連載
  杉で仕掛ける/第38回 「杉デザインで心掛けていること」
文/ 海野洋光
   
 
 
  南雲さんと出会って「杉デザイン」を10年間やってきた。私の方は、がむしゃらに作ってきたと言った方が良いかもしれない。良く続いていると我ながら感心している。杉だけに限定して話をすると私は、必ず、一等材を使って南雲さんの作品を作ってきた。南雲さんは、何も言わないけれど私の作った日向市周辺のナグモストリートファニチャーは、そのほとんどが耳川流域の一等材だ。(一等材でないものがありますが…。)
   
 
  一等材を使用   日向市駅周辺のボラード
   
  なぜ、私が一等材にこだわるか?
   
  一番は、価格の問題だ。南雲さんのデザインする作品は、ボリュームがある。杉は、体積で価格が決まる。体積が大きければ大きいほど価格は、上がる。単価もある大きさを超えてしまうと相場(時価)に近い取引となり、見積もりを取らなければ、即答できない。体積もだが、長さも同じことが言える。10mと言うオーダーもあった。
   
  通常の木製品の製造業者は、受注が1年先と知っていれば、当然、材の価格変動することを見越して見積もりを作成する。この場合、不思議なことに材の価格が下がることを考えない。この手の製造をする方は、自前で材をストックしている。木材は、長い間寝かせておくと価格が上がる。なぜ、長くストックしておいた材は、高くなるのか?素朴な疑問だろう。それは、材の悪い癖が長くストックしているうちに全て出てしまうからだ。反りや割れだ。木材は、乾燥させると反りが起こり、割れてしまう。割れてしまった材は、使えなくなるか小さいサイズにして使う。反りは、削り直すことができる。つまり、時間をかけて手間をかけると素姓の良い材になることを職人は知っているのだ。しかしそのような使われ方をする材は、非常に用途が少なくなり、取引が少量で価格が高くなる傾向になる。材を卸す木材屋さんは、極端に在庫を嫌い理由がそこにある。寝かせておいた材は、高く取引されるのだが、需要が極端に少なく、あまり売れないのだ。その在庫がない場合、当然時価で仕入れなければならない。見積もりは作品に見合う在庫があるかないかで決まってくる。そして、どうしても高い価格で見積もりになってしまう。
   
  私の場合、幸いなことにファニチャー製造を生業としているわけではない。在庫を抱えるようなビジネスはできない。しかも、間にブローカーや問屋を通すこともないので価格自体は、一等材なので変動が少なくて済む。日向市駅周辺のストリートファニチャーが10年前の見積もりと価格が変わっていない理由がある。いつでも同じものを同じ価格で供給しなければならない息の長いプロジェクトは、それなり、やらなければならないのだ。逆に「節がなく、柾目で目細しかも規格外のサイズ」とオーダーされると材探しにオタオタしなければなくなる(笑)。確かにそのような材は、美しいが、それは、日向市駅周辺のストリートファニチャーでは不要だと考えている。
   
  日向市駅周辺を木材のプロが、視察に見学に来るだろう。「なんだ、一等材しか使っていないじゃないか!」と思っているに違いない。その考えは、甘い!と私自身は思っている。
   
  10年もストリートファニチャーを作っていると様々な問題が起こる。全てを自社で造っていれば、問題は少なくて済むのだが、南雲さんの杉デザインの場合、コストや納期、設計変更に対応しなければならないために外注で対応する。しかし、問題は、外注先が消滅してしまうことだ。この業界は、ほとんどが沈没しかけている。笑いごとではない。それだから、何とかしなければと様々な試みをしているのだが、どうにもならない。日向市内で私が取引をしていたところもこの10年で7〜8社、廃業している。とても辛い話だが、その時は、外注先を変えなければならない。全て一からやり直しとなる。
   
   
  日向市駅駅前のベンチ   日向市駅天井
   
  もともと、杉デザインを生産するシステムがなく、ようやくこの10年で日の目を見た感じだろう。デザイナーの要望やアイデアを取りまとめる役目を生産地側に拠点を置く誰かがいなければモノや作品ができない。特に杉デザインはそうだと感じている。はじめは、記録を取るためにカメラやビデオで撮影していた。杉デザインを普及させるために技術を公開しようと考えたのだ。しかし、問い合わせがくるたびに作り方や技術のノウハウを渡しても一向に埒が明かないことに気付いた。日向市駅周辺のような杉デザインを作りたい、欲しいという方に惜しげもなく喜んで渡していたのだが、誰一人として行動してくれませんでした。伝える技量のなさに失望感だけがありました。そこでやり方を変えました。生産地側のキーマンをデザイナーに紹介するという方法です。宮崎市の川上さんや大分市の三宮さんがそうです。杉デザインは技術的なノウハウではなく、人とのコミュニケーションで成り立つシステムだと思ったからです。(川上さんや三宮さんは、とんでもないものを押し付けられたと私を怨んでいるとは思いますが…)
   
  私が考える生産地側のキーマンってどんな人だと思いますか?ズバリ!好奇心旺盛で業界で人脈をきちんと持っている方です。それと行政に逆らえる人です。そのような気骨のある人です。行政に逆らえる人?私の場合が、幸運にも日向市さんは、そのようなことはなかったのですが、「○○森○組○を使え!」とか「○○補助金では…」となにかと足枷をしてきます。なかには「上司が…」と泣きつくやつもいるので話になりません。言って当然だ。言うような輩は、排除すべきなのです。私の場合は、そんなプロジェクトには参加しません。たぶん、全国の杉デザイン「木を活用した街づくり」を標榜する行政指導型のプロジェクトがうまくいかないのは、このような小さなひずみを断ち切れず、完成にこぎつけても後味の悪い結果となってしまうからだと考えます。
   
  と書いて筆を止めて東京へ行ったときに、南雲さんと少し話をしました。日南の飫肥杉デザインプロジェクトの話です。キーマンが行政の方で…。公共工事やクライアントが決まった長期間プロジェクトならキーマンの存在が大切なのですが、消費者相手の物販をメインとするプロジェクトは全く違います。いま、私自身も杉の物販に取り組んでいますが、その話は次回へ。
   
   
  つづく
   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
ほぼ、毎日更新しています。ブログ「海杉 木材コンシェルジュ」 http://blog.goo.ne.jp/umisugi/
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
『杉で仕掛ける』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_umi.htm
   
 
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