連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第9回 「新しい水平構面をつくる・その5」
文/写真 田原 賢
 

「杉の可能性を引き出す」木造建築の構造を、実例をもとに紹介していきます

 
*第5回 「新しい水平構面をつくる・その1」はこちら
 
*第6回 「新しい水平構面をつくる・その2」はこちら
 
*第7回 「新しい水平構面をつくる・その3」はこちら
 
*第8回 「新しい水平構面をつくる・その4」はこちら
   
  ●試験体(4) 米松(ドライビーム)の上 合板直貼り (落とし込み根太仕様)
   
  試験結果/8月29日
 
変形角
(rad)
荷重
(KN)
変位量
(mm)
破壊状況
1/600

{5}
4.55
合板のこすれる音が聞こえた
1/300

{7}
9.1
合板のズレが2mm程度みられた
釘の引抜による音が聞こえた
1/150
12
{10}
18.2
合板のズレが5mmになった
土台の割裂 中
1/100
14
{12}
27.3
土台の割裂 大
釘の引き抜き音が激しくなった
1/50
17
{14}
54.6
土台割裂が広がってきた
釘が合板へめり込んでいた
1/30
18
{14}
91
激しい釘のめり込み音
釘の引抜による合板のめくれが生じてきた
1/18
(MAX)
10
150
合板コーナー部の釘が抜けかかっていた
 
{ }内は引きの時の数値を示す
   
  試験状況(合板直貼り 落とし込み根太仕様)
   
   
  写真1 実験前全体状況
木造3階建てによく使われる仕様で、「剛床仕様」である。試験前に合板が浮いていないかをチェックした後に試験を行なった。上図のように合板は横張り仕様で CN50@150にて設置。
   
   
  写真2 実験前全体状況(裏側)
横張りなので横の受け材を優先し、根太を設置した。
  写真3 合板ずれ確認用のマーキング状況
合板のずれを確認するためのマーキングを行なった。
       
   
  写真4 合板ずれ確認用のマーキング状況
合板の変形をチェックするために試験体の裏面のコーナー部にマーキングを行なった。
  写真5 合板のずれ確認状況(1/300rad時)
合板のズレが1mm程度。
       
   
  写真6 合板のずれ確認状況(1/100rad時)
合板が10mm程度ずれているのがわかる。
  写真7 釘のめり込み状況(1/50rad時)
CN50釘が合板へめり込み、ずれ(抜け出しが生じている)を伴っていた。
       
     
  写真8 最大ストローク時の全体変形状況
合板のずれが50mm程になり、両側の梁材も曲げ変形を起こしているが、大きく破壊した箇所はなく、靱性(釘がズルズル抜けながら粘り)のある破壊であった。
   
   
 
   
  ●試験体(5) 杉(高知産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
   
  試験結果/8月29日
 
変形角
(rad)
荷重
(KN)
変位量
(mm)
破壊状況
1/600


{12}

4.55
板のこすれる音が聞こえた
1/300

13
{16}

9.1
ダボのめり込み音が時々した
1/150

21
{23}

18.2
HD金物が曲げ降伏しはじめた
ダボのめり込み音が激しくなった
1/100

27
{27}

27.3
板間のズレはほとんど見られなかった
端部の板に2mm程度の隙間が生じた
1/50

37
{35}

54.6
ダボの少ない所のめり込みが10mm程度みられた
ダボの多い所のめり込みは3mm程度みられた
1/30
{1/34}

44
{40}

91
{80}
ダボのめり込みは大きいが、耐力は上がっていた
HD金物が曲げ降伏により破断した
(MAX)

 

 

 

 
{ }内は引きの時の数値を示す
   
  試験状況(杉「高知産」厚板 せん断抵抗ダボ仕様)
   
   
  写真9 実験前全体状況
吉野産の杉よりよく乾燥していたため、板間の隙間はほとんど見られなかった。
  写真10 杉厚板ずれ確認用マーキング状況
試験体前面の数箇所に板ずれ確認用のマーキングを行なった。
       
   
  写真11 ホールダウン金物の曲げ降伏状況
(1/100rad時)

乾燥した杉材は、めり込み剛性も高く、吉野の杉材よりも硬い挙動であった。つまり、板材のズレは1/100rad程度ではあまり見受けられず、剛体回転による脚部浮上のため、ホールダウンが降伏した。
  写真12 杉板の浮き上がり状況(1/100rad時)
板材が2mm程浮き上がっているのがわかる。
       
   
  写真13 せん断抵抗ダボめり込み状況(1列6個)
(1/100rad→1/50rad)

1列に6個のダボが設置している箇所のずれは約3mm程度で、せん断力は6箇所に等分され、その分ダボのめり込みも少なかった。
  写真14 せん断抵抗ダボめり込み状況(1列4個)
(1/100rad→1/50rad)

1列に4個のダボが設置している箇所は10mmほどずれ、6箇所の列よりもダボに 1.5倍のせん断力が生じ、それが大きなめり込みとなって現れた。
       
   
  写真15 ホールダウン金物の破断直前の状況
(1/34rad時)

桧(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様と同様に、面全体が剛体回転し、ホールダウン金物が梁材にめり込むほど変形してしまい、溶接付近に亀裂が見られた。
  写真16 ホールダウン金物の破断直後の状況
(1/34rad時)

ホールダウン金物の破断以外では、脆性的な破壊が起きた箇所はないので、接合金物次第でもう少し耐力が期待できた。
つまり、構面が強ければそれだけ強力な接合金物が必要になることを念頭に入れておかなければ、このような脆性的な破壊を引き起こしてしまう。
   
  あまり強力な構面をつくるとこのようにHD金物が脆性的な破壊をするので、HD金物の強度をあまり過信しないようにし、合板直張りの片面張りがHD金物の限界だと思ったほうがよい。
HD金物がこのように脆性的な破壊を起こすのは、規格がJISではなく、溶接部や穴欠損部での信頼性が曖昧な規格で製作されているためである。
   
 
   
  次号は吉野産の杉とヒノキの実験結果です。乞うご期待。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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