連載
  スギと文学/その27 『天然誘接』 春と修羅 宮澤賢治より 1922〜23年
文/写真 石田紀佳
 
タイトルは天然誘接(てんねんよびつぎ)だが、詩には「天然誘接ではありません」とある
  接ぎ木の技術のひとつの「呼び接ぎ」は、穂木を元の植物から切り離さずに接ぐ方法。台木と穂木の一部を削いで、ふたつが癒着したら、穂木の根元側を切る。
   
 
   
  『天然誘接』
   
    北斎のはんのきの下で
    黄の風車まはるまはる
  いっぽんすぎは天然誘接ではありません
  槻と杉がいっしょに生えていっしょに育ち
  たうたう幹がくっついて
  険しい天光に立つというだけです
  鳥も棲んではゐますけれど
   
  (「校本 宮澤賢治全集 第2巻」筑摩書房 より)
   
 
   
  槻はケヤキかニレ科のエノキの古語。周囲の人々は「いっぽんすぎ」が槻とくっついているから、「天然誘接」といっていたのかもしれない。
  しかし「呼び接ぎ」だったら、どちらかの根元はなくなるし、どちらかが台木となるのだろうけど、「いっしょに生えていっしょに育ち」している。そして、鳥もいっしょに生きている。みっついっしょに生きている。
   
  では、最初の「北斎のはんのきの下で 黄の風車まはるまはる」というのはなんだろう。夢のような情景が浮かぶ。北斎が描いたハンノキの絵があるのかどうかわからないが、わたしは勝手に北斎風のなんとなくでこぼこしたハンノキを思いうかべる。そしてもしかしたら、ケルトの神話のハンノキとだぶっているのかもしれない。ハンノキは荒れ地に最初にはえる木で、根粒菌と共生するので土を、ある意味で豊かにする。妖精の国へつづく道しるべともされる。
  黄色い風車は妖精のしるしだろうか。
   
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
ソトコト(エスケープルートという2色刷りページ内)「plants and hands 草木と手仕事」連載中
   
 
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