連載
 

東京の杉を考える/第35話 「旭川にたりないもの」 

文/ 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

7月16日、17日、18日、ついにはじめての「旭川木工コミュニティキャンプ」が開かれた。東京から約25人、旭川から50人以上が参加して、予想以上の盛り上がりをみせた。

前回、勢いで「どうしたい にっぽんの木工デザイン」なんて、偉そうなことを書いたけど、この3日間で見えてきたことはなんだったのだろうか。東京からの参加者には、それなりに評判はよかったみたいだけど、次につなげるには何をしたらいいのだろうか。
頭の中は、まだまだ、ぐるぐると、回転を続けている。

とにかく旭川側のやる気と対応に、関心ばかりの東京組。木工の現場をひとつでも多くまわってもらおうと、3班に分かれて、30分〜40分で一社回るという過密スケジュール。夜は、夜で、食材にこだわったバーベキューと、ジンギスカンというもてなし。コテージに泊まって、夜遅くまで話はつきない。スギダラ秘伝の酔いもまわったところでの全員自己紹介も決行した。

17日の午前中は、「もりねっと」の陣内雄さんの案内で、長靴と長袖で森にはいり、森林の生態について、いろいろ話を聞いて、どの木を切ったらいいかをみんなで考え、実際に2本の木を間伐した。それは、リアリティのある貴重な体験だった。森の資源と木工との関係をきちんと考えるワークショップだった。

その夜は、ぼくの司会で「旭川のよいかたち」というテーマでトーク。直前まで、どうやって進行しようかと悩んだあげく、旭川と東京の人をペアにして、6組にこれから何をしたいのかを聞いた。今回のキャンプの経緯や、ものづくりについて、熱く冷静に語ってもらった。

その中で、とくに心にひびいたのは、「旭川には何かがたりない」という地元のモノづくりの女性。「それが発想なのか、とんち力なのか、他のところから見る視点なのか、異素材に対する興味なのか、それはわからないけど、とにかく何かがたりない」と感じていると言う。いったい何がたりないのだろう。

ぼく自身は、メーカーとデザイナーが向き合うのではなく、同じ目標をめざしていっしょに進んでいきたいと素直な意見を述べる。そして、ホストもゲストもないみんなが自分にできることをする「キャンプ」にしたかったこと。目標は、モノづくりを通じた「つくる人」と「つかう人」がいっしょに参加できる「コミュニティ」づくりにあることなど、この活動に対する想いをあらためて話をした。

既に旭川で仕事をしている人や、仕事をもってこのキャンプに参加している人もいて、さらには、こんな工場があるなら、つくるところがなくてストップしていた試作をつくれるのではと急いで図面を送ってもらっている人など、実際の動きにつながりやすいことも、魅力のひとつだった。

いつか旭川から東京に来てもらい、東京の暮らしや売り場を見てまわるような「東京デザインコミュニティキャンプ」も実現したいと思う。そうそう、来年の木工キャンプには、ぜひ、全国のスギダラ関係者にも参加してもらいたいなあ。

   
 
   
 

「もりねっと 特定非営利活動法人 森林再生ネットワーク北海道」
http://www.morinet-h.org/

「旭川木工コミュニティキャンプ」
http://www.mokkocamp.org/

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。
大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て、2004年独立。日用品、店、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
http://www.tsu-ku-shi.net/
   
 
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