連載
  吉野杉をハラオシしよう!〜“駆け出し”専務の修行日記〜第46回
文/写真  石橋 輝一
  鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
先月号でお伝えした吉野発の新プロジェクト。
今月に入って、色々と動きが出ていますので、ご報告させていただきます。
   
  吉野杉の大桶を作ります!
紺屋の白袴にならない為に、まず自分達から実践していきます。
   
  吉野杉の桶作りは山で杉を伐採する所から始めたかったのですが、今シーズンの日本酒の仕込みで木桶仕込みにチャレンジする事が大きな目標でもあったので、当社(吉野中央木材)で在庫している杉板を使って、桶を作る事にしました。
   
  桶製作は、大阪・堺市の株式会社ウッドワーク(藤井製桶所)さんにお願いする事にしました。
仕込み用の大桶を製作できる日本でも数少ない桶屋さんです。
   
  堺は古くからモノづくりの街として有名です。吉野とのつながりも古く、樽の材料である「樽丸」を製造する技術は、堺の商人が吉野に伝えたと言われています。
   
  先日、ウッドワークの代表、上芝雄史さんに吉野にお越しいただき、仕込み桶に適した杉材について教えて頂きました。
   
 
  当社倉庫に吉野ウッドプロダクト・木のある暮らしを物語る協議会のメンバー全員が集まり、ご指導を頂きました。
   
  先月号で「吉野杉は古くから桶の材料として重宝されてきた」と書きましたが、吉野杉の全てが桶の材料(クレ材)に適しているわけではありません。醸造には日本酒、醤油、味噌、酢などがありますが、それぞれの仕込み桶に相応しい杉材があるのです。木桶が全盛の時代、吉野には「木取り商」という職業があり、製材した杉板を桶の種類に応じて選別し、桶屋さんに販売していたそうです。
   
  日本酒の仕込み桶に適している杉材。それはどういうものでしょうか!?
   
  まずは、白太と赤味の間の「白線帯」という部分がある事です。この白線帯は白太から赤味に変わろうとしている部分で、水分を通しにくいという特性があります。日本酒の分子は通常の水の分子よりも小さい為、この白線帯がなければ、仕込み中に漏れてしまう可能性が高いのです。
   
 
  杉板の木口断面をご覧下さい。白太と赤味がきれいに分かれているのが分かります。この白線帯が杉板全体に入る必要があります。木表面は真っ白、木裏面が真っ赤、側面が赤白半々が理想です。   木裏面を上にしています。右側の板は全て赤味になっています。これでは日本酒が漏れてしまうので、日本酒の仕込み桶には使えません。
   
  続いては、年輪の込み具合です。5分(15o)の厚みの中に年輪6本(6年)以上。年輪幅1〜2oが必要です。水漏れと耐久性の点から、年輪幅の粗い杉材は木桶に適していません。
   
  そして、いちばん重要なのは、赤味の色合いです。年輪幅よりも赤味の色合いが優先される程です。
杉は個体差が大きい木で、赤味の色合いにも色々な種類があります。赤味の色合いによっては、日本酒に木香(きが)が移りやすいものがあり、そういった赤味の杉板を選別する必要があります。
  右下の2枚の杉板。同じように見えますが…。どちらか1枚は日本酒の桶には適していません。
う〜ん!奥が深い!
   
   
  年輪の込み具合
吉野材は目込み材が多い為、比較的クリアしやすいハードルです。
  赤みの色合い
2枚の杉板、どちらも白線帯を持っており、年輪幅も詰まっています。さて、どちらが日本酒の桶に相応しいと思いますか???
   
  製材所の人間なので、これまでも杉ワールドにどっぷり浸かっていたつもりでしたが、木桶の世界を知れば知るほど、その深さに圧倒されます。それと同時に、昔の日本人が持っていた杉への愛着心というか執着心に驚かされます。やっぱり日本は素晴らしい木の文化を持った国だったのです!
   
 
  ウッドワークの上芝さんにとても詳しく教えて頂きました。白線帯、年輪幅、赤味の色合い…。この他にも注意すべき点は多いのですが、細かすぎて言葉では伝え切れません!
   
 

さぁ、木桶製作がいよいよ始まりますよ。
来年2月頭、メンバーの美吉野醸造さんでの仕込みに向けて、大きな一歩を踏み出しました!

   
  来年の春は、吉野山の満開の桜の下、吉野杉の木桶仕込みの新酒でカンパイしましょう!
   
   
  つづく
   
   
   
   
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。杉歴5年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ: http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」: http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewoodもよろしく!ほぼ毎日更新中です。

『吉野杉のハラオシをしよう!』web単行本: http://www.m-sugi.com/books/books_ishibashi.htm
   
 
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