2010年度 「杉大賞」発表

月間杉編集部

 
「杉大賞」について
 

日本全国スギダラケ倶楽部は今年度より、優れた杉のデザインに対し「杉大賞」を授与する事になりました。本年度は小野寺康氏を審査委員長に審査をお願いしてきました。その結果第一回「杉大賞」は「宮崎空港保安検査場」が受賞いたしましたので、月刊杉にて発表させていただきます。
なお「杉大賞」は来年度以降も毎年継続して行っていきます。受付は随時行っています。11月30日までに編集部に到着した作品からその年の「スギ大賞」を決定し、賞状及び賞品を授与します。12月号に掲載致します。どうぞふるって応募下さい。

審査委員長: 小野寺康(都市設計家)
主  催: 日本全国スギダラケ倶楽部
問い合わせ先: 月刊杉編集部

   
 
  2010年度「杉大賞」宮崎空港 保安検査場
 
 

場  所:宮崎空港内
設計期間:2010年1月〜2010年11月
デザイン及び設計者:内田洋行:若杉浩一  坂本晃彦
          ナグモデザイン事務所:南雲勝志  出水進也

   
 
   
 
   
 
   
 
  喜びの受賞者:左から出水進也、南雲勝志、若杉浩一、坂本晃彦
   
 
  審査委員長講評 :小野寺康(都市設計家)
 
   このデザインが評価されるべきポイントはまず、空港という交通施設環境の向上を目的とするプロジェクトにおいて、外観でもロビーでもなく、通常はほとんどデザインの対象として扱われていない保安検査場に着目し、このインテリア環境をリニューアルすることによって、搭乗手続きというプロセス全体の質的向上、及びその結果としての宮崎空港のイメージアップに多大な貢献を果たしたと考えられる点だ。
  チェックインから搭乗までの一連の空港利用プロセスにおいて、いうまでもなく保安検査場のセキュリティ・チェックは、テロリスト搭乗阻止までも視野に入れた警戒性の高い治安維持業務であり、固定式金属探知機にて旅客の身体を検査し、X線にて携行手荷物内の危険物持ち込みを検出するものである。必要不可欠な機能であるのは当然だが、旅客にとっては危険性の有無を「疑われる」場であり、旅の楽しさや期待、あるいは過ごしてきた思い出など、すべてのポジティブな心情がその場では凍結され、心理的負担が避けられないネガティブな場ということができる。
  一般的にどこの空港も、保安検査場は簡素なパーティションに仕切られた無機的な空間で、警備服に身を固めた検査官が義務的な態度で粛々と検査業務を遂行しているのが通例である。
  この保安検査場をデザインの対象に選んだところに、まず戦略的な独創性がある。
  また、空間整備に合わせて、検査官のユニフォームもリニューアルされた。警備服というよりはホテルマンの制服のようなデザインであり、このこともデザイナーの目的が、単なるモノに留まらず、「場」の演出にまで行き届いていることをうかがわせる。治安維持業務としての機能性に支障があってはならないのは当然として、通常はその結果旅客が受け取ることになるネガティブなメッセージ性をデザインで反転させようという意図が徹底しているのである。
  具体的にデザインを見ていく。
  無味乾燥の場となりがちな保安検査場に、木質素材の中でもっとも柔らかいといっていい、スギという素材を徹底して持ち込んだ。検査場の空間全体にスギ材をルーバー状に用いたことで、空間に軽快感や解放感が与えられた。
  さらに、人の動線に呼応して天井のルーバーはヴォールト状に削り込まれており、旅客はゆるく木質に包まれて誘導される。この空間演出は、ここが治安維持と同時に「もてなし」の場でもあるというメッセージとなっている。天井やパーティションに組み込まれた、照明及びステンドグラスはいずれも円形で、これもまた空間全体に柔和な印象を与えている。

    荷物が置かれるカウンターも厚みのあるスギ集成材が使われて、視覚と触覚において温かみや優しさが演出されている。実際、カメラやPCなど精密機器が受け渡されるテーブルにおいて、硬い素材でなく柔らかな木質を用いていることは、旅客への配慮として説得力がある。

 
 

  搭乗ロビーとの仕切り壁(パーティション)は、搭乗ロビー側に有機的なカーブを入れることによって、搭乗ロビー空間全体にやさしげなアクセントを与えている。このカーブだが、単純な円弧でなく、下部がやや膨らんだ有機的なシルエットとなっているところが興味深い。ステンドグラスとのバランスでデザインされたのは明らかだが、この上下方向に非シンメトリーな曲面が、ゆるく重力を感じさせる安定感と、不思議な愛嬌をインテリア空間に与えている。

 
  非シンメトリーの格子のアールライン(左)とトップの照明内蔵ポールバー(右)  撮影:小野寺審査委員長
    よく見ると、パーティション上部に照明内蔵のポールバーが設置されている。天端を引き締めるシャープなアクセントになっているとともに、柔らかなスギの表情をさりげなく灯りで照らし出し、木質感を強調している。
  実に、その「さりげなさ」こそ、このデザインの重要な評価点であるといっていい。
  押しつけがましくないからこそ、利用者の心理負担は軽減されるのである。
  すべてをルーバーで構成したことも、軽快感と相まって、さりげなさに通じている。予算制限が厳しい機能的空間の演出において、プロフェッショナルな力量をうかがわせる。照明やステンドグラスを組み合わせるディテールの処理もきわめて精緻であり、施工上の完成度も高い。
  これらの結果として宮崎空港は、人をやさしく歓迎し、送り出す施設であるというメッセージ性を、施設空間で表現することに成功しており、空港全体の印象を向上させることに果たした今回のこのザインの貢献度は注目に値する。
  デザイン戦略の独創性、デザインの洗練度、いずれも高度であり、第一回杉大賞に相応しいと判断した。
   
  審査委員講評 おまけ
   
   
  ●<おのでら・やすし> 都市設計家,小野寺康都市設計事務所・代表
   
   
 
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