特集 杉道具 「暮らしをささえる杉の道具たち」

 
杉の器に出会って
文・写真/ 前原未希
 
 
  ふと新聞で目にした展示会のお知らせ。「杉の器展 小林俊雄」。数日前に、日南の飫肥杉をPRするための戦略会議に、幸運にも参加させていただいた直後だった。100年先を見据えた山作りをする林業家の方のお話を杉山で聞き、飫肥杉の魅力を熱く語る地元の人々の輪の中で、杉に対する興味がふつふつと沸いてきていたところだ。これは、行くしかない。
  小林俊雄・・・まさか、私の友人の父で、木で器をつくっているあの小林さんとは違う人よね〜と思って、行ってみると、そのまさかである。世間は、なんて狭いんだろう。
   
  展示会には、モミやネム、ケヤキ、クリなどの木材を使ったサラダボウルや箸、皿、碗などが並ぶ。その奥に、今回小林さんが初めて手がけた「杉モダン」があった。波打つような大胆な木目、持ったときの驚くほどの軽さと柔らかな優しい感触。木の成長が早く、木目が大きく、水分を多く含み柔らかく傷つきやすいため、加工がしにくいということで、杉は木工の世界では敬遠されてきた。しかし、その欠点とされていた木目を逆にダイナミックで美しい模様に、その柔らかさを皿や器として使っていける強さに変え、魔法をかけるのが、漆である。
  漆を何度も何度も塗ることにより、美しい木目が浮かび上がり、傷や水にも耐える強さを出せるのだ。漆だけでなく、柿渋や菜種油、ごま油、油煙(すす)を混ぜた漆などで、色の変化や同様の効果をもたらす。
   
  杉のテーブルウェア   杉で食事
  杉のテーブルウェア   杉で食事
       
  杉のサラダボウル   杉箸で食事
  杉のサラダボウル   杉箸で食事
       
  杉碗への道   麗しき杉碗
  杉碗への道   麗しき杉碗
   
  杉は、建築用材として使われるのが一般的で、テーブルウェアとして日常の暮らしの道具として登場することはあまりない。宮崎空港で毎年行われていた宮崎県産の杉を使用した「木をいかした家づくり展」に関わってきた小林さんにとって、住宅の骨組みなどで、構造体として隠れてしまっている杉を目に見える形で引き出したいという想いが、様々な形で杉の魅力を伝えるモノづくりにつながっていった。
   
  小林さんの作品は宮崎県の物産館で購入できる他、今後、新宿にある宮崎のアンテナショップの食堂の器としても登場していく予定だ。クラフトマンとして、加工技術とデザインによって、杉をきちんと使えるものへと形にしていくのが自分の仕事だと語る小林さん。現在、幼稚園の壁一面を、四角いタイル状の杉に漆を塗ったもの、塗らないままのものなどをパズルのように組み合わせて、珪藻土と共に埋め合わせていく面白い杉の楽しみ方も進行中だ。杉の魅力を引き出す漆も、できれば、宮崎で作ってはいけないか、7〜10年成長する漆の木を育てていき、その間に杉を加工する技術をしっかり学ぶ人が増えていく土壌づくりになればと新たな夢も語ってくれた。
   
  杉のタイル   杉のタイル3種
  杉のタイル   杉のタイル3種
   
  杉の道具といっても、その杉の道具を作るための道具をつくる職人さんもいなくなってきている。漆をこす和紙、人毛で作った漆を塗る刷毛など。山で木を育てる人、技術とデザインによってモノを作る人、販売する人、それを生活に取り入れる人、そんな循環の輪が少しでも乱れてしまえば、がたがたと崩れていき、失われていく文化の数々。杉の器が日常具として使われていくことにより、日々の食事のときに器を使いながらふと、山を思いやる気持ちや、自然の循環を少しでも感じていけるきっかけにはなるのではないだろうか。
   
   
   
  ●小林俊雄さんのプロフィール
   
 

[仕事略歴]
国際見本市「中小企業長官賞」受賞
アセアン諸国美術館「現代のクラフト巡回展」招待出品
九州クラフトデザイン展「岩田屋賞」受賞
富山プロダクトデザインコンペ「デザイン優秀賞」
全国木工ロクロ展招待出品
九州デザインコンペ「金賞受賞」
朝日現代クラフト展招待出品
デザインコンペ海南入賞
2003?2006 木をいかした家づくり空港展企画運営
2004シーガイア松泉宮の施設木工品デザイン製作

   
 

[工房]
日向美術工芸社
〒880-0871 宮崎県宮崎市大王町26
工房直通IP電話 050-3308-9726

   
   
 
 
 

●<まえばら・みき>
1984年宮崎生まれ。杉山を当たり前の風景として育つ。
エコとピースをキーワードにアクティブに動く大学4年生。

   
   
   
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