!」
僕がしきりに自画自賛すると、
「なるほど、そりゃいける〜、南雲さん!」と、若杉さんだけが叫んでくれた。

 

  SOLACHI DO : 注!写真はイメージです。by shoko
 

続いて地元の方からソーダ水の話題が出る。
「昔はカラマツの葉でソーダをつくって飲んでいたんですよ。」
「もちろん今のソーダみたいに炭酸は炭酸(沢山)なかったですが。」
「え、松でソーダが出来る?それはおもしろソーダ。」
「でもそんなに美味しくないですよ。」
「え、松脂の臭いがするとか?」
「それは全くないです。無臭です。」
「まあ、気の抜けた炭酸水のようなモノで、美味しいものではない。売るのは難しいかな。」
「いやいや、そんな事はない。やっぱ、ネーミングだよね。」
すると若杉さんがポツリと言った。
「そりぁ、そーだ、ネーミングだ。」
「ん!?・・・」「そりぁ、そーだ?」・・・そこでお互い目が合う。
「出来た!、それだー。」
「空知で出来たソーダだから」・・・一緒に、『ソラ ソーダ』、完璧。

「こりゃ行ける。」「ばか売れだね。」「明日早速商標登録しないとね。」・・・

 
 

SOLA SODA : 注!写真はイメージです。

 

大盛り上がりの二人と対照的に周囲は意外に冷ややかだった。しかし僕らはとても大きな仕事をこなし終えた満足感でいっぱいだった。そして焼き鳥屋を後にして、札幌の二次会へと向っていったのだった。

多少の差はあるが、ネーミングは大体こんな感じで決められていく。やっぱりノリが大事。

おわり

 

 

 

 

  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
 
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