特集 銘木と銘酒の町フォーラム
  木桶復活プロジェクトと未来の吉野
文/写真  中井章太
   
 
 
  3月5日に開催された産業と文化のまちづくり「銘木と銘酒の町フォーラム」、その一週間後に、マグニチュード9という未曾有の東北地方太平洋沖地震が発生し、甚大な被害をもたらしました。
被災されました皆様に心からお見舞いを申し上げますとともに、亡くなられた方々に心からご冥福をお祈りいたします。
   
  東日本大震災の直後であれば、恐らくフォーラムは開催できなかったことでしょう。
フォーラムが開催できたこと自体が、これから吉野がやろうとしていること、やらなければならないことの意義の大きさの証ではないかと感じました。
   
  思い起せば、一昨年、2009年11月に開催されたスギダラ吉野ツアーの交流会での樽タル大作戦が、木桶復活プロジェクトの火種になったように思います。
   
  生まれ育った吉野への愛着を持つ仲間と、人のつながりの中からスタートした木桶復活プロジェクト。それは原点を見つめ直すことで新たな活路を見出そうという思いと 今、樽・桶の職人技術を継承しなければ、吉野材の最大の魅力を発信できる商品がなくなってしまい、300年の歴史に幕を閉じることにもなりかねないという危機感からの始まりでもありました。
   
  吉野杉の原点といえば樽・桶であり、素材の魅力を歴史から紐解き、木という視点だけにとどまらず、地域の文化として発信していこうという表れでもありました。
   
  その原動力になっているのが、スギダラ吉野ツアーで訪れた南雲さんの「吉野はやはり美しい」「潜在的ポテンシャルは日本一」「本気になればものすごい力を発揮する」という吉野に対する期待の言葉でありました。
「吉野は木という文化を通して、人を呼び込める力がある」
「木を通してさまざまな産業を生み出し、地域文化を築いてきた歴史がある」
今一度、一つ一つの産業を文化と結びつけ、「今の日本に必要なものが何であるか」見つけ出してもらえるような事業をまちづくりとして展開していきたいという想いがベースにありました。
   
  木と酒の文化の融合による新たなまちづくりの試みが、地域の人の心を動かし、町歩き事業における無料喫茶、写真展示、かす汁付弁当販売というおもてなしで協力いただけたことは、今後のまちづくりの展開においても大変意義のあることであったように思います。
そしてモノづくりが、町の暮らしを形成する大きなツールであり、コミュニティであるということも同時に気づかされたように思います。
   
  我々吉野の挑戦はまだ始まったばかりです。
木桶復活というフォーラムを通して、吉野杉の歴史、素材の魅力を知ってもらったに過ぎません。
   
  これから樽・桶で新たなストーリーを作り上げていくには、いくつもの壁を乗り越えていかなければなりません。そのひとつが商品を完成させるための職人の育成です。
樽丸に関しては、このプロジェクトをきっかけに我々のメンバーである新子商店が、樽作りに向けて歩み始めました。吉野に新たな樽・桶作りの産業が始まりつつあるのも事実です。
   
  今回のプロジェクトを通して、少しずつではありますが、点であった吉野の産業が繋がり始めてきたように感じます。山から製材、樽丸作りを通して木桶仕込みの酒造りまで、見学・体験してもらえるような取り組みも行なわれるようになってきました。
このつながりの輪が、吉野の産業界全体に広がったとき、必ず吉野に新たな地域文化が生まれることでしょう。
   
  吉野には物語を作れる資源がたくさんあります。
人の心を動かす資源がたくさんあります。
   
  恵まれすぎるくらいの資源がある吉野、日本が混迷している今、吉野が果たす役割の大きさを感じながら、産業と文化を融合させたまちづくり事業に取り組んでいきたいと考えます。
   
  お陰さまで吉野ウッドプロダクトは、今年も林野庁の交付事業に採択され、樽・桶の需要開拓に向けて酒から味噌、醤油などの産業分野へも広げていく予定です。
また、人を育む産業観光のまちとして、自然と人と技術を融合させたまちづくりを目指し、これからも挑戦していきたいと思います。
   
  「心を磨く町」吉野を目指して!!
   
 
  2009年11月スギダラ吉野ツアー。フォーラム後の記念写真   2009年11月スギダラ吉野ツアー。懇親会中締めの記念写真
   
  2011年3月銘木と銘酒の町フォーラム。パネルディスカッション   2011年3月銘木と銘酒の町フォーラム。懇親会中締めの記念写真
   
   
   
   
  ●<なかい・あきもと> 林業家。中神木材 代表。吉野町議会議員。
山から街まで、川上から川下までを考えた林業経営を模索し、吉野林業の再生を目指す。
   
 
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