連載
  昔思ったこと・・・
文/ 南雲勝志
  いま地域が生き残るために・・・
 

 昔々(といっても2005年頃の話)、スギダラが出来た頃アチコチ産地を回り始めていた。初めは高知や宮崎、あるいは群馬や埼玉など関東周辺などが多かったのだが、秋田支部長菅原香織さんがスギダラに入会し、秋田ツアーをやってからずいぶんと秋田に行くことになる。能代市上町に行き商店街のまちづくりの皆さんと会い、商店街の活性化の話をしたり、県北部にの手這坂茅葺き民家集落へ行ったり、窓山に行く際は秋田支部技術部長の加藤さんの会社がある二ツ井駅周辺の活性化を夜な夜な話しをするようになる。そしてある仮設を立てイメージを膨らませてきた。それらは商店街の空き地スペースを使用したスギダラ商店街や、引き込み線のホームを利用した駅前スギダラ横丁構想であった。 窓山では住民のいなくなった土地に呼び水としてオーナー制のスギダラ商店をつくったり、企業の研修センター(この時は内田洋行)を建てたりしたらたらどうかという構想を提案した。

   
  能代市上町に計画したヤタイ商店街   二ツ井駅前スギダラ横丁
     
窓山オーナー制スギダラ商店   窓山内田洋行研修センター
 

 その頃ちょうどデザイングループhappi(ハッピ)の活動とも重複していて、JR東日本フロンティア研究所、内田洋行と無人駅の可能性を考えていた時期でもあった。千葉県の久留里線をモデルにモータリゼーションで失われた駅前の魅力をもう一度考え、駅周辺をみんなが集まれる場所にしよう。やっぱり駅前は地域の中心であるべきだ、と。鉄道が結ぶ地域の繋がりということで「鉄結」と名付けた。コンパクトで魅力的なプラットフォームのシェルターを住民と一緒につくり、駅前はやはりヤタイで商店街をつくろうと目論んだ。酒蔵も近くにある。

   
  先行実見を行ったIT案山子   コンパクトで住民とつくるプラットホームシェルター
 
  鉄結プロジェクトのプレゼンテーション:東京駅行幸地下通路
   また、延岡市上崎地区で行っていたワークショップの一環として、台風の被害で廃線になった高千穂鉄道に対し、今までお世話になった駅や線路にお返ししよう、と勝手に上崎駅杉化計画やトロッコプロジェクトを住民の皆さんに一緒にやろうと伝えたのもほぼ同じ時期であった。廃線になっても目の前の線路や駅は使うことが出来る。 旧高千穂鉄道保線区に行き、必死に頭を下げて車輪を借りてきた。(今でも借りている。)そしてみんなで組み立てた。そのトロッコは今も高千穂鉄道で使われている。
   
  木質化した上崎駅とトロッコの模型  

上崎駅を改装したスタンドバー:TEISHA-BAR

 
   
 

 さて、秋田でも鉄結でも上崎でも、それらに共通していたことは、駅前周辺再開発とかそういう大袈裟なものではなく、飲み屋街や横町を住民達でも出来るヤタイのようなものでつくったら、簡単にそして安価にみんなが集まれるコミュニケーションスペースが出来るのではということであった。戦後の空襲の後に自然発生的に生まれたそういった施設は日本全国アチコチで成立していった。最近は防火基準や建築基準に当てはまらなくなり、ほとんどなくなってしまったがが、とても人間臭く味があり、今でも残っている横町を見つけると思わず立ち寄ってしまう。(笑)

  そんな思いで提案していたプロジェクトを改めて振り返ると、 仮設的な商店街や屋台などをつくる事で、人が集まれる場所が出来、場合によってはそれを住民達と一緒につくる事で、地域のコミュニケーションの場になる。仮設が常設になる可能性もあるが。
世にいう開発などとはほど遠いかも知れないけど、行政や高額な予算に頼らず、そこに住む人がその気になれば出来てしまうものばかりであった。最後まで行き着かなかったプロジェクトも多かったが、その頃の僕らは仕掛けをそこまで踏み込んでいく時間や術がなかった。改めて今もう一度振り返ってみると、とても環境的だし、市民も参加でき、地場の材もすぐに活用できる魅力的なプロジェクトだと思う。

  いま、企業はCSR(社会に対する企業責任)という形で環境や森林にかなりのお金を支援している。しかし単にお金をつぎ込むのではなく、森林と連動して頑張る「人」を支援してはどうだろう。すると企業も巻き込みながら一緒に地域支援をしていくことになる。またお金でなくとも支援している場所の木材を利用することでも良い。
今僕が所属しているGSデザイン会議エンジニアアーキテクト協会、そして企業、スギダラといったそれぞれのグループを上手く繋げると、今やるべき社会に対する企業責任を一緒にやれるのではないだろうかと思っている。一つの目的のために別々にやるのではなく、手を結ぶことでとてもうまくいくこともある。それは特別なことではなく、先人達から引き継がれた大切な事、それを再認識し繋げて行くことだとも思っている。
そう。昔考えていたことと今考えていることはほとんど変わらない。

   
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
 
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