連載
 

東京の杉を考える/第43話 「マヌケな人生」

文/ 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

今年のはじめ、つくづく自分が「マヌケな人生をおくっている」のだと、ぐさりと気持ちにつきささる発言を聞いた。ある本の取材で、高円寺にあるリサイクルショップを営むMさんに聞いた話だ。(ここで、それって、あの店、あの人だとピンとくる人も多いかもしれない)

おおよそ
「何十年もローンを組んで家を買うなんて、マヌケなことはしたくないよね」
「住んでいる場所に、自分がかかわらない、マヌケな人にはなりたくないよね」
というふたつの発言。
その発言は、ぼくに言ったことではないのだが、自分にピタリとあてはまった。そして、自分でもなんとかしたいと思っていたことだ。

「住む場所のために、お金を借りて、あくせく稼いで、家にあまり帰れない人」
「家がある地域とは、ほとんど関係ない生活をおくっている人」
ぼくは、そのふたつともあてはまる。もしかしたら、多くの人がどちらかにあてはまるのかもしれない。サラリーマンだとなおさらだ。

ぼくも21年間のサラリーマン生活の中では、このふたつがマヌケな人生だとは、考えたことがなかった。というか、そういう視点が抜け落ちていた。会社と家の往復、仕事中心の生活があたりまえになっていた。

5年前にせっかく会社を辞めたけど、あいかわらずローンは払い続けているし、自分の家の地域に関わることができないでいる。もちろん、広い意味では、多摩地域という広域では、地域に関わることができはじめている。23区内に出稼ぎに行く時間も、少しずつ減ってきている。

そろそろ、抜本的に、何かを変える必要に迫られている。家を売る。引っ越す。仕事と生活を変える。マヌケな人生を変えるためには、大きな決断が必要なのだろう。

最近、よく考えるようになったのは、半径1キロ以内ぐらいで、基本的な生活を組み立てたいということ。どうしたら、それが可能なのか考えている。農業や林業の一次産業に取り組むべきなのか、商店主として、地域振興に本腰をいれるべきなのか。

他にもいろんなやり方があるはずだ。しばらくの間、マヌケな人生をダッキャクするための試行錯誤が必要だろう。地に足のついた暮らし。住んでいる場所に関わる幸せ。なんだ、自分が求めていることって、単純なことだったんだとようやく気づいてきた。

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。
大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て、2004年独立。日用品、店、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
つくし文具店:http://www.tsu-ku-shi.net/
『東京の杉を考える』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_tokyo.htm
   
 
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