特集 天草・高浜フィールドワーク2011開催
  高浜フィールドワークの感想ぞくぞく!
   
 
スギダラ本部・内田洋行
   
  日本の地方がめざすべきもの
  文/写真 南雲勝志
   
  印象的だったのは民泊を受け入れてくれたおじさん達と九大の学生のやりとりであった。そこには見栄も良い訳もない、純粋な感謝と感動だけの世界であった。 高齢化した地方の農山村、漁村集落が消滅していくスピードは止まらない。いくら美しい風景があっても、いくら過去に歴史があっても、いくらかつての繁栄があっても今の経済社会に適応出来ない限り、悲しいことに現実的な事であり、政治は守ってくれない。 ただこれらの話はせいぜい昭和30年後半から始まった事で、わずか半世紀にも至らない。現在はそうであるが、未来はきっと変えられる。それがこのワークショップの趣旨であったと思う。
   
  金に勝るものがある。それは人の気持ち、そして我々が連綿と引き継ぎ、培ってきた自然のと共存出来る環境である。一旦忘れ去られたそれらのことが徐々に蘇りつつある。あまりに自分勝手、あまりに経済主義、あまりにその場しのぎであった事に気づいたからだ。 ただ一度向いてしまったベクトルを変えることはそうそう簡単ではないし、覚悟がいる。幸い都心では不可能なことも、地方で出来ることは多い。中央を頼らずに経済の流通システムをカットしていけばいいからだ。極端な話、出来るだけ時給自足をしていく事だ。 高浜は豊かだ。海の幸、山の幸、そして陶石だってある。自分たちで補えることそれを出来るだけ自分たちでやることがお金のかからない生活になる。そしてそれは来訪者にとってきっと魅力的な生活、風景に移る筈だ。その自給自足のものづくりの中で魅力的なものがあれば外の人も購入してくれる。
   
  高浜の帰り、牛深経由で若杉家に立ち寄り、ご両親にお会いした。若杉さんを見ていて、ずっと想像していたのは「頑固オヤジ」と「肝っ玉母さん」であった。ところが実際はスラッとスマートで紳士的なお父さん、優しいお母さんであった。(いやいや昔はそんな事無かったかも知れない。)長男が高校生から家に居ない現実の寂しさが口にしなくても伝わってくる。一瞬見ればすぐ解る。それを息子浩一がどう受け取り、そう生きるか?若杉さんの人生はそのことに対する答え探しだった。それは同行した同級生も僕も一緒である。 民泊の受け入れのおじさん達も同じ思いを持っている。仮に自分の子供でなくても一緒に時間を共有し、語りることで伝わるものがある。だからあんなに目がきらきら輝いていたのだ。大切な事は世代を伝えて行くこと。それは僕らの親に「無念」と言わせないこと。その思いがあれば日本の地方はやっていけると思っている。自分が直接出来ないこともある。互助の精神がそこにはとても大切になってくる。
   
  もう一つ、思いだけでは食べていけない。その地に伝わる文化、資産、人材を生かし生産していくこと。そしてその中に自分たちの誇りを込めていくこと。つまりその地にしか無いアイディンティティをどう作っていくか?まさにデザインの力は今後そういうところに大きく寄与していくことになっていく。そんな事を再認識したツアーであった。
   
  今回のWSを主催して頂いた藤原先生始め九大関係者の皆さん、お世話になった地元の皆さん、同じ思いで参加した皆さんに、改めてこころより感謝致します。
   
 
   
 
   
 
   
 
   
  ●<なぐも・かつし> ナグモデザイン事務所
   
   
 
  日常の価値とデザイン
  文/若杉浩一
   
  僕は、天草河浦出身です。 そして、天草の地や両親を捨てて、遠く東京でデザインをしてもう、28年にもなります。 最初は何も無い、時間が止まった古里が嫌でした。自分の可能性をかけて、この地を去ろうと決めたのです。 そして、僕は、企業でひたすらデザインをやり、沢山の工業製品を生み出し、経済に身を置いてきました。 しかし、どこかで、ずっと気になっていました、古里の事が。 経済や豊かさを求めて、都会に出ることと、地域の暮らしの間にある、あまりにも距離がある、すっぽり空いた空間の事が。 やがて、南雲さんと「スギダラ」を始める事になり、経済にも何もならない活動、そしてデザイン、相反する企業という立場のあまりにも距離がある、空間に僕はすっぽり身を埋める事になりました。
   
  何があるか、まるで確証も何もないまま、このままでは何かがおかしい、割り切ろうとも割り切れない自分に従い、企業の正義と反目し、押さえきれない何かを求めて来ました。 沢山の地域に出向き、沢山の人と出会い、次第に、外から見る、中央、企業という者が浮き彫りになり、経済と逆さまな姿を沢山、見る事が出来ました。何かが足りない、そして何かが出来る、そう思えるようになり、不安や憤りが、確信に変わり始めました。 そして、藤原先生との出会い。「あ??。ここと繋がっていたのか。」そして、喜びと、不安。 果たして天草で、本当に何が出来るのだろうか?
   
  天草、高浜に着いて、見慣れた光景、焼き焦がれるような太陽、鮮明な緑と海の色、しかし明らかに人の気配や、力が少ない。 毎年帰っていたはずの、古里の気配の違いに驚きました。 「何が出来るのか、何が出来るのか?」
   
  ワークショップを始めて、そして、古里の皆さんと話して、まちを歩いて、飲んで、踊って、そして飲んで、何も無いと思っていたまちに沢山の財産があった、人の数や、力や、経済ではない、絶え間なく受け継がれる、オープンで、明るくて、垣根を越える力強さ、そして豊かさ、まぎれも無い、同じ血が流れている、そう感じました。 天草は、何も無かったのではない、外と繋がる力、受け入れる力、繋がる事、この地を愛すし、未来に思いを馳せる力があったのです、たまげました。 まったく、ぼんくらは時間がかかって、しょうがない。
   
  なつかしい、音、香り、色、そして地元の皆さんの瞳、力が抜けました。 「あ??、嬉し、恥ずかし、天草。何がでくっとか、わからん。じゃばってん、また来っでな」 来て良かった。そして高浜の皆さん、何より藤原先生ありがとうございました。
   
  ●<わかすぎ・こういち> 株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター
   
   
 
  巻き込む力の協演
  文/ 千代田健一
   
  九州人でありながら、天草には殆ど足を踏み入れたことがなく、とても新鮮でしたが、一方、子供の頃、夏休み中を過ごした母親の郷里である対馬の小さなまちを思い起こすようなとても懐かしいところでもありました。 しかも天草の最西端とも言える高浜は想像していた以上に海がきれいで、大人気なくも海に飛び込んでしまいましたが、やはり一番印象的だったのは海の素晴らしさです。 まちを散策している時から飛び込みたい衝動に駆られ続けていました。
   
  道路事情が変わっているとは言え、福岡市内からバスで4時間半。意外と近いんです。 福岡や熊本の市街地からでも充分日帰り行楽ができる場所であると思いました。 まちの中も昔の懐かしい佇まいがいくつも残っており、景観的にも美しい。まちを歩いているとまちの人々はよそ者を見る目ではなく、警戒心が感じられないし、子供たちも朗らかに挨拶してくれる。 そんな穏やかで心地よい雰囲気がまち全体から、そこに住む人々から感じることができました。 そんな心地よさとダイナミックな自然がとても魅力的で、このまちを愛して止まない人々が住み続けているのだろうと思います。天草陶石のような日本全国に高品質な磁器素材として供給している地域の財産もあり、あの素晴らしい水平線に沈む美しい夕陽、極めて透明度の高い海、気候も温暖で果物もおいしく実り、海の幸もうまさのレベルが違う。そんないいとこばかりのような高浜でも、若い人たちが居つかず、高齢化は進む一方。 藤原先生が肩入れしたくなる気持ちがわかるような気がしました。
   
  今回、ワークショップを通して交流を持てた人々の多くは朗らかで生き生きとしている。 でも、話を聞いていると悲愴感も垣間見える。どうにかして栄えていた頃の元気を取り戻したい。 そういう願い、想いにも触れることができました。 ワークショップでは、このまちの「ソーシャルビジネスを考える」チームに入って様々なアイデアの交換、議論を交わしましたが、最終的にビジネス、つまり仕事を作って行かないとまちは本当の意味で活性化しないのではないか?と、ごく当たり前のことに気づき、ついつい具体的なアクションプランなどあれこれ考えてしまいました。そんなことは外から言われるまでも無く、高浜ぶどうの栽培を始め、独自の具体的活動が進んでいるものもありましたが、地元の人たちの中だけでやってると地道過ぎて、なかなか加速度がつかないのだろうとも感じました。 もちろん、地道にしつこくやり続けることが最も大切だとは思いますが、いいアイデアやいいアクションをさらに加速させるエネルギー、もっと端的に言うと「悪ノリ」が必要なのではないか!と、思った次第です。
   
  地元には森商事の森さんや小野さんのように素晴らしいアイデアと行動力を持ち、地元や子供たちにとても深い愛情を注いでいる実力者もいらっしゃる。近場には高木富士川計画事務所の宮野さんのように地域を繋ぐとても未来的なデザインをしている仲間もいる。そして何より地域社会を元気にしてゆくコーディネーターとして名声を欲しいままにしている藤原惠洋先生に目をつけられたことは高浜にとっての幸せだと思います。
   
  藤原先生の人を巻き込む力は素晴らしいです。天草の偉人をここぞとばかりに投入したキャスティングは天才的です! スギダラ倶楽部も南雲さん、若杉さんを始め、キャスティングが大変上手です。 その汚染力、巻き込み力はすさまじいものがあります。そんな同じような匂いのする人々の出会いは強烈で、圧倒された参加者も多かったのではないかと思いますが、関わりを持てた全ての人にとって、これからの地域社会を、また日本をもっと豊かで魅力的にして行くために必然とも言える出会いの場であったと思いました。
   
  スギダラ倶楽部の天草支部もできて、このワークショップを通じて地元の人も会員になってくれたりで、これからも末永いお付き合いになりそうです。 振興会のホームページでも高浜フィールドワーク2011のレポートがアップされていますね。 新商品「SUMMER TIGER」の素晴らしい笑顔がとても印象的で、高浜の人々の本質的な持ち味を代表しているような、そんな感じがしました。来るたびにぶどうの棚が増えていることを願って、また何度となく訪れたいと思います。
   
 
   
  ●<ちよだ・けんいち> パワープレイス株式会社福岡デザイン部・日本全国スギダラケ倶楽部
   
   
 
  VIVA 高浜
  文/写真 倉内慎介
   
  「天草」この地名を聞くだけで多くの人は 『青い空、それよりも青い海。緑色濃い南国の島』を頭に浮かべるのではないでしょうか。 僕もその多くの人のうちの一人です。 そして実際に降り立ったとき、そのイメージをまったく裏切ることのない天草がそこにはありました。
   
  【感動体験】
   
  高浜公民館に到着したとたん度肝を抜かれたのが、藤原先生の書によるおもてなし。 あれはビックリしました。そしてそれと同時に一気にテンションは沸騰!! この高浜フィールドワーク(以下:FW)は何かあるぞ!…と。FWに参加した場合、初めは皆、疑心暗鬼というか牽制してしまうとおもうんです。 どんな人たちが集まってるんだろう。 自分はここで何をするんだろう。ワクワクと同時に不安も多大にあるんだと思います。 でも、このおもてなしを受けることでFWへの参加意欲を、ものすごく掻き立てられました。 人とFWの間にある第一の壁をあっさり取っ払ってしまう力がその書にはありました。
   
  そして第二の壁。人と仲良くなる。これは『懇親会』と『夕日』と『海』のパワーであっさりクリア。もう理屈じゃないんですね。一緒に飲む。一緒に楽しむ。一緒に感動する。これだけで人は仲良くなれるんです!! VIVAお酒!VIVA夕日!!VIVA高浜!!!
   
  この感動体験は僕の文書の表現力では限界があるので、後日ブログで綴ろうかと思います。
   
  【FWで得たもの】
   
  人と心を通わせる。実はシンプルなことがなかなか難しい。 きっかけは多分ちょっとしたことなんだけど。それがなかなか見つけられない。 今回のFWでも初めはそうでした。地元の人にも中々話しかけられないし、九大の学生にも話しかけられない。そんな内気な僕(うそ)が二日目のグループワークからはイケイケどんどんでした。 だって高浜の人達って子供みたいに一緒にはしゃいでくれるんだもの。 Aグループは地元人と社会人しかいなかったけど、学生がもしいたら一緒にもっともっと盛り上がれたんじゃないかと思います。 でもそれってとても大切なことなんですよ。 社会人になって、普通に人と接する。楽しむ。はしゃぐ。 という単純なことができない人が沢山いることに驚きます。 その点、高浜の人々並びにこのFWの参加者はいとも容易くできてしまうんですね。 でもそれもこの高浜という土地が持つ魅力がなせる技のひとつではないかと気づかされました 。人が楽しめる場所には人は集まる。これは自然なことなんだと思います。 高浜、これからも盛り上げていきましょう!! 来年、再来年のFWも楽しみにしています。
   
  余談ですが、天草から帰ってきて以来、仕事にものすごい張りがあるんです。 どんな力が作用したのかはわかりませんが、やる気に満ち溢れてるんです。ありがとう天草。 最後に忌憚のない意見をということでしたので、ひとつだけ。 漁港での懇親会。せっかくなので魚も食べたかったです!! 次回は是非!!! …と、こんなことを忌憚なく言える関係。そうありたいものです。(ただのわがまま)
   
  藤原先生、スギダラメンバー、高浜の方々、JR九州の皆様、九大の学生たち。 ありがとうございました。これからもこりずにどうぞお付き合いください。
   
 
   
  ●<くらうち・しんすけ> 株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター
   
   
   
   
 
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