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いろいろな樹木とその利用/第14回 「ニセアカシア(ハリエンジュ)」 

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
ニセアカシアにはなじみがなくても、その蜂蜜のほうにはなじみがあるかもしれません。
蜂蜜を取る花として大変有名ですが、蜂蜜のラベルには単に「アカシア」と書いてあります。実際には別に「アカシア」という樹木もあるので、その蜂蜜なのか?とも思いますが、ニセアカシアの蜂蜜が現在アカシア蜂蜜として流通しております。詳しくは本文で。
第14回目は「ニセアカシア」です。
   
 
   
 
  香りの良いニセアカシアの花(平成21年5月16日撮影)
   
  5月〜6月に長さ10〜15cmほどの総状花序の花が咲くニセアカシアは、日本在来種ではなく、北米原産で明治8年頃渡来したものですが、各地で野生化しています。植えられたものでは街路樹や土手、海岸防風林などで見かけますし、野性化したものも同じようなところに生えています。禿山の緑化に山地に植えられた例も多くあり、足尾銅山の緑化が有名です。
そんなニセアカシアですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
   
  ●薬用・食用に
  花は春から初夏に、つぼみのうちに花穂ごと採集して日干しにします。
樹皮は6〜8月ごろ採集して日干しにし、また、葉はそのままで使用。成分は、花はロビニン(血液浄化剤に用いる)、葉は配糖体アカシイン、根にはアスパラギン、メチオニンなどのアミノ酸を含みます。利尿や小さな傷の止血に使用します。
食用には、春の総状花序をてんぷらにして利用することもあります。
葉には他にも粗蛋白約20%を含むことから家畜飼料にも利用したようですが、人間が誤食すると中毒しますのでご注意ください。
   
  ●別名・方言
  明治初期に導入されたため、ほとんどバリエーションはなく、次の4つほどしかありません。
 
アカシア ・・・・ 導入当初の呼び名
ハリエンジュ ・・・・ 明治19年に松村任三博士が名づけた
ギゴウカン ・・・・ 擬合歓の意味でネムノキに類似しているため(ネムノキは合歓木と記す)
ゴムノキ ・・・・ ゴムのとれるアカシアである(間違い)として明治初年に宣伝されたため
   
 
  満開のニセアカシアの花(平成21年5月24日撮影)
   
  ●重要な蜜源植物
  蜂蜜を取るのに利用される植物は、トチノキ、レンゲ、クリ、サクラ類などが有名ですが、一番メジャーなのがニセアカシアです。
前述のとおり、ニセアカシアの蜂蜜はアカシア蜂蜜と呼ばれますが、ニセアカシアが明治時代に日本に導入されたときには単に「アカシア」と呼んでいたため、その名残でアカシアと称されているようです。
ニセアカシアは良い蜜を持ち、密質も上質であるので養蜂家に利用されていますが、このニセアカシアは前述のとおり外来樹種であり、やたらとはびこる性質があるため、様々なところで伐採されたり、根絶するための措置がとられたりしています。
良質な蜂蜜を取るために残しておくべきなのか、在来樹種を脅かす存在であるから除去すべきなのか、難しいところです。
   
  ●樹木の性質
  ニセアカシアと言えば「とげ」です。枝や細い幹にはとげがあり、うっかり触ると痛い思いをすることになります。でも私が見ているいろいろなとげ植物の中では比較的良いほう(?)だと思います。同じマメ科の「サイカチ」という樹木はとんでもなく鋭く長いとげを持っており、見るだけでぞっとする形状をしています。「ハリギリ」、「サンショウ」、「ハマナス」などもとげの量は多く、タラの芽で知られる「タラノキ」では葉にも鋭いとげが密生しています。それらに比べればニセアカシアは、タラノキやハリギリなどと違ってとげの間隔があいていて、葉にはありませんから、まだ「良い」ほうなのです。
  ニセアカシアは成長が非常に早いこと、土地要求度が少なく病虫害がほとんどないので、砂防植栽樹としてあるいは肥料木として植栽されますが、ほかの植物に化学的作用をして生育阻害をするアレロパシーという効果が認められ、ニセアカシアの近くには他の樹木が生育しにくくなっており、はびこる原因でもあります。また、根からの萌芽能力が高く、なかなか根絶やしにすることは困難です。うっかり変なところに植えてしまうと、とげはひどいし蔓延するし成長は早いしということで、後々大変困ることになりますので、植える際にはお気をつけください。
   
 
  ニセアカシアのとげ
   
  ●材の利用
  材が堅硬ですが割れやすい特徴があり、切削・加工・乾燥は困難で、心材の耐不朽性が極めて大きいという特徴があります。
耐不朽性から枕木、杭、支柱、帆柱に利用しました。
材が硬いことから、木釘、指物、車輛、包装に利用しました。
また、樹皮は軽く、耐水性があるのでその繊維を利用し、帽子、洋服心地、座布団、敷物材料とし、樹皮くずは壁紙に、花は芳香があるので香油原料にしました。
(「座布団」に使用したとのことですが、どんなものだったのか気になります。)
   
 
  樹皮は縦にひび割れができます。このぐらいになると、とげはなくなります。(平成21年5月24日撮影)
   
   
  【標準和名:ニセアカシア(ハリエンジュ) 学名:Robinia pseudoacacia LINN.】
   
   
 
   
  今月の一言
 

*編集部に毎月、原稿と一緒に送られてくる岩井さんの一言。原稿もいいけど、この一言もとてもいい!ということで、読者の皆さんへ、ご紹介させていただきます。(編集部)

  ニセアカシアの「ニセ」という名前がかわいそう(?)だと言う人がいます。でも学名にあるPSEUDO(ニセの)ACACIA(アカシア)の直訳なんで、やむを得ません。
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
   
 
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