特集"スギダラ秋の陣"vol1 「秋田デザイン会議&WS」

 
2008年10月12日(日)窓山の風土と文化、智恵を再現しよう
文 竹田純一
 
 
  私にとっての窓山は、
   
 

白神山地が世界自然遺産登録される前、幼稚園児だった息子に「シラカミさんちに行って来るね」と言ったら「どうしてそんな大きな荷物もって、隣のじいさんちに行くの?」と聞かれた。「え? あ! そうか! 白髪のおじさん家だと思ってるんだ……」。そんな息子も今では大学生になり、旅のサークルに入って「カンコウ行って来るね」と言う。「へえ? 大学の部活で観光とはね……」と言ったら、「関西との交流合宿。関交」だと。「交流ね。ほんとに部活なの?」とちゃかしたら「おやじだって訳の分からない交流してんじゃないの、シラカミさんちとか」と言われた。

   
  時代と共にうつろう窓山
   
 

16年前にはじめて訪れた窓山では、当時数世帯がマタギの暮らしをしていた。二ツ井町から白神山地へ向かうこと30分。里と白神山地が接する境に窓山集落がある。もう少し走れば、ブナ一面の森(この辺りでは標高600m以上はブナ中心)。この境にある窓山では、窓のように空いた盆地と盆地を取り巻くヤマと共生した暮らしが営まれている。人が自然に働きかけ拓いた窓が、窓山集落である。森に手を入れ、水を溜め、畦を積み、人は水田をつくった。5月になると農家は、いっせいに田に水をはり、窓山集落は、水の世界へと変わる。空から見つめる鳥にとっては、森の中に拓かれた鏡のように、空の青を映し出しているに違いない。季節の移ろいと共に、水田は色を変え、やがて、黄金の穂がたれる。そして収穫。また、雪が一面を覆い、白銀の世界となる。

   
 

窓の青が消えゆく前に

   
 

人の営みとは何か。色の移ろいに喩えるような、ただ美しい景観をつくりだしているだけではない。色の変化は、かつて正確に、暦どおりに繰り返され、人の所作は、自然の一部になっていた。窓山の溜池も水路も水田も、石積も、太陽が差し込む明るい林も、家屋敷の日陰も。人が自然に働きかけ共生してきた暮らしは、里の生き物の生息環境もつくりだしてきた。いったいどれだけの智恵が窓山にあるのか。厳しい条件の中で、人々が暮らしてきた場所だけに、窓の色をこのまま消して良いものか。一緒に考えてもらえる人はいないのか。そんな思いをもった人が窓山にいる。そんな思いのある人がいるから、息子から、訳の分からぬ コウリュウ といわれるが、そんな白神にあなたも来てみないか?

   
 
   
  窓山の色を取り戻す手法「地元学を一緒にやりましょう」
   
  <地元学とは?>
   
 

地元学を一口で言うと「足元の、あたりまえのすごさ」に気づくこと。窓山に暮らしていた人々の案内で、窓山の暮らし、文化、資源を再発見し、それを大切に育てながら持続的な地域づくりに生かしていこうとする活動です。

ゆっくり窓山を歩いて回り、自然環境、生態系、水環境、食文化、伝承など地域を見直していきます。そのとき大事になるのが、都市と比較して「アレがないコレがない」といった「ないものねだり」ではなく、地元の長所、お宝、「あるもの探し」へと発想を転換し、地域の価値を再発見していくことです。

   
  <「土」と「風」>
   
 

住民主体による地域の再発見という点で、地元学は「ふるさとマップ」づくりや地域ワークショップによく似ています。しかし、ここからが少し違ってきます。

地元学では、住民を「土の人」、住民の活動を「土の地元学」と呼んでいますが、それに加えてもう一つの要素「風の人」、「風の地元学」も重視しています。「風の人」とはその地元以外の、都市の人、学校の先生、専門家、NGOなどヨソ者をさします。

つまり地元学とは「地元のことを地元の人たちが、外の人たちの目や手を借りながらも自らの足と目と耳で調べ、考え、そして日々、生活文化を創造していく、その連続行為」です。

土の人と風の人は往々にして「視点(まなざし)」が違います。土の人が何とも思っていないこと、ものであっても、ヨソからきた風の人にとっては驚くことが少なくありません。たとえば薪で炊いたご飯。地元の人にとってたいしたことでなくても、都市の人からいわせれば「オー!」。

もちろん主役はその地域に住む土の人。風の人は地域再発見の視点やきっかけを提供し、「あるもの」を守り育てていく協力者、アドバイザーとなります。

しかし、窓山には、住民がいなくなってしまいました。さて、どうしましょう。一緒に考えませんか。

地元学の実施の細目は、モクネットの加藤さん、スギダラ秋田支部の菅原さんが詳細を調整してくれます。皆さん日程をあけて待っていて下さい。

   
   
   
  ●<たけだ じゅんいち> 里地ネットワーク事務局長  
里地ネットワーク http://satochi.net/
http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/081.html
   
   
 
 Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved