連載
 

いろいろな樹木とその利用/第23回 「ミズキ」

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
北海道から九州まで広く分布し、樹高は10〜15m位になります。成長が早く、道路際や林縁部分などでよく見かける樹木です。樹皮は緑灰色で縦に筋が入り花は白く5〜6月に咲きます。
第23回目はミズキです。
   
 
   
 
  ミズキ開花中(平成20年5月22日撮影)
   
   
  ある程度樹木を知ると、遠くからでも判別できるようになってきます。葉の大きなホオノキやトチノキはわかりやすいですし、スギやカラマツなどもすぐ判別できます。
そんな中でミズキは羽状型とも階段状とも言われる大変特徴的な樹形をしていますのでたぶん教えられたらすぐわかるのではないかと思います。詳しくは本文で。
そんなミズキですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
   
  ●こけしの材料
  おみやげ品として各地で売られていますが、宮城県の鳴子こけしは有名です。このこけしの材料にミズキが使われています。ミズキは成長が早く、色が白く、塗装の仕上がりも良く切削しやすいことからよく使われます。鳴子町(現大崎市)あたりではミズキの植栽も行われており、ミズキを人工林として育てているとのこと。ミズキは主幹がまっすぐに育つので人工林に向いているかも知れませんね。
こけし以外には、こま、寄せ木細工、印材、漆器木地、柄、荷棒、杓子などにしました。
余談ですがこけしは漢字で「小芥子」と書きます。もしかしてこけしの頭が大きいのは芥子坊主(けしぼうず)と関係あるのかも知れません。
   
   
  ●箸の材料
  正月などの祝いのときに雑煮を食べる柳箸。
柳箸は両方が細く削られており丸くふっくらとした形状をしています。両方が削られているのは、片方は人間が使い、もう一方は歳神様が食べるためです。
柳箸はヤナギという名がついていますが実際にはミズキが賞用され、奥多摩の白木箸が有名でした。ミズキは材質が軟らかで色が白く粘りがあるので箸材には最適です。柳箸はミズキで作ると重く、ドロノキで作ると中ぐらいの重さで、サワグルミは軽めな箸に仕上がると言われていました。
箸材用のミズキは秋の彼岸から春の彼岸までに伐採し、生木のまま適当な長さに玉切り、色艶の悪い部分は除いて純白な辺材部を割り、日に当てて乾燥させ、箸に作りました。伐り時が悪いものは材色が悪いとされました。
   
  余談ですが、個人的には有料でもいいからこれで、アイスクリームの木製スプーン(スーパーでサービスに置いてあるもの)を作ってもらいたいです。今のスプーンでは嫌な匂いがして食べる気になりません。(私は木製スプーンだけでなく、安い割り箸、楊枝やアイスの棒などの匂いも舌触りも全部大嫌いです・・・)
   
   
  ●独特な樹形
  これはある里山の写真ですが、ここの中にミズキがあります。さて、どれでしょうか?
   
 
  ミズキが隠れています。
   
  正解はこの木。階段のような平行に展開された枝が特徴的です。よく見ると上中下と3本あるようです。
 
   
  ここにもありますね!ミズキの向かって右隣にスギが一本生えており、左隣にはクズが垂れ下がっています。クズの左上にはホオノキが生えています。(他は判別出来ません・・・)
 

   
  ミズキはこのように分かりやすいので、遠くから樹種を判断するのに役立ちます。(一体いつ役立つのやら)
   
   
  ●語源と方言
  樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
サワミズキ、アカミズキ、クロミズキ、シロミズキ、クルマミズキ、ミズノキ、ミズブサ、ミズクサ、ミズブキ、ミズカス、ミズブタ、ミズブタイ、ミズッキ、ミズバカシ、ミズシ、ミズッシ、ミズチ、アカミズ、タニミズシ、クサミズ、ウワミズ、ミズユス、ミジヒサ、オンナミズビシャ、オオアメフリ、リュウジンヤナギ、カサミ、カラカサミズキ、カギッコ、カギサマノキ、カギコシバ、カギツケ、カギツケサマ、カギフカゲ、カゲヒキ、カゲピキ、カゲノキ、マイタマノキ、マエタマノキ、マエダマノキ、マユダマノキ、ダンゴノキ、ダンゴギ、ダンゴ、ダンゴバナ、ダンゴシバ、ダンゴボヤ、ダンゴボク、ダンノキ、トリアシ、アカシバ、ジョウボ、ショウベンノキ、ネズラ、イツキ、ミクロ、ウシナカセ、ハシカノキ、モチノキ、ワカギ、アカンジョウ、アカキ、シラキ、ジンタ、モロシ、トッパキ  
(樹木大図鑑Vから一部引用 歴史的仮名遣いは改めた。)
ミズキは全国各地に分布しており、身近な存在でもあるので方言が大変多い樹木です。主な方言の語源は次のようになっております。
   
 
シロ
白い材色あるいは近縁種のクマノミズキの黒い樹皮に対して。
アカ
冬期の枝の色に因む。
クルマ
ミズキの木を下からみると枝が輪状に出ているためか。
ミズ、アメ、ショウベン
春先に木を伐ると水が滴り落ちることに因む。
ダンゴ、マユ、マユダマ、モチ
小正月にミズキの枝に餅で作った繭状のものを飾る民俗に因む。
バカシ
箸の材料となったため。バシ→バカシに変化。
カサ、カラカサ
独特の樹形からか。
カギ、カゲ
子供の遊びで、ミズキの枝の二又部分をお互いに引っかけて引っ張り合う遊びに因む。
   
 
  ミズキの新芽。枝が小豆色なのが確認できる。(平成22年4月18日撮影)
   
   
  ●その他の利用
  材が緻密で軟らかく工作が容易なため、ボビンや糸巻きなどの小物を作りました。
特筆されるのはラムネの玉抜き(玉押し?)です。現在のラムネは使い捨てのプラスチック製ですが、かつてはミズキが原料の木製ラムネ玉抜きがありました。
   
  林芙美子の「小さい花」に記載があります。
 
 

「・・・病院の石の段々の下には、酢いさうな初なりの蜜柑を売つてゐる露店がありました。その露店の中にはラムネの壜が沢山並べてあつて、由とおなじ年恰好の娘が、垢で真黒になつた木の栓抜きでラムネのくちをその栓でいつしんに押してゐました。・・・・」

   
  この玉抜き、どんな形をしていたのかよくわからないのですが、ご存じの方教えてください。(たぶんお椀・湯飲形をしたフタの内側に突起物が出ているのではないかと想像します。お椀の外側はみんながさわるので汚れているということでしょうか。)
   
   
  【標準和名:ミズキ 学名:Cornus controversa Hemsley.(ミズキ科ミズキ属)】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
『いろいろな樹木とその利用』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_iwai.htm
   
 
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