特集 杉コレ2010in西都 二次審査発表と今年の意義
  杉コレクション2010へ向けて(西都で杉コレを開催する意義)

文/写真 辻 喜彦

 
「ツジさん、来月の月刊杉、原稿よろうしく!」
南雲さんから牛久で突然、云われた。
この季節がまた巡ってきた・・・か。
都城〜日向〜日南と続いた杉コレクションは、昨年の「史上最大の飫肥杉大作戦!!」でひとつの山を乗り越えた達成感があった。開催に関わった誰もがそう感じたと思う。
   
  そして、今年は西都で開催される。
これまでの都城、日向、日南と異なり、実は西都ではまだ「地域材である杉を見直そう!」という動きになっていない。まちづくりに関わる横の連携が十分とはいえない状況だった。
南雲さんが「ツジさん、頼む!!」と云うことは、そういう連携を形づくってほしいということだ。
また次に乗り越えるべき山が目の前に現れた!
今回の杉コレ開催までの道のりは、これまで以上に予想もしない山々が聳え立っていた。
現在までの道のりを振り返りながら、今回、西都で杉コレを開催する意義について書いてみたい。
   
   
  ●1月20日・油津にて
  まだ日南からの脱力感も抜けぬ今年の1月、既に「西都でExcite!!」はスタートしていた。
皆川さんと野沢火祭りへ行ってきた南雲さんは早くもコーフンしていた。
「今年のテーマは“火”でコーフン! 夜の西都原古墳群でExciteだぁ!!」
新年早々、今年も訳が分からなかった・・・(笑)
   
  西都原古墳群は、台地上に約1700年前に造られた大小300基以上の古墳が散在し、全国でも類を見ない壮大な風景をなしている国特別史跡で、年間約100万人の人々が訪れる地である。
ところが、西都市の永年の悩みは、西都原古墳を訪れる来訪者が、「ついでに」台地から約2.0km離れた市街地へ脚を伸ばしてくれず、街なかのにぎわいが停滞していくことにあった。
実際、来訪者は、車で西都原古墳群へ来て、四季折々の風景を楽しみ、また車で去ってしまう。
この「ついでに」問題へ何とか対処するために、ボクと西山健一さん(eau・今回やっとスギダラ会員に!)は、平成16年から篠原先生らの指導のもとに「記紀の道」づくりに地元の皆さんと共に取組んできた。
「記紀の道」について、少し補足すると、
日本で最も古いと云われる「古事記」「日本書紀」には、日本神話の根幹をなす日向神話の事が書かれている。その伝承の中心になるのは、天孫ニニギノミコトとその妃コノハナサクヤ姫にまつわる神話であり、西都市街なかの「都萬神社」から西都原台地へ至る土地(中段域)には、この神話の伝承地が数多く残されていて、この道が、古事記の「記」と、日本書紀の「紀」から「記紀の道」と名付けられている。最近では、パワースポットとして若い人たちにも知られているらしい。
参考HP: http://log03.gozaru.jp/kikinomichi/
   
  我々は、この「記紀の道」を市民や来訪者が、ノンビリと神話を辿りながら歩いて、街なかと西都原古墳群とを結ぶ散歩道とするために、地元の皆さんと「記紀の道を語ろう会」や「街なかにぎわい再生ワークショップ」を重ねてきた。
「記紀の道を語ろう会」では、整備後の記紀の道沿道を四季折々の花木で彩い、育んでもらうための“仕掛け”を沿道住民の皆さんと話し合ってきた。
「街なかにぎわい再生ワークショップ」では、街なか商店会の皆さんが中心となって、来訪者が楽しめる街なか魅力づくりのための“仕掛け”として「桜川」の清掃活動などが展開されている。
しかし記紀の道の完成までは、まだ3年近く時間がかかるため、街なか再生のための次の一手を模索しているところだった。
   
 
  地元「記紀の道を語ろう会」皆さんによる街歩き  

「桜川を憩いの場にする会」の皆さんによる桜川清掃活動
(写真・井上康志氏提供)

   
  その西都へ杉コレクションがやってくる!! この機会をうまく活用しない手はない!
   
  「西都の人たちと接点のあるツジさんに、街なかと杉コレの連携は頼むよ!」
またもや南雲さんからの指令が出された。これが3月のことだった。
   
  西都市建設課のハマスナさんへ連絡を取り、背景を説明し、杉コレを街なか再生のきっかけとして何とかうまく活かせないだろうか?と相談したところ、ハマスナさんは「わかりました!」と渋く応えてくれた。
   
   
  ●3月16日・西都原古墳群にて
  ハマスナさんは、杉コレ成功のために、ホンブさん、ナカムラさん、コタニさんら西都市の精鋭部隊を揃えて出迎えてくれた。
南雲さん、若杉さん、県山村・木材振興課、西都木青会(皆川さん、池水さんら)、西都市精鋭チームが初顔合わせし、各々に今年の杉コレにかける熱く、暑い思いを伝え合い、本審査会場も西都原古墳・鬼の窟周りと決定した!
「夜の杉コレで、篝火を焚いて作品を展示できないだろうか?」
「子供たちが参加できる杉コレにできないだろうか?」
「街なかと繋げる方法はないだろうか?」etc
西都杉コレのための実行チームが結成され、各々の立場で盛り上げる方法を考えよう!
早くもコーフン状態になりつつ、その日は解散した。うまく動きだしそうな良い感じだった。
   
  4月になったら、商店会のオクグチさんやホリさん、アラタニさんたちにも参加してもらい、一緒に議論しましょうと段取りしていた矢先、
あのとんでもない事件が起きてしまった!
宮崎口蹄疫事件である。
   
  ハマスナさんからは、ミーティングの無期延期が伝えられた。
西都市も大きな打撃を受け、全国ネットのニュースでは、「このままではゴーストタウンになってしまう・・・」と悲痛な表情で語る西都市長の姿が流された。
   
  杉コレ作品募集まで時間もなくなっていたが、口蹄疫対策に懸命な市役所や地元の皆さんに、連絡を取ることさえ憚られ、何も出来ぬまま、時間だけが経過していった。
   
   
  ●7月・杉コレ1次審査〜仕切りなおしへ
  事件発生から約3ヶ月、口蹄疫は終息へ向いつつあった。
杉コレは、東京で1次審査が行われ、10月末の本審査は予定通り開催が決定した。
ボクは思い切ってハマスナさんへ電話し、その後の西都の街や役所内の様子を伺ったり、杉コレが何とか街の元気再生のきっかけにできないか等を話し、もう一度仕切り直ししたい旨を申し出た。
「了解しました! お待ちしています」ハマスナさんはいつものようにニコヤカに応えてくれた。
信頼できる仲間がいることは本当に心強い。
   
   
  ●8月2日・西都市にて
  2次審査まであと3週間という段階で、やっと西都の皆さんに再会できた。
参加者は、西都木青会・皆川さん、池水さん、西都市・ホンブさん、ナカムラさん、コタニさん、ハマスナさんとツジの7名。
   
  杉コレ応募作品を市役所の皆さんに見てもらい、やっと杉コレがどのようなものであるか、子供たちの作品がどれほど輝いているかを理解していただいた。
そこからは話が早い。
この日の協議では、
   
 
1)
2次審査の日に街なかのギャラリー「夢たまご」を利用した杉コレ展示は、地元有志による祭り紹介と併設となる。どちらが強弱ではなく、杉パーテションなどを至急、木青会に用意して戴き、人々が興味をもって入りやすい雰囲気づくりをお願いする。 (杉パーテションは、今後も街なかで再利用し、さらに増殖させる!)
   
2)
2次審査以降、西都原「このはな館」で応募作品展示を予定しているが、それだけでは、街なかとのつながりが弱いため、西都商店街が以前から行っている「街かど美術館(各店舗前に「絵」などを展示する)」とリンクする方向で、西都市と商店街での協議をお願いする。
   
3)
夏祭り以降に「街かど美術館」で、「子供杉コレ応募作(コピー)」を展示できるようにする。 また1次審査応募で落選した全応募作品についても、西都のイメージを抱いて応募してくれた想いへの「西都からのお返し」から、全応募者へ「西都の街なかの元気再生の一端として、貴殿の応募作品を展示させてください!」と通知を出し、了解を得られた作品は「街かど美術館」や西都原「このはな館」で展示させてもらうこととする。また街なかで子供たちの作品が展示されている風景を写真に撮り、子供たちへプレゼントする!(杉コレ本選当日も街なかで展示できれば、子供たちは親を連れて見に来てくれるはず・・・)
   
4)
西都原「このはな館」と街なか「街かど美術館」では、相互に情報共有化と情報発信し、街中でも杉コレPRが伝わるようにする。
   
5)
「街なか美術館」での展示に先立ち、地元商店街のみなさんに、「杉コレ」とはどのようなものかを知って戴けるように、PR説明の機会を西都市仲介で作っていただく。
   
6)
杉コレをきっかけとした地域との連携で、もっと良い考え(お金を使わず、みんなで出来ること)を考えよう!
   
  そんなことが話し合われ、お互いの想いが共有された。
   
   
  2次審査会の作品展示ギャラリー前に出現した杉パーテション   商店会が以前から行っている「街なか美術館」 (子供杉コレ応募作品が展示される)
   
  そして、3週間後、伝説となりそうな2次審査会が開催され、三神が西都の地に降臨した!
   
 
   
   
 

●8月26日・商店会との会合

  皆川さんから深夜メイルが届いた。 『西都のまちなかの方々と、西都木青会8人全員での打ち合わせを行いました。 提案を受け、最良と思われる2案を決めました。
   
 
1)
「街なか美術館」というやり方で、商店街の各店が、一つの店に一つのイーゼルで、杉コレ子供応募作品を飾り各店が、1週間毎に絵を交換する。そして、その子供の学校にも、その事を連絡し、家族で西都の商店街に来てもらう。
また、杉コレ本番へ向け、西都の人たちへの興味を高めてもらう。
 
2)
審査会当日は、ミニチュア作品を、街なかのパオに飾り、西都原に着た見物客に、ついでに西都の街なかにも来てもらう。
そして、もう一つ要望として挙がったのが、杉コレ本番の翌日の朝、「30分で良いので、記紀の道終点の都萬神社と商店街とを結ぶ桜川遊歩道を、街なかの人達と審査員の先生方、西都市建設課の大人数で、ぞろぞろと歩いて貰い、今後どうすべきか、アドバイス頂けないか。」という事でした。全ての歯車が噛み合い始めてきて、いい感じになるかも・・・』
   
  このメイルを読んで、かなりホッとした!
ロスタイムはあったが、何とか本審査までには地元が盛り上がる仕組みが出来始めている。
   
   
  ●「杉コレクションでまちづくりが出来るのか?」
  8月初旬、海野さんのblog「海杉 木材コンシェルジュ」に問題提起がされていた。
2004年、最初に杉コレクションを仕掛けた海野さん曰く、
『杉コレがまちづくりになのか?というと答えは、NOです。
もともと、目的が違うのです。
杉コレクションは、「杉の普及」が一番です。
宮崎県は、杉の素材生産量が日本一と何年も叫んでいます。
ところが、誰も知らないのです。
そこで、知ってもらいたい人に情報を届ける意味で杉コレクションを立ち上げました。
(中略)
杉コレをまちづくりにしても構いませんが、目的を広げるとイベントが曖昧なものになる恐れがあります。ひとつのイベントや仕掛けで物事がうまくいくことはありません。
いくつもイベントをして、仕掛けをいくつも作ります』
http://blog.goo.ne.jp/umisugi/e/f208a2536fbc10f1ce798b88e7ebfadc
   
  日向、宮崎、都城、日南、そして西都でも、杉コレクションそのものでまちづくりが出来る訳ではないし、それは本末逆転だとボクも思う。
しかし、地域材である「杉」の存在を知ってもらい、杉の元に多様な人々が集まり、何かを始める“きっかけ”には、杉コレは十分なり得る。
日向では、木の芽会・建築士会の頑張りで、街なかの店舗にも杉材が使われるようになってきた。
日南油津も十日会・飫肥杉課の活躍で、街や商店街がスギダラケになりつつある。
都城も木青会や地域が何かと頑張っている。
どの街でも、単に杉材を使うだけではなく、「杉」を使うプロセスを楽しんでいる。
   
  「杉コレ」開催を通じて、地域の仲間の輪が拡がり、「杉コレ」が終わると、その輪をもっと愉しみ拡げたくなって、街をより良く、暮らしを愉しみたいという想いに繋がっていく。
南雲さんが先月号で書いていた“みんなで「公共精神」をもった地域づくり”にも繋がっていく。
公称・日本一の杉コレ・フリークの目には、6年かかって少しづつだが、そのような進むべき方向が見えてきたように映っている。
   
   
  ●いざ、西都へ
  今年の西都では、杉コレ史上初めての夜間開催、古代語がオフィシャル言語というだけでなく、
西都木青会8名のメンバーが、これまで余り接点のなかった市役所や商店会、地域そして全国の参加者と繋がり、杉コレを盛り上げていくことに意義がある。
イベント開催準備に追われ、追い込まれるとその意義が見失われがちになり、イベントの無事開催だけが目的になってしまう。
それだけでは、とてももったいない!
そのことにハマスナさんやホンブさんたちも気づいているからこそ、杉コレを応援してくれる!
   
  さぁ、受け入れ準備は整った!
後は、10月本選に全国から訪れる参加者が杉コレを愉しんでもらえる“仕掛け”を考えましょう!
西都の皆さん、どうぞヨロスギお願いします!
   
  ※10月30〜31日「杉コレクション2010・西都でExcite!」へ来られるスギダラの皆さんへ、
是非とも、西都原古墳の作品展示だけでなく、西都の街なかや桜川へも足を伸ばしてみて下さい。
そして、元気再生のために頑張っている西都、宮崎の人々と街に触れ合って下さい!
   
  最後になりますが、宮崎口蹄疫対策支援について宮崎県内のまちづくりに関わってきた有志によって義援金を去る6月に募らせて戴き、私が事務局を務めさせて戴いております。
スギダラ会員の皆さまからも数多くのご支援を戴きました。現在、発生源となってしまった川南町を中心に復興まちづくりが動き出しています。皆さまから戴いた篤い義援金は、これからの宮崎のまちづくりへ有意義に役立てて戴くよう、県担当者とも協議していく予定です。
この場をお借りして、心からの御礼とご報告をさせて戴きます。
本当に、ありがとうございました!
   
   
   
   
  ●<つじ・よしひこ> まちづくりプランナー
アトリエT-Plus建築・地域計画工房 代表 兼 宮崎大学大学院学生。東京都生まれ。
過去6回の杉コレクションに出没する公称・日本一の杉コレ・フリーク。
所属は 日本全国スギダラケ倶楽部 本部なのか、宮崎支部 東京駐在員なのか 未だ不明
   
 
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