連載
  ターニングポイント
文/  南雲勝志
   
 
 
 

2010年ももうすぐ終わる。1999年から2000年に変わるときに、何か新しい世の中になるような予感がした。でも余り変わらなかったように僕は思う。バブルの余韻はまだ残っていたし、夢よもう一度と思う人々も少なくなかった。
しかし今、人口減少、高齢化や環境問題を抱え今まで通りに行かなくなってきたことは、認めざるを得なくなった。そして大きなマイナスを抱え、これからの低成長をどう生き延びていくかそろそろ本気に考えざるを得ない。 大きなマイナスは大きなプラスがない限り消えない。大きなプラスがあり得ない中で、いかにこれ以上マイナスを作らないかという非常に地味な価値観への転換が必要になってくる。でもそれは本当は地味な事ではなく、 そこには現在の我々がすでに持っている財産、資産、そして人、これらをどう有効に生かしていくかという本質的なことを生かしていこうということに他ならない。

美しい国づくり政策大綱が出来たのが2003年、景観法成立が2004年。当時は、少なくとも世の中は変わり、グチャグチャになった景観が美しい風景に蘇るかも知れないと思った。それらをとりまとめた、元国土交通事務次官の青山俊樹さんが、当時あるセミナーでお会いした時、「もともと我々はとても美しいものを持っていたんです。美しい自然、美しい山村、美しい人の心。それらをね〜、もう一度きちんと元に戻すというは基本的にとても大事だと思うのです。たとえば赤ん坊を抱っこしている時のお母さんの顔は、無条件に素晴らしいでしょう。美しいって、つくったものではなく、そういうことだと思うんですよ。」というような事をおっしゃっていた。なるほど、人の意識の問題が根底にありそうだ。心の問題と捉えれば、マイナスからプラスにするのにお金はかからないかも知れない。しかし、それから6年、美しい日本をつくろうという理念はどれだけ、日本人の心の中に浸透していっただろうか。政治的なキャッチフレーズや政争に埋没し、エコや環境といったキーワードの方がはるかに市民権を得ている。そう、結局は経済と結びつかないものはなかなか浸透しないのだ。しかし、エコ減税っていったい何?誰が何の為にやっているの?

だがこの十年の間に世代はずいぶんと変わり、経営者の考えも、昔の栄華を夢見る人だってはるかに減った。2010年からの10年は2000年から10年よりも圧倒的な早さで変化が訪れていくだろう。今まさにそのターニングポイントにいるのではないだろうか?
デザインも、まちづくりも、市民の生活も行政も会社も、今まで通りにはまったく機能しなくなる。それを社会や政治の責任にするのではなく、自分たちの責任と捉え、みんなで豊かで美しい日本をより早く作り出すか、その知恵比べになってくるだろう。
偶然かどうかスギダラが出来たのも、2004年頃だ。スギダラが経済的利益を求めなかったことが幸いしたのか、その思想はいまだ割と理解されている方だと思う。 そして「日向市富高小学校まちづくり特別授業」が開催されたのも同じ頃、6年前だ。つい最近スギダラのBBSに当時の女生徒が、現在の気持ちを書き込んでくれた。嬉しかったので原文のまま紹介する。

■おひさしぶりです! /  いちご   10/12/16 14:16 ...
南雲先生、若杉先生、千代田先生。お久しぶりです。お元気ですか?当時富高小学校6年3組だった生徒のものです。久しぶりにインターネットで検索したら当時の記事があったんで見ました。とても懐かしいです(^ω^)みんなでデザインを考えて実物の屋台を作って本当に達成感がありました。貴重な経験をさせてもらったんだなっと思います。協力してくださったいろんな方々に今でも感謝しています。今、その屋台は日向の祭りやイベントで見かけます。本当に作ったんだっていつも思います。杉で作られた日向駅を毎日利用しています!今では私たちは高校3年生です。就職・進学をしていきます。6年前の事になるけど、絶対に私たちは当時のことを忘れないと思います。先生たちも忘れないでくださいね!スギダラケ倶楽部の会員の証、大事にとっています。これからもお仕事頑張ってくださいね。お体には気をつけて。失礼します。

なんだかとても幸せな気持ちになった。6年前の移動式夢空間の感動が蘇ってきた。日本の未来も捨てたものではない。美しい日本はこういうところから生まれていくんだろうなぁ、と思った。これからの若者に期待したい。 ありがとう、いちごちゃん。

 
  日南坂元の棚田:地場の石を丹念に積み上げている事、馬耕を基本としているため、幾何学的な形態が特徴。
 
  日南坂元の大根干し
 

さて話は変わり、新春号からのお知らせを少し。
杉九のメンバーでもあり、スギダライベントにもいつも積極的に参加していただいている、津高 守さんに新春号の文章を執筆していただきます。実は津高さんは、本業がJR九州 鉄道事業本部 施設部長でいらっしゃいます。多分、熱く温かいお話が期待できます。
もうひと方、都市設計事務所eauの崎谷浩一郎さんには、6回連続で佐渡のプロジェクトを語っていただきます。こちらもお楽しみに。

それでは皆さん、来年も月刊杉のご支援どうぞよろしくお願いします。

   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
 
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