特集 新たな時代に向かって
  地方と都市と、強さと弱さと、そしてスギダラとデザインの生きる道……
文/ 内田みえ
 
 
 

 あっという間に2011年も1ヶ月が過ぎようとしている。年々、時間の経つのが早くなっていく気がするが、それは自分の歳のせいだけではないように思う。社会全体が先へ先へと生き急いでいるかのようだ。でも、いったい日本はどこに向かっているのか? そもそも何を目指して走っているのだろうか? ただ突っ走って突っ走って、気がつくと1年が終わっている。そんな先の見えない中で、正月は1年に1度のリセット期間というか、束の間でも立ち止まってこれからのことを考えてみるいい時間なのかもしれない、と今年の正月はつくづく思った。そんなところへこの原稿を書く機会を得て、思わずたいそうなタイトルを立ててしまったが、今年の自分自身の抱負も兼ねて、最近、考えたこと、感じたことなどを少々書かせていただきたいと思う。

   
   私の生業は、雑誌や書籍といった紙媒体の編集者/ライターである。出版不況もいよいよ厳しさが骨身にしみ渡ってきた近年だが、厳しいのはただ経済的なところからだけではない。言うまでもなくインターネットの普及によって、紙媒体自体がターニングポイントを迎えているからだ。電子書籍への移行も、もはや時間の問題だ。ただ、メディアやその在り方が変化しても、編集や書くという仕事がなくなるわけではない。たぶん、仕事のやり方(システム)や必要とされる場所、求められる質とそれに伴う対価などが変わっていく中で、自分の立ち位置をどこに置くか、ということかと思っている。そして、どこに立ちたいかと言ったら、消費をあおり盲目的に新しさを追いかけるマスメディアの中ではなく、人々が本質的に豊かに暮らしていける社会づくりの中である。
   
   今、仕事についてなんらかの見直しを図られターニングポイントを迎えているのは、私のような職業に限らないだろう。日本全体がこれまでの価値観を見直す時期を迎えていて、想像を超える技術進歩に翻弄されながら、ここ10年ずっと過渡期にいるのだと思う。ニュースでは連日、かつてない就職難と報道しているが、それは経済成長だけ追い求めてきた日本の成れの果てなのではないだろうか。すでに破綻を来している仕組みの中に仕事を求めても未来はないのではないだろうか。
   
   では、どうすればいいのか?
   
   私は、これからの日本は地方の活性化なしには語れないと思う。これからは地方の時代なのだ。いや、もともと日本はそういう国だったはずだ。地域地域に特有の豊かな産物があり、その集積で日本は成り立っていたはずなのだ。それなのに、地方の自然とそこに根ざしていた第一次・第二次産業をないがしろにして、第三次産業による都市形成ばかりを目指したところにそもそもの間違いがあったのではないだろうか。経済発展の中、強い、弱いといった価値観もおかしくなってしまったが、豊かな自然も含めてものづくりの土壌があるということが、本来一番の強さなのではないか。自然に左右される生産業に従事する人たちは、厳しい冬もたんたんと耐え、困難さえも受け入れる強さを持っていたように思う。
   
   今、再び、豊かで元気な地方を取り戻すことで、日本は立ち直っていけるのではないだろうか。ただ、そうはいっても、単に昔に帰ればいい、というのではない。現代なりの方法でなければかなわないだろう。それが、スギダラが唱えるところの「懐かしい未来」である。
   
   すでに、そういうことを感じている人はたくさんいて、各地で地元に密着したものづくりや場所づくりが起こっている。地方に増えているライフスタイルショップやギャラリーなどもその現れの一つだ。それらは従来のただものを集めてきて売る場所ではなく、そこに暮らす人やつくり手といった人と人、人ともの、情報をつなぐハブ的な場として機能し、衣食住と生活全般に渡って展開している。そこで大切なのが、そういった場づくり、ものづくりに関わっている人々が、その土地に誇りと愛を持っているということだ。この精神性が肝心要なのだと思う。そういう場が地産地消をベースにしながら市場を拡大し、小規模だからこそ可能な特徴あるものづくりを促していく。それは、今はまだ点だが、線とし面としていくことで、地方が変わっていくかもしれない。そして、そこに大きな力を発揮してくるのがデザインではないかと思うのだ。
   
   そのデザインというものも、今、巷で指すデザインとは次元の異なるものだろう。現在、多くの場合、デザインというのは、美しい形や色と使いやすさ便利さなどの機能を与える行為と解されているが、これからのデザインはそういう狭義に留まらず、もっと俯瞰的な視点からの仕組みづくりに及ぶことが必要とされていくのではないだろうか。デザインの現代における可能性はそこにあって、デザイナーの生きる道もそっち側にあるように思うのだ。
   
   昨年12月に、「エンジニア・アーキテクト協会」という団体が発足した。スギダラでもおなじみの面々が名を連ねているが、エンジニア・アーキテクトという職能の意義と設立趣旨など、ぜひぜひ多くの人に知って欲しい。そこからは、日本が本来持っていた豊かな地域づくりを目指す熱い熱い良心が伝わってきて、日本も捨てたもんじゃない、と心から思えた。たぶんスギダラの向かう先と重なっていて、「新たな時代」もそっち方向にあるのではないだろうか。
   
   
   
   
  ●<うちだ・みえ> 編集者
インテリア雑誌の編集に携わり、03年フリーランスの編集者に。建築からインテリア、プロダクトまでさまざまな分野のデザイン、ものづくりに興味を持ち、編集・ライティングを手がけている。
   
 
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