特集 杉と温泉ぐるぐる計画 報告
  杉と温泉ぐるぐる計画を首謀者として考えてみました。

文/ 長尾行平

 
 
  そもそも、2年前の「杉モノ・デザイン展」での経験が、今回の「杉と温泉ぐるぐる 計画(以下「杉ぐる」)」をやろう!と思った動機でした。 あの時の面白さをもう一度味わいたいなぁ〜と単純に思ったんです。でも、同じことをしたってつまらない、何か前回と違う方向へ行きたいなぁと最初は漠然と思っていました。 だいたい、今年の2月ぐらいからフツフツと「今年は何かしでかしたい!」と思っていました。
   
  企画を考えた時にまず思った事は、「杉」を主役にしなくたっていいんじゃないの か?という事です。ナイスな脇役としての「杉」の方が、僕はカッコイイん じゃないのか?と思っていたし、林業や木工に関わっていない人からしてみれば、 「日本の林業が大変です!杉を使いましょう!」と強く言ったって、普通の 人は興味持たないのじゃないのかと、「オレが!オレが!」と言えば言う程・・・しらけてしまう様な気がすると言うか・・・。 それより、自分のモノじゃなく「あの人が凄いよ、いいモノ作るよね」と、他者をす すめられる関係がいいなぁと。そんな関係の場が作れたらと思いました。
   
  そして最近は日本全国でクラフト・フェアが流行ってきて、ちょっと自分がその雰囲 気に飽きてきたなぁとも思っていたんです。「またクラフト・フェアか よ・・・」とその手のイベントの名を聞くたびに、心の中でつぶやいていました。なので、よくあるクラフト・フェアにはしたくないなぁとは思っていまし た。
   
  そこで「温泉」です。
   
  今回「杉ぐる」に参加してくれた武雄温泉の京都屋の前田社長さんと、嬉野温泉の旅 館大村屋の北川健太君(こちらも社長)は、5年前に福岡から佐賀に移住 してきた僕を面白がってくれた人達で、前回の「杉モノ・デザイン展」に二人とも遊 びに来てくれていました。 たまたま大村屋の健太君と話している中で「また杉モノみたいなイベントが、したいんだけどね〜」と言う話しをしていると、彼が「温泉に杉を浮かべたら、 面白そうですよね?」と言ったので、「温泉に杉を浮かべていいの?」と聞くと、「いいですよ」と言う返事から、「杉ダマ温泉」などの色々な企画のイメー ジが繋がっていったのでした。
   
  また以前、京都屋の前田さんと話している時に「旅館のバスは、けっこう遠くまでお 客さんを迎えに行くんですよ」という話しを聞いていた時に、「旅館のバ スをイベントの周遊バスとして使ったら面白いかも?」というアイデアはあったので、この機会に武雄温泉と嬉野温泉が協力して旅館のバスを出して頂いて、 それぞれの町を往復し、それぞれの温泉に入ってもらう企画をしよう。間伐材の共通 温泉手形を1,000円で売って、これをイベントの運営費としましょ う!と両旅館に提案したところ、快く承諾してもらえました。
   
  杉モノ・デザイン展に、温泉をプラスして二つの町を楽しむ仕掛け・・・ なんとか前回とは違う方向が見えてきました。 やっと「ぐるぐる計画」が生まれつつあります。 ふぅ〜、ここまで文章を書くのもちょっと疲れますね・・・。
   
  さて、肝心の会場をどこにするか?
   
  一番重要なポイントがズーッと後回しにしていました。最初は武雄市の廃校になった木造校舎でやろうとしたのですが、電気水道が通ってなく、しかも使用料 が高くて断念。次に武雄温泉の京都屋のロビーでしようとしましたが、なんとなく雰 囲気が違う・・・。嬉野温泉の大村屋さんでは狭すぎるし・・・。
   
  色々考えていたのですが、ふと思ったのです。 佐賀県じゃなくてもいいのでは?と。
   
  そもそも、移住して来たよそ者の僕らからしてみると、佐賀県だろうが、長崎県だろ うが、福岡県だろうが関係ないんですよね。 来て欲しいお客さんも同じで、県境なんて関係ないと思うんです。面白そうな所があれば、単純に寄るし、美味しいモノがあれば食べに来るし、欲しいモノがあれば買いに来る。
   
 
僕の住んでいる佐賀県武雄市の隣は長崎県です。その武雄と接している長崎県波佐見町には、僕がいつも通っている「モンネ・ルギ・ムック」という素敵なカフェがあって、その向かいには波佐見焼き(白山陶器などが有名)の製陶所跡をギャラリーにした「モンネ・ポルト」という、田舎なのにかなりトンがったヤツらが集まる場所がある事に気づいたのです。
 
 
  ムックやポルトのスタッフは、共通の友人がいたりと日頃から仲良くさせてもらっていたし、いつか彼らと一緒に何かワルダクミをしたいと思っていたので、 この機会に声をかけてみました。こちらも皆さん、快く了承してくれました。有り難 い事です。
   
  文章が長くなっていますが、後ちょっとお付き合いを・・・
   
  それと僕は福岡から佐賀に移住して来て5年経つのですが、こちらで知り合った仲間 と何か一緒にやりたい!という気持ちがありました。 今回一緒にイベントを運営したスタッフは、大工の娘で建築士の満原さん、大川で木 工家具の修行をして独立した本山くん、近所で木の器の工房を開いた山上さんです。 彼らは前回の「杉モノ・デザイン展」に遊びに来ていたので、僕がやろうとしているノリが分かっていたし、それぞれが「何かしでかしたい!」という気持ち を持っていたので誘いやすかったです。結果モチベーションの高いチームとして運営 する事が出来たと思います。
   
  そして、出展してくれる作家さん達のアポは、前回同様、杉の木クラフトさんと佐藤 さんにご協力頂きました。僕にはほとんどと作家さん達との繋がりがな かったので、ここらの方も大変助かりました。
   
  色々と前回との「杉モノ・デザイン展」とは違う新しいメンバーや企画になっている ので、いっそ名前を変える事にしました。そこで出て来たのが「杉と温泉ぐるぐる計画」と言う名前です。何をするのかなんとなく分かる様な、ちょっとダサイ名前がいいと思ってつけました。
   
  名前は新しくなりましたが、前回と同じ思いはあります。 それは「イイ感じで田舎で盛り上がる」という事です。
   
  「街」で面白い企画をするって、もう僕の中では興味がなくなっているんです。それより、世間から見捨てられたり、忘れられたり、期待されてなかったりするモノや場所や、もしかすると人が・・・これから面白くなるのかもしれなあいなぁ 〜と思っています。そういった意味で、佐賀と長崎の田舎で開催する事 や、「杉」をテーマにイベントをすると言う事は、僕にとっては面白い素材でした。
   
  それと今回も「補助金」を申請しませんでした。
   
  実を言うと、当初は補助金をもらってお金の面でラクしたいと思っていたのです が・・・。 何かとイベントには経費がかかります。作品の搬入搬出費だけでも補助金を貰えないかと思っていましたが、色々な人に相談する度に、「お金を出す所が企画 の決定権を持って、色々と企画内容に注文を出してくるよ。」と言われました。
   
  考えた末、今回も補助金を貰ったり、スポンサーをつけたり、後援や協賛を付けずに、なんとか自分達のアイデアで商品を作り、それを運営費として売って、 自分達が決定権を持てるイベントにしてゆきました。 補助金、スポンサー自体が悪い事ではないのですが、 もらうと自分達に決定権がなくなってしまう様な気がしたのです・・・。 これは当たり前の話しなのですが、「自分達が思っていた事と違うコトをする、もしくは、させられる状況にはならないようにしよう!」という事を気を付け たんです。しかも赤字にならないように!!
   
  そうは言っても、今回も色々な人達の協力がありました。「自分達でなんとかする!」と決めていたのですが、自分の思っている以上に協力者が表れると・・・本当に感謝の気持ちでいっぱいになった事は言うまでもありません。結果、 これが正解かどうか、よくわかりません。でも後々、この経験、判断は自 分達の役に立つだろうという事は確信しています。お陰さまでイベントの売上げ集計結果は、かろうじて黒字でした!!
   
  開催日の二日間は、本当に多くの人が遊びに来てくれました。そして参加してくれた 作家さん達も、笑顔で参加して頂けました。本当に今回のイベントの成功は協力して頂いた皆さんのお陰だと心から思っています。再度お礼を申し上げます。 ありがとうございました。
   
  こうやって「杉と温泉ぐるぐる計画」と言うイベントを思い返してみると、開催日の当日よりも、その前のコトの方がとても大事だったなぁと改めて思ってい ます。当日は、「やれる事はやった。後は運を天に任せるしかないような・・・」と言う心境だったし、その日の事は、舞い上がっていてあまり覚えていないですね・・・。
   
  それと、これを最後の方で言ってしまうと何なんですが、僕はそんなに「杉」に興味 がなかったから良かったのかもなと思っています。そんなに「杉」に思い 入れがない。だからこそ、普通の人が興味を持てるイベントが企画出来たのではない かと思います。
   
  しかし、「杉」って言う木は、人と人を結ぶパワーがあるように思います。前回同様、「杉」をテーマにしたイベントをやる事で、僕自身多くの人達との縁を 頂ける事になったのですから。
   
  また懲りずにワルダクミをしたいと思っています。 もちろん次も田舎で・・・。
   
  その時は、また皆さん。杉で一緒に遊びましょう!
   
 
 
できあがった杉ダマ達   頭に敷けば、杉ダマクラ
木口の付き板(直径約1m厚さ2mm)で看板を作りました
 
  展示会場風景
   
  ● <ながお・こうへい>  デザイナーなど
ユキヒラ・モノデザイン事務所主宰http://www.yukihira.jp/
佐賀県武雄市在住
   
 
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